五番【パレード】
ルナ
見切り発車でプロットも何も用意していない設定集の書きおろしだがきっと、この項が一番長いであろう。なにせ十二人。濃度の差こそあれOZの三倍の人数のミリオンダラーであるのだから。
このミリオンダラーの五番【パレード】はシンデレラ=エンゲージの主役、蓮花寺灰音のために構築された団体。プロト版ではミリオンダラーの穴埋めに名前だけ入れておいた『
【首輪物語】と、それから色々あって本編【強盗童話】シリーズに何名か出ていますね。
彼女の
同時にルナはメインカメラを合わせると強盗童話のジャンルが変わってしまうタイプのイロモノ揃い。コンセプトはひたすらに「敵役・害悪」で。冬春的にそういう手合いは背景に悲しい何かや同情する部分とか、ほんと要らないんですよね。
倒した時に「やったー!」ってなるモノが、悪役として最高なのだと思います。そういう意味ではちょっと失敗か。華はあれども好かれては本末転倒なので。
こいつらをメインにしたら番外編でまた一本書けるのではないだろうか、と思う程度には、書いていてお気に入りになってしまったダークホース。実際『上海後進曲』は冬春の需要を補給する為に一部メンバーに出てきていただいたようなものですしおすし。
というわけで紹介に移ります。重要度ではなく、月順で。
人材派遣のパイオニア。<ハーメルン>とも呼ばれる十二人のサイコパス。
表向きの企業名は『マリオン古美術専門店』
アナタの需要にジャストフィット。『人体』のことならお任せください。
<白百合の旗>ジャンヌ=アリィ
一月。
ちょこっと本編中に触れられていたように、その異能は『声帯』から発せられる声。
カリスマ性ではなく、その声質で自身の意思を第三者に浸透させる煽動者の素質。
何らかの手段によって自意識を刈り取られた人々は、彼女の声に忠実に従う働き蜂となってしまうのであった。――その生き様が、聖女のそれではなかったとしても。
ジャンヌはそういった自分の声に脊髄で反応してしまう人間を、自分と同じようには認識できていない。言語を解し、二つの脚で歩く、二つの手を持った生物。その姿形がどこまでも自分と同じであっても、違うものとして認識している。
『それで良い』と彼女に言った人物と、後にその人物が率いることになった、世界中に溢れたその生物からすれば随分と少ない人数の仲間だけが、ジャンヌ=アリィにとっての人間だった。
<団長>グノーツ=フェブラリィ
二月。【パレード】ルナの団長にして【マリオン古美術専門店】社長にして、彼らが関わる全ての元凶。人体をこよなく愛する心の広い人物であるが、同時に彼は人間を同じレベルで愛していない。
蓮花寺灰音を人格的に消し去ったあの機械の基礎理論を構築したのもこいつ。世が世であり、選んだ道が道なら【魔法使い】と同じくらいの偉業として世界に名を馳せたであろうが、どっこい彼にはそんなことに興味はなかったのである。
冬春的に、ちょくちょく言われる『サイコパスは頭が良い』というアレの解釈として、逆説的に『頭が良くなければ淘汰される』という持論で書いているのでした。
社会性の生物、人間はことさら同じ社会の『異物』に敏感であるので。まずそこに適応することを覚えなければ排除されてしまう。どれほど他者に共感が持てなくても、挨拶から表情、様々なモノを駆使して現代社会に溶け込む。普通の人々が普通に行うそれらを、優れた知性と壊れた理性で模倣する。
それだけなら、彼も人体研究を日々やっていれば充実した単独犯として、何かのきっかけで狩ったり狩られなかったりしたのだろうけれど。困ったことに彼にはひとつの才能があり、さらに困ったことにそれを活かせる人物と巡り逢ってしまった。
ジャンヌのそれとは違い、グノーツの素質はカリスマ性である。
それも、一般人ではなく彼と同じような人物に対しての。
かくして彼は彼らとなって、彼らの欲求を多方面から満たせる群体となった。
最初は真似事。それでも、どれほど社会から乖離していても、きっと憧れがあったのだろう。歯車の狂った笛吹き男が率いる十一人を振り返った時、彼には彼らが『家族』に見えていた。趣味嗜好がそれぞれ異なるルナの共通認識がそれであったことを、当たり前のこととして意識しないまま、グノーツ=フェブラリィは舞台を降りる。
困ったことにきちんと「もう出番ねえから!」と念入りに殺害しておかないとひょっこり出てくる可能性を持っている奴なので念入りに殺害した弓くんナイス。作者が安心できない。
<ミックスマン>
三月。最近になって「参」を「匹」にして苗字を「
【パレード】がパレードしているのはだいたいこいつのせいな振動分子愛好家。メイちゃんの異能を解析し、初見絶対殺すフィールド展開を可能にしてしまった駄目な奴。何か欠けたらルナのルナっぷりが機能しなくなるあたりよくできてんなーと思いますが。
顔に刺青入れてたり、たぶん見た目でヤバい奴判定がいけるんですが普通に戦闘できなくて喧嘩も弱い。ジャンヌのことは性格とか含めて嫌いだけどその声だけは大好きなので複雑な感情を持て余している。
マガルに限った話ではなく全体の共通項として、この十二人には誰一人として『殺人快楽性』はいない。たまたま、多くの状況において『対象が死んでいなければならない』だけで、真っ当に生きていてくれる分には問題がないとか。
マガルにとって一番安心できるリズムは60秒に20回の心音。ジャンヌに「三分の一まで心音下げてオレを抱きしめて!」と告白するも無視される毎日を送っている。
ルナの中でうっかり二回トドメを刺される描写が入ってしまう可哀相な奴でもある。
<嘘を吐く日>
四月。名前の作り方は四月→エイプリルフール→エイプ(猿)フール(愚か者)とかそんな感じ。本編未登場。パレード時には最後尾を務める戦闘要員。つまりシンデレラ=エンゲージのラストでは最初にブラックさんにやられたであろう可哀相な奴。
名前とは裏腹にあんまり嘘を吐かない。写真を撮ったりするのが大嫌いなくせに、両手の親指と人差し指でフレームを作って景色をその中に収めるのが好き。業務的に殺害をするくせにそれはちっとも楽しいわけではなく、かと言ってではそれが辛いのかと聞かれてもまったくそうも思えない。オロカは典型的なタイプで、庭に生えた雑草が邪魔なので刈るのと同じ視点で邪魔になった人間を殺す。その人間に由来する煩わしさを、取ってしまえばもう出てこない、という感性から。
なので意外だったのである。その彼の人格から『同じ人間』に見えたグノーツも、彼が集めた家族たちを『邪魔』と思った時に『刈る』という意識が湧かなかった自分にも。
<袋小路の歌>メイ
五月。ルナ生存組。服の趣味はメイちゃんではなく装飾担当の人がメイちゃんを着飾ったため。ゴスロリ童女。無垢ではあるが無邪気ではない、のがポイント。
ルナが都市伝説のミリオンダラーになった最大要因のひとり。その異質な精神疾病は『無意識下で自分の身体の部位を欠損する』というもの。その原因を排除し、ちぐはぐだが『家族』として迎え入れたのがグノーツ=フェブラリィであり、それを『長所』として解析し、異能にまで進化させたのが
メイちゃんだけがおそらく、真っ当ではないがかろうじて逸脱をしていない人格の持ち主であり、最初から生存を予定していた子でもある。これは、物書きとしてはアウトな信条かもしれないけれど、冬春は幼い子を殺すことやひどいことができないので。これから書く物語に、幼女や幼児のたぐいが出てきた場合、その子は死なないと思って大丈夫です。そこからすると少しだけ、この子はギリギリ判定である。
自己防衛本能から、メイは『痛い場所』が無くなれば痛くない、という結論に達した。だが、もうその時点では身体中、痛くされない場所なんて無かった。
その後、この娘にとっての『家族』というのはルナの十一人であり、彼らが行っていることは世間的に『悪い事』であることは良く解っていたりもした。ただ、彼女にも優先順位が当たり前に存在する。良い事をするどこかの知らない誰かよりも、悪い事をする、良く知った家族なら彼女は家族を優先しただけ。
それが上海後進曲に繋がる。さて、描写されてなかったこの人形のような美童女は日本人であり、髪型は蓮花寺灰音と同じである。
それが起因しているかどうかはさておき、圭一くんは頑張ったのだろうなあ。
喜怒哀楽を表情に出すことをできない、心より先に表情筋が死んでしまった要介護系童女が笑う日は来るのでしょうか。
なお、グノーツが彼女を引き取ったのは『収穫』のついでであり、とりあえずメンバーの前に出した時、『うわぁ』と幼女を連れてきた団長に(珍しく)ドン引きした彼等に対して彼が咄嗟に出した言葉が「この子はそう、そう! 我輩の
という一幕が彼女の新しい名前の由来になったのはオフレコでお願いします。
<パラソル>
六月。JUNEから。最後尾の運転手兼、システム構築担当。テキストくんと仲が良かったのだが彼がネット及びソフトウェアに対してジュンの方はハードウェア担当。グノーツの持っていたあの機械を作ったのがコイツ。あと色々なモノも作っている。
球体間接フェチであり、人体の間接がどうしようもなく気に食わない。みんなドールになればいいのに。試してみたら駄目でした。
アバターとしてのテキストくんの傘はジュンの形見としてコンバートしたもの。おかげさまで雨合羽プラス傘とかいう台風現場のリポーターみたいになってしまっている。
<レイニィ>
七月。ルナ生存組。事務、プログラム担当。書いてみたら一気にお気に入りになってしまった奴。七月→文月→テキスト。
最終話でのアヤ=ハイドラジアも同じ。
ルナに貴重な常人精神持ち。性嗜好は『頭部のない女性』。無個性さん大好き。服屋の首のないタイプのマネキンにイイネをつけまくるタイプ。およそ構成メンバー唯一の特例として、グノーツ経由ではなくディッセン経由で入社した人物であり、世界屈指のハッカーで
ネット環境に没入しているのは先の趣味が理由のひとつに挙げられる。現実にそんな存在はいないからである。そして、だが可能性としてルナならばそれを現実にできてしまうのではないか、というロマンを求めて一員になってしまったものの、上海後進曲で言われている通りこいつらは駄目だ、まったく社会企業をわかってねえや! というわけで殺害はされなかったものの今日も元気に業務に忙殺されるのであった。
異世界転生とかして行き先が真っ当なファンタジー世界だったら人生勝ち組まった無しの趣味嗜好。デュラハン(♀)に対して全ての力を費やして攻略に走るであろう。
紫陽花テキストは色々と楽観的で理性的でもあり、また常人的でもあるが実はそれは処世術であって、人間の『表情』というものを認識できない。視覚的に問題はないが、それを受信した時点で、その人物の表情と感情を一致させられない疎外感、とでも言おうか。
なので逆に、感情が表情に一切あらわれないメイちゃんなんかとは意思の疎通が容易であり、それは寧ろテキストくん的に「当たり前」のこととして安心できるのであった。
また死生観もだいぶドライであり、それまで仲良くしていた人物(=ルナ)の死別に関しても「まーこんだけ悪い事したならしゃーないっしょー」くらいで割り切ってしまう。もしくは、割り切ってしまえる。結果を重要視しないのではないが、どのような結果であれ受け止めて次に行く、という、マジモンの逸脱した理性で動くこれはこれでおかしいタイプの苦労人。
その人格の顕現が、オリジナルプログラム。その名も<レイニィ>である。
『新規構築を大量生産する』というバカジャネーノ的なそれは、可視化したネット世界において0と1で表現された『雨』そのものであり、降り注いだ雨の作るものが最終的に湖なのかとかはあまり考えない。その埒外の度合いはこの話でたとえるのなら、かの【人魚姫】にも行えない偉業である、と言えば良いでしょうか。
現実で斬った張ったをする度胸はないけれど、自分の『場』に命を置くことのできる
<緑の小人>
八月。旧暦の葉月から。女性。装飾全般担当。未登場だが冬春的にルナのイチオシ。チャイナガールですよチャイナガール。
自分には似合わないからと言い、メイちゃんをゴスロリに仕立て上げた大罪人(勲章)。パレードがパレードする際の電飾、その時々でメンバーの服なんかもコーディネートしたりするひと。オーダーさえ入れば人皮製の服とかも作ってしまうあたりこの人もだいぶアレなうえに、本人の性嗜好は
ただ、困ったことに意思の一方通行が良いから、というものでもなく『死んだまま愛して欲しい』くらい我侭なのでこのお姉さんの人生もままならない。あと生きられててもやっぱり嫌なのでままならない。
唯一、何故だか本人も対象もその理由に行きついていないものの、生きている人間としてディッセンさんに惚れていたがここでも問題が発生していた。彼の趣味もアレである。しかも紛い物は駄目ときた。ユェさん可哀想。
<コック>
九月。調理、下ごしらえ担当。また戦闘要員の一人でもあり、お仕事の際はゴム製のツナギ前掛けを着けている。魚市場なんか行くと見れますよ。
ルナの食事をきちんと作ってくれるコックさんな傍ら、食材としての需要に対応するひと。たとえばソーセージなど、調理した部位を全て人体に戻して最終的に開くとお料理が! とかいう離れ業も会得している。
かくいう彼は食人嗜好まったくないのである。ただ、地上に溢れかえったその動物が、彼には数に対して需要の少ないものの、一流の食材として映っているだけ。
『美味しそうだな』ではなく『美味しくできそうだな』という感性。
<踊る正中線>
十月。オクトーバーから。
何を隠そう、シンデレラ=エンゲージを書くにあたってルナの再構築を考え、一番最初に名前をつけ、浮かんだキャラクターである。そしてルナの中で一番最初に登場。だからこそ、わかりやすい感じに作った奴でもある。
目標と挫折が急ペースで訪れる愉快な性格をしており、将来の夢がちょくちょく変わる。登場時はサッカー選手を夢見ていた。だが痛いので駄目らしい。
前述にもあった『殺人快楽性ではない』はオクトにも適用される。彼は鼻歌まじりに人体をバラして部位ごとに分けて格納することが仕事だが、それはやっぱり彼の仕事という認識であり、人を殺害することに快楽があるわけではない。
どちらかと言うのならばそれは『達成感』の為にやっていることで、彼は何かしらの成果、というものに憧れを持っている節がある。あれができたら、きっとガッツポーズできるだろう、みたいに。なので目指すものがころころと変わり、また何かの躓きで「やっぱだめだ!」となってしまう。だが運動性に関してはわかりやすい天才で、今のところこの仕事がとても上手にできているから続いている、という感じ。
<ティファニーで休息を>ノーヴェ=ルッシ
十一月。英語のNovemberから。ルナ生存組。メイちゃんの執事。
彼の
元々はルナが収穫した『商品』のひとつであり、日常生活に不具合が出まくるメイちゃんの為に、その全てをメイちゃんのお世話に設定された人物である。
基本的に無口で、その無口っぷりは上海後進曲で名前と動向くらいしか登場していないレベルである。
他者への洞察の全てをメイちゃんの一挙手一投足に費やしており、彼女の『部位欠損』に対して予知先制めいた反応でそれを支える事を可能としている。
この二人の関係はちょっと歪で、ともすれば少しだけ美しい依存の在り方だと思う。
メイちゃんはノーヴェが居なければ生きていけない。ノーヴェはメイちゃんがいなければ生きている意味を失ってしまう。
さて、そんなノーヴェだが上海後進曲に至るまでに圭一くんにちょっとした役割を奪われてしまいそこそこ大変な感じであったとかなかったとか。それでも、自分が仕える主が、人間として動き始めたことに慶びもあったのかもしれない。そういった機能が設定されていなくとも、圭一くんに懐くメイちゃんに落ち込みはすれど彼をまったく恨まなかったあたり。
<
十二月。Decemberから。ルナ生存組。作者のお気に入り。
【パレード】ルナ副団長にして【マリオン古美術専門店】副社長。テキストくんと並んで激務に追われる笑顔の苦労人。
そしてお気づきだろうが、全ての黒幕でもある。
こいつがグノーツに身の振り方を提案しなければ【パレード】は発生せず、あの夜に『彼』を隠匿していなければその生存と未来は訪れず、その後に後始末めいた上海後進曲のエピソードも発生せず、最終話で人魚姫は走らなかったであろう。なんだこいつ。
同時にFPライダーのプロでもあり、後述のエル、ジーナと並んで当時数少ない『大人ライダー』の一人でもあった。登録ネームがそのまま『ラストフライト』。
「実力はお二方と比べるまでもなく劣っていますが」とは本人の弁だがどっこい、こいつのFPボードの機構についての造詣はとんでもなく深く、どういった理論であのボードが走空するかを熟知したうえで無人のまま多数のボードを飛行させるということが可能。
そもそも空を目指した理由が、彼のルナのメンバーたる理由と一致している。彼の女性嗜好は『背に翼があること』。ハーピーは駄目です、アレは両手が翼になっているので。
グノーツとは言わずもがな、テキストくんとは旧知の仲であり、彼をルナに加えたのもディッセンさん。お互いの趣味はよく理解しているがまったく共感できねーわーと二人でゲラゲラ笑っている。
黒幕ではあるが、同時にとんでもなく腰の重い受動型の人格でもある。ただ、それを能動的にするのが彼にとっての『家族』であり、上海後進曲、そして最終話での行動でもある。きっと、欲しかったのは些細なモノだったのだろう。
感情のある自分、ではなく『感情を向けられる誰か』の為に動ける自分を、きっとこいつは大好きなのだろう。
フレームに納まっていなければ起動しない、需要がなければ発生しない精神。高ぶらない心と、低い体温。それでも問えば『応えてくれる』、そして認めた相手のためならば『先んじて動く』。
それがジャンヌにとっての『人間』であり、またユェが慕う『死体』の理由であった事を、きっと自分への評価をしないディッセンさんは知らないままであっただろう。
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