第7話 館林明【サイコキネシス】2

 学校に着き、教室の前に来た明は溜息ためいきをつきながら3-1と書かれた教室に入っていく。


 明が教室内に入るとひそひそ声が周りから聞こえてくる。


「今日もちゃんと来てるよ…」

「全く…来なけれりゃあいつらも俺らのクラスであんなことしないだろうに…」


 チラチラと明を見ながら話をしているが、誰一人として明には話しかけようとはしない。


「…今日も…か…」


 机を見ながら明が呟く。机には悪戯いたずら書きのようなものがあるが、書かれすぎで何を書いてあるのかは上手く読み取れない。目をこらすと『死ね眼鏡!』『もやしは帰れ』などと書いてあるように見える。



典型的なである。



 明は机の落書きを無視し、椅子を引いて座ろうとするが、椅子の上には大量の画鋲がびょうが上向きで置かれており、とても座れる状態ではない。


 どうやって片付ければ良いのだろうか…明が考えていたその時であった、一人の少年が背後から明に話しかける。


「よう!明!おはよう……って…またやられてるのか……」

「あ…ライト君…」


 声の主は篠崎ライトという明の唯一の親友であった。


「おい!これやった奴!誰だ⁈」


 ライトがクラスにいる生徒に大声で問いかける。すると


「お、俺たちじゃねぇよ!や、やったのは東野ひがしの達だ…」


 スポーツ刈りの少年がそう答える。


「くそっ…また、3組のあいつらか…」


 ライトはそう言うと舌を鳴らし、教室を出て行こうとする。


「ま、待ってよライト君!……い、行っちゃダメだ…」


 ライトが何処へ行こうとしているのかに気付き、明がそう言うと


「こんなの間違ってるだろ…!ほぼ毎日だろ⁈一発入れなきゃ気がすまない!それは明、お前もだろ…やられてるのはお前なんだぞ⁉︎」


 と、ライトは明の制止に従わず、3組へ向かおうとする。


「ま、待ってよ…き、君が暴力沙汰でまた停学にでもなったら…ぼ、僕だって困るんだ!」


 明がそう叫ぶとライトの足が止まる。


「そ、それよりも…画鋲取るの手伝ってくれない…?ひ、一人じゃ大変そうだから…さ…」

「……………分かったよ、お前がそう言うなら…」


 ライトはそう言うと、明の方へと向かっていき椅子から画鋲をつまみとる。


「あ、ありがとう…」


 明はそう言うと、自分でも画鋲を摘み、椅子から取り除いていく。


 画鋲を全て取り除くと、おもむろに明が口を開く。


「ライト君…いつもありがとう…けど、僕…頑張って…さ…」

「え?やるって何を…」


 キーンコーンカーンコーン……


 ライトがそう言いかけると朝の鐘が鳴りはじめる。


「ありがとうライト君、もう座れるから…ライト君も席につきなよ」

「え…?あ、おう…」


 そう言うと、ライトは自分の席へと向かって歩いていく。


 その後ろ姿を見ながら明は


「君みたいに…君みたいに強くなるから…」


 そう呟いた。


 *


 3時間目終了のチャイムが鳴ると、明の元にライトが訪れる。


「なあ、明…やっぱりもっとちゃんと先生に言わないか?何かしら対策はしてくれるかもしれないし…そうだ!なんならビデオカメラとか設置してそれを証拠に…」

「ごめん!昼休みは外せない用事があるんだ!」


 明がライトの言葉を遮るようにそう言い、椅子から立ち上がる。


「そ…そうか……カツアゲとかじゃないよな?」

「…ははは、違うよ…先生に呼ばれたんだ。もしかしたら何かしら対策をとってくれるのかもしれないよ」


 そう言いながら明は微笑する。


「そうなのか?だったら俺も…」

「いや、いいよ僕一人で行く…これは僕の問題だしさ」

「そ、そうか…」


 ライトが不安そうな顔で明の顔を見る。


「大丈夫!すぐに帰っくるから、教室で待っててよ」


 明はそう言うと、廊下の方へと歩いていく。


「おう…じゃあ待ってる…」


 ライトが不安な声を漏らすが、その時にはすでに明の姿は見えなくなっていた。


 *


 ライトには先生に呼ばれていると言ったが、明は体育館裏に向かっていた。


「ごめんね…ライト君…」


 下駄箱から自分の外履きを出しながら明が呟く。


 外履きを履き、内履きを下駄箱に入れると、ライトは体育館裏を目指し歩き始める。


 重い足取りで歩いて行き、体育館裏に着くと、そこにはすでに平林を含めた5人のガラの悪そうな生徒がいた。


「おお、来たなヒョロ眼鏡!んじゃ、早速納金しろよ?」


 そう言うと、平林が右手の指と指を擦り合わせ、金を渡すように明に促す。


「…さ…ない」

「……?なんか言ったかヒョロ眼鏡!」


 平林が下を向いている明を睨みつける。すると、明は顔を上げ


「絶対に…!わ、渡さない!」


 と、悲鳴にも似た声で叫ぶ。


「は?なになになになに?逆らうの?逆らっちゃうのかな?……ヒョロ眼鏡ぇ‼︎」


 平林が立ち上がり、明の方へと向かっていく。


「てめぇ!もういっぺん言ってみろ!」


 そう言うと、平林は明の胸ぐらを掴もうとする。しかし、掴もうとした手は明には届かず、空を切る。


 いや、というよりも手だけではなくが横に吹っ飛んでいく。


 急な出来事に、座っていた他の4人が立ち上がる。


「おめぇ!平林になにしやがった!」

「ブチ殺すぞ⁉︎ヒョロ眼鏡がぁ‼︎」

「てめぇ⁈何か武器持ってやがるのか⁉︎それならこっちも考えがあるぞ!」

「今更、謝ったっておせぇからな!ぶっ殺してやる!」


 次々と明に向かって罵声が浴びせられていく。


 そして、4人は明に飛びかかる。しかし、4人は明がいる場所とは違う、それぞれ別の方向へと吹き飛んでいく。


「ぐぁっ⁉︎」

「がっ……⁉︎」

「ぎぃ…⁉︎」

「ぐふっ…⁈」


 4人はそれぞれ壁にぶち当たり、驚きの声を漏らす。


「はは…やっぱり凄いや…この


 明は笑いながらそう言うと、吹き飛んだ男達を睨みつける。


「丁度いいや…4人いるんだから…四肢のそれぞれ別の場所折れる…ね?平林君、君は特に僕に絡んでくれたから全て折ってあげるね…」


 明がそう言うと、吹き飛んだ中の1人の右腕が曲がってはいけない方向へとボゴンッと音を立てながら曲がる。


「ぐ、ぐぁぁぁぁぁ!!!!」


 右腕を曲げられた少年が叫び声をあげる。


「お、おい⁉︎その腕どうした⁉︎大丈夫……がぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」


 今度は声をかけた少年の右脚が関節とは逆方向に曲がる。


「はぁ…はぁ…や、やめ…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!」


 1人の少年が明にめるように左腕を上げて頼むが、その左腕は自分を指すように反対方向に曲がっていく。


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!………ゆ、許してくれがぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」


 謝罪をする少年の左脚も明は容赦なく折る。


「ははは…今更謝っても遅いよ…そして、最後は…」


 明が平林の方を見る。


「お、おい…や、やめろって?な?ほら!今まで貰った金は全て返す!だから…だから!」


 平林が泣きながら明に懇願する。



 しかし、明は聞き入れない。


「金も…謝罪も…何もいらない…だからその代わり…


 微笑し、明がそう言うと、平林の右腕がねじ曲がり、そして折れる。


「がぁぁぁぁ!!!!!!」

「……まだまだ足りないね」


 笑った顔のまま、明は平林の右脚を見て、それを折る。


「ぐっがぁぁぁぁ!!!!や、やめぇ‼︎」

「次、左腕…」


 左腕もねじ曲がり、ボゴンッと音を立て折れる。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!!も…ぁぁぁぁ…やべ……で…」

「最後…、左脚」

「やめぇぇぇぇぇぇぐぎぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!…が………」


 最後に左脚も折られると、その激痛に耐え切れず平林の意識が無くなる。


「あぁ…ちゃんと苦しんでって言ったのに…けど、まあとりあえずはいいか……な」


 冷たい目で平林にそう吐き捨てると、明は校舎裏を後にした。

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