第6話 館林明【サイコキネシス】1
崩壊する校舎、その校舎の屋上では2人の少年が対峙している。
「お、お前…どうしちまったんだよ?」
男にしては少し長い黒髪をした少年が問いかける。
「どうしたって…?分かっちゃったんだよ…残念なことに彼等の気持ちがね、確かに圧倒的な力で人を見下すのは気持ちがいい」
眼鏡をかけた茶髪の少年がそう答える。
「何言ってんだよお前⁈どうやって、こんな…こんなこと!」
「ははは…ライト君、僕は力を手に入れたんだよ!アリスさんが僕に力を与えてくれた!君を巻き込みたくは無いんだ、悪いけど…君とはここでさよならだ…」
眼鏡の少年がそう言うと、屋上が2人を境に割れだし、ライトが床ごと落下していく。
落下していくなか、ライトは眼鏡の少年の名前を叫ぶ。
「
*
レンガが連なる外装のその店は、看板に『喫茶店Marionette』と書かれている。
「ここ…かな」
明はそう呟くと、一風変わった赤い扉に近づいていく。
そしてその扉を開け、中に入ると、1人の少女が明の前に現れる。
「いらっしゃいませ、ようこそ『Marionette』へ」
少女は笑顔で明に軽くお辞儀をする。
その笑顔や容姿はまるで、美しい人形のようである。
「ど…どうも、あの…ここにアリスさんという方はいますか…?」
「ふふふ…
少女は笑いながら自分の名前を口にする。
「あ…!えっと、手紙を見て来たのですが…」
「ふふふふ…でしたらあちらの部屋にお入りくださいまし」
そう言うとアリスは紫色のドアを右手を広げて
「は、はい…」
明は恐る恐る紫色のドアへと近づいていき、そのドアノブを回す。
ドアを開け、明の目に入ってきたのは、トランプの壁紙が一面に貼られている、何とも奇妙な空間であった。
「う、うわぁ…すごい」
思わず声が漏れる明に対しアリスは
「ふふふ…そこの椅子に座ってくださいまし」
と言って手前の椅子を指差す。
明は指示どうりに椅子に座ると、部屋をゆっくりと眺める。
アリスはテーブルを挟んだ明の向かいの椅子に座ると、口を開き
「それで?能力が欲しいんですの?」
と言った。それに対して明はアリスの方を向くと視線を落とし
「あ、あの…そのことで来た…つもりです」
と答える。
「で、でも本当なんですか?能力って?それも望んでいるものなんて…」
相変わらず視線を落としたままの明はチラチラとアリスの顔を見ながら問いかける。
「ええ…ちなみにお聞きしたいのですが、どんな能力をご所望で?」
「……た、例えばなんですが…自分を守れるような…自分より強い相手でも倒すことが出来る…そ、そんな能力が欲しい…です」
「なるほど、それでしたら…」
アリスが右手人差し指を立て自分の唇に重ねる。
「『サイコキネシス』というのはいかがでして?」
その能力を聞いた明は顔を上げ、目を丸くする。
「『サイコキネシス』!そ、それって…あの触れずに物を動かしたり、壊したりするアレ…ですか⁈」
「はい、そのイメージでよろしいと思いますわ」
今日一番の食いつきを見せる明に向かってアリスは冷静に、そして笑顔で答える。
「もし…もしもそれが本当であれば、とても魅力的な話では…ありますね」
「ふふふふ、もちろん本当ですわよ?ですが、能力を差し上げるに当たって2つ、注意がありますわ」
「ふ、2つ?」
明が首を傾げる。
「ええ、まず1つ目は、能力は与えられてから24時間しか使えないということ…そしてもう1つは、対価としてその後に貴方の大切なものを頂くということ…ですわ」
「……ははは…まるで悪魔との契約のようですね」
そう言うと明が苦笑いをする。
「……構いませんよ、24時間の時間つきというのも、大切なものを失うというのも…受け入れるので…能力を下さい」
「…では契約成立で、よろしいのですね?」
「はい、嘘でも本当でも僕は特に困りませんから」
「そうですの?では、契約成立ですわね」
アリスはそう言うと左手の指を擦り、パチンッと音を鳴らす。
「これで、貴方は能力者ですわ」
「え?あ…はい、以外とあっけなく終わりなんですね…」
「ふふふふ…今度からは魔法陣でも用意しますわ」
アリスはそう言うと身にまとっているエプロンのポケットからサイコロを取り出し、テーブルの上に置いた。
「サイコロ?これ、どうするんですか?」
「どうにかするのは私ではなく、貴方ですわ」
「え?あ、えっと…『サイコキネシス』を使え…ってことですか?」
明が苦笑いをしながらアリスに問いかける。
「えぇ、本当に使えるのか早く知りたいかと思いまして、実験の品を…これを浮かせるイメージをしてくださいまし」
「はは…準備がいいですね…じゃあこんな感じですかね」
そう言いながら明は右手をサイコロの方へと向け、手を徐々に上げていく。
すると、サイコロが手の動きに反して勢いよく天井まで跳ね上がる。
「うぇ⁈」
あまりの勢いに驚き、明は変な声をあげる。
「あらあら、そんな勢いよく飛び上がるイメージをしましたの?」
「…え⁈いや、まあ確かにそうですが…え⁈」
明は確かにサイコロが飛び上がるイメージをしていた。それは、手の動きに合わせてアリスが糸などを使い、あたかも浮いているように見せるのではないか?と思ったからである。
しかしながらサイコロは手の動きには合わせず、明のイメージ通りに勢いよく上がった。
「ほ、本当に…『サイコキネシス』を…ぼ、僕が」
そう言うと明は天井に貼りつくように浮いているサイコロに目を向ける。
明はサイコロを他の場所に動かすイメージをしてみる。するとサイコロはたちまち自由自在に部屋の中を動き回る。
「す、凄い…こ、これなら!」
明は動き回るサイコロを止め、テーブルの上に戻す。
「ははは…ありがとうございます!アリスさん!この能力、存分に使わせてもらいます!」
「ふふふふ…すっかり明るい顔になられましたわね、いいですわよ?心ゆくまでお使い下さい。お代は勝手に頂きますので、それと…お時間にはお気をつけて」
「はい、では…僕はこれで…本当にありがとうございます!」
立ち上がりそう言うと、明はアリスにお辞儀をしてから紫色のドアを開け、外に出て行く。
パタンッと紫色のドアが閉じ、1人になった部屋でアリスは右手人差し指を立て自分の唇に重ねると
「またのご来店をお待ちしております」
と言ったーー
*
明は学校への道を歩いていた。
朝、学校に登校する時間が明にとっては一番憂鬱である。
今年度から高校3年生になる明は、入学してから欠席したことはなく、成績も優秀…高校生の鏡のような存在であった。
しかしどんな人間であっても、悩みや問題を抱えているものである。それは明も例外ではなかった。
「おい!ヒョロ眼鏡ぇ!」
赤いツンツンとした髪をした明と同じ制服を着ている、ガラの悪そうな少年が明に声をかける。それに合わせて明が足を止める。
「ひ、平林くん…」
「なあ?今日は
そう言うと平林は明の先を行く。
そんな平林の背中を睨みつけ、しばらく立ち尽くしていた明は、不敵な笑みを浮かべると、また歩き始めた。
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