【鉄と火薬の魔女】

セシリアウィッチ=デュンゼ

 

 お好きな武器をお好きなだけ、お好きな時間にお好きな場所へお届けします。核弾頭と生物兵器の取り扱いはしておりませんのでご了承ください。ご注文はメール、FAX、その他通信媒体各種で受け付けております。


 直接のご来店のお客様には特別に、当店自慢の鉛弾をいたします。


 二番のミリオンダラー。『平和』から最も遠い場所に位置する、世界最大規模の武器商人。あらゆる事態の解決に『暴力』を以って当たる人々の為の切り札。


 プロト版との違いはその素性でしょうか。前日譚のエピソードの流れはそんなに変わりがないのですが、当時の冬春とはるは何も考えず『家に潰される魔女を書かなきゃ……』くらいで出力したので、武器売買を専門に取り扱うで登場しました。姐さんにして良かったと思っています。


 それと、プロト版の彼女には名前が無く、ついでに言うなら『FP嫌い』という設定も入っていました。更にはオチで本当に、OZのアジトに潰されてご臨終――というコミカルな最期があり、今思うとOZの連中はその後、老婆の死体を片付けずに暮らし続けるというなんかもう芸風が変わりそうな話になってるのではないか。


 強盗童話では他の何人かと同じように、書いている内に好きになって、またいつかの登場のために平和に退場してもらいました。カカシの貞操を狙う危険人物その1。地味に『あと十年』をきっちりとカウントしているあたりドロシー頑張れ。


 あと、本当にあまり知られていないどころかプロト版読者でさえ覚えていない、台詞の転用をここにそっと載せておきます。


 ドロシーの「殺すッ! 殺すッ! 何やってんのよアンタぁぁぁ!」


 という台詞は、プロト版の対アクター戦からこちらに引っ越したのです。


 ……さて。このセリシアウィッチ、という魔女は本編にそこまで名前が出てこないものの、語られない部分でとても重要な因子として書いています。


『前日譚』という枠が組まれているのがその辺に起因してますね。



 OZの四人が【大強盗】として名を馳せるよりも前。つまりは、その二つ名を得るきっかけになった前日譚。


 娘と息子が家を出る条件として、父親が出したある依頼が、そもそもの事の発端です。


 あまりにも力を持ちすぎた武器商人。世界の――国家兵力を除き――武器需要を独占している魔女の力をことを、アーサー=アルフォートは独り立ちの条件としてカカシとドロシーに提示しました。


 カカシは事の大きさを解っていたので凄まじく乗り気にならず、ドロシーは『ランスロットの欲しいもの』というのがとても気になっていたので即座に応じ、可愛い弟分と妹分がやるなら兄貴分は手伝うに決まってるよなあ、とレオが笑い、見ていられなかったスズがため息をついてそれに付き合った、という結果がロッソ・エ・ネーロでの一幕です。


 なので【鉄と火薬の魔女】のルートをひとつふたつ抑えてくれでもしたら合格、と想定していたアーサーはその結末に驚愕したことでしょう。


 文字通り魔女を、彼ら四人は当時空いていた八番の席にではなく、自ら奪い取った二番の席に座ってしまったのだから。そしてちゃっかり、そのとの交友も手に入れて。


 この、OZのコネにセシリアウィッチ=デュンゼがいるという事実は知る者が圧倒的に少数です。表向き引退している、かつて世界最大の武器商人が活動しているどころかその力を【大強盗】に――ビジネスであっても――貸しているという事態の大きさは、かの<最強>に煙草を落とさせるくらいには衝撃が強いものなのでした。


 /


「アタシの見立てに間違いはなかったようだね。良い男に育ったじゃあないか、坊や」


「ありがとう。でもまだコーヒーはブラックで飲めないよ。確認したい物があるんだ」


「どうぞ、お客様。あいにくとカタログはないけれど、まあ大抵の武器モノは揃えてあげられるよ」


「貴女の吸っている刻み煙草の銘柄を」


「……コーヒーは駄目で、煙草の味は覚えたって?」


「ううん。吸ってみたけどやっぱり煙草も駄目みたいだった。……背伸びのツケは、別の形で支払うんじゃないかな」


「なら、?」


「友人に贈り物をしたいんだ。子どもの僕には、貴女がアンティークキセルを吸っている姿が、ひどく格好良く映る。どうかな、セシリア。だから貴女のところから買うわけでないことを、どうか許して欲しい」


「ハッ! ……は間違いだったね。本当、良い男に育ったじゃあないか、ランスロット」

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