【魔法使いと孫】

エメラルド・エリュシオン


 飲み終えたコーラの瓶を投げ捨てたとして。その心無い誰かの行いを、長い年月をかけて海がビーチグラスとして浜辺にそっと置いていくように。


 現代科学では到底追いつけない遠きの技術は、彼らの手により今日もまた、翼なき者の翼になるために、世の中へとこの場所から生み出されていく。


 此処は不法投棄のスラム街。最新のが息づく、錆に塗れたエメラルド自由の楽園エリュシオン



 <魔法使い>オズ


 オズウェルド=イーストウッド。機構『Fairy-Powder』の開発者であり、またアメリカの頭脳集団シンクタンクOZの総括でもあり、カカシ、カレン両名の血の繋がった祖父でもある老人。【大強盗】はその敬意からチーム名をOZとしているのだが、やられた本人はもしかしたら嫌がらせと思ったりしたのではないか。


 頭脳集団OZというのは後世(メタく言うのなら本編・続編)にてFPボードやそれに類する品々の生みの親――俗に<魔法使いの弟子>と呼ばれる、オズと五人の高弟で構成された、文字通りを目的として活動していた/している連中のことである。


 ちなみに旧型フォルクスワーゲンにフェラーリのエンジンを積んでしまったり、移動要塞めいた重火器搭載をしたアメリカンバイクを改造設計してしまったりしたのはだいたいこいつらのせい。


 FPボードのメーカーは実質この五人が牛耳っている五社だけであり、その内四つのメーカーのFPボード製造場所がこのエメラルド・エリュシオンである。残りの一人と一社がどこでFPの生産、市場への流通を行っているかは現在不明とのこと。


 それが啓示であったのか、幼い頃の夢だったのかは定かではないが、オズ老人の目的は空へと向いた。それは、欧州貴族出身の男と、そこへ嫁いだ自身の娘の忘れ形見の翼になり、彼はいつしか自分のと世を賑わす最上級の賞金首になり、その活躍を耳にする度にため息を漏らすのだった。


」などと。


 ちなみにオズが代表を気取っているわけではないが、このスラム街はスラム街のナリをした治外法権であり、無作法者が踏み入ろうものなら最先端技術まほう杖先じゅうこうが一斉にそちらを向く、というたいへんおっかない場所である。



 <魔法使いの孫>カレン


 カレン=ジュリア=イーストウッド。あるいはカレン=ジュリア=ハイドロビュート。ハイドロビュート家の長女であり、カカシ――ランスロットとは二卵性の双子の片割れ同士である。そしてFP機構搭載型飛行艇HT2S――レイチェルのAIシステムの設計者であり、作中において<魔法使いの孫>とはカカシではなくカレンにかかるものである。


 いくつかのエピソードの頭に出てくる『LとK』のKの方。そもそものキャラ構築としてはKの方をとミスリードさせるためのものであり、その副産物として作った、という非常にメタいものがあります。


 ちなみに『空にしかなかった方』は、最初はカレンの方だったりもするんですよ。


 カカシとよく似た紅茶色の猫っ毛で、カレンの方が女の子らしく少し伸びているものの、身長はカカシの方がちょっと高く、カレンはドロシーと同程度。


 ……アルフォート家を巡る抗争に巻き込まれた日、生まれ育った家に火を放たれ、救命のためではなく、確実に命を奪うために屋敷に踏み込んできたマフィアたちを、幼い二人はベッドの下に隠れてやりすごそうとしていた。狭まった視界に映る大人たちの足元と、次いで、床を引きずられる母親の死体に、カレンは意識せずに悲鳴を上げてしまい、それが原因で彼女は命を拾って以降も、『声を出してはいけない』という強迫観念に苛まれ続けることとなる。カレンが自分で口に出しても良い、と思えるタイミングは双子の片割れであるランスロットの後であり、彼の口から出た言葉なら、という鸚鵡返しのような会話しか、口頭では行えなくなってしまっている。


 一方でそのもう片方の双子は、その瞬間を正しく認識していた。がカレンの悲鳴に二人が隠れている部屋を特定できてしまったことと、敵とは違う目的を持って、火の放たれた屋敷に踏み込んだもまた、その場所を見つけることができた、という事実を。


 幼い二人に最初に芽生えた些細なプライドは『どちらが先に生まれたか』という可愛らしいもの。幾度となくそれで答えのない喧嘩をし、それはカカシが名前を捨て、ジャックとしてまた一緒に過ごすようになった二年間も変わらなかった。



 ランスロットを舞台へと送り届けた帰りの空で、彼と彼女の愛機は一つの疑問を投げかける。


 ≪Pi。よろしかったのですか、マスター≫


 指先でならお喋りな双子の少女は、贈り物のハーモニカに唇を当てながら文字を打ち込む。


『だって、私の方がお姉ちゃんだもん。弟の背中を押すのは、姉の役目でしょ? レイチェル』


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