第4話 田村正樹【人を操る】2
「とりあえずはここだな」
そう言った田村の目の前にはドッシリとした見た目の銀行がある。
「へへっ…今からここにある金は全て俺のものになるのか…」
そう呟くと田村は銀行内へと入っていく。
田村はずかずかと歩いて行き、受付のところで止まると
「おい!にいちゃん、ちょっくら良いかなぁ?」
と言って受付の男に声をかける。
「すみませんお客様、御用の際はあちらで番号カードをお取り下さい」
そう言うと受付の男は発券機を指差す。しかしながらそこからは番号カードは出ていない。
「あ、申し訳ありませんお客様…15時になりましたので本日の受付は終了となってしまうのですが…」
「はぁ…もう良いよお前、とりあえず銀行中の金集めてこい」
田村が呆れた顔でそう言うと、受付の男の目から光が消える。
そしてゆっくりと後ろを向き、おもむろに歩き始める。
「へっ、それで良いんだよ」
田村は満足した様子でそう言うと、隣の受付に目を向ける。
「おい、ねぇちゃん!」
「え?あ、はい?」
戸惑った表情で受付の女が田村の方を向く。
「お前もだ!この銀行中の金を全て集めてこい!」
田村がそう言うと先ほどの男同様、女の目からも光が消え、後ろを向き、おもむろに歩き始める。
「やべぇ、超順調じゃねぇか!このまま職員全員に命令すれば直ぐに大金が手にはいるぜ…」
田村はニヤけながらそう言うと、さらに隣の受付に狙いを定め、歩き始める。
その時であった、誰かが田村の肩をたたく。
「あ?誰だよ…?」
田村が振り返るとそこには先ほどの受付の男がいた。
「お、お客様…どういうことですか?お客様に指示されたら体が勝手に動き始めて…そ、それに……金を持ってこいなどと…あ、あなたは一体何者ですか⁈」
「……⁉︎な、なんでお前!」
不測の事態に田村が驚きの声をあげる。
田村は確かにこの男に金を持ってこいと指示をした、その
田村からの指示は絶対であり、破ることはできない…しかしながら目の前の男はその指示を無視して動いている。
「お、お前!なんで指示に
そう言うと田村はハッと何かに気づくような顔をして、先ほど能力をかけた女の方へと顔を向ける。
田村の目に映ったもの、それは札束を手に持っている女が、銀行の他の職員達に抑えつけられようとしているところであった。
「し、指示に背く⁉︎…やっぱり俺を操ったのはあんたなのか⁈さ、催眠術か何かか⁉︎」
男は興奮した様子で田村に向かって問いかける。
「くそっ!どうなってやがる!どきやがれ畜生!」
田村が男に向かってそう言うと、再び男の目から光が消え、後ろに一歩下がる。
それと同時に、先ほどの女の方から驚きの声が上がる。
「え⁈わ、私!い、いや、ち、違うんです!これは…えっ⁈どうなって⁈」
戸惑う女を見て、ある事に気がついた田村は急いで銀行の外へと飛び出した。
銀行の外に出ると田村は一目散に走り出し、銀行から自分の姿が見えないくらいに離れたところまで行くと止まった。
「はぁっ!はっ!ちっ、ちくしょっ…はっ…あのやろ…う!ふ、複数人は操れないなんて…聞いてねぇぞ!」
息を
「こうなったら仕方ねぇ…多少は手間がかかるが…」
そう言って近くにあるコンビニに目を向ける。
田村はコンビニに向かって歩いて行き、店内に入ると
「おい!レジにある金全部よこせ!袋に入れてだ!さあ早く!」
と言って、店員に向かって能力を使う。
有無を言わずして、店員の目から光が消えていく。
すると店員はレジのキーボードを慣れた手つきで打ち始め、それに合わせてレジの一部がスライドし、中から金が入った箱が姿を現わす。
店員はレジ袋を左手に取ると、札や小銭を右手で掴みとり、無造作に袋の中に入れていく。
「結構あんじゃねぇか…!」
田村は満足そうに袋に入っていく金を見つめる。
店員が全ての金を詰め終わると、田村は店員の左手にある袋を奪い取り、出口に向かって歩いていく。
「……操られている時の記憶はあるそうだが、まぁ悪く思うなよ?この金はお前が袋に入れた…つまりはお前がくれたモノなんだからな?」
田村は固まったままの店員に向かって、ニヤけながらそう言い残し、店を後にした。
*
「まあ、多少は手に入ったが…全然目的の金額には届かねぇな…もっと稼ぎのいい店を探さなくちゃいけねぇ…」
田村は駅前の商店街を歩きながら、どの店から金を巻き上げるかを考えていた。
「くそ…店の中にある金はそんなに多くねぇし、稼いだ金は貯金しちまってるだろうし……ん?待てよ」
そこまで言って田村はある事に気がつく。
「金を預ける銀行から金が奪えなくても、金を預けてる奴等からは金を奪えるんじゃないのか…?ふひっ…ひひひ」
そう呟くと田村は不気味な笑みを浮かべ、商店街を見渡す。
つまりは、誰かに金を下ろさせようと考えたのである。
「いやぁ、我ながら素晴らしいアイデアだぜ〜大金持ちにでも当たったならいきなり億万長者になれるんじゃねぇのか⁈ふひっひひ…そしたら、まだ何もしないあの暮らしを続けられる」
笑いながらそう言うと田村は1人の人物に目を向ける。
紺色の制服に身を包み、買い物袋を手に持っている学生の少女。
金をそこまで有しているとは思えないが、気を良くした田村はその少女を見ると下品な笑顔を浮かべ近づいていく。
「なぁ、きみきみ〜俺と遊ばな〜い?」
なんともゲスい
「え…っと、すみません…買い物があるので…」
茶髪のショートカットに可愛らしい顔立ちをしたその少女はそう言うと、田村から離れようとする。
しかし、田村は少女の肩を掴み
「いいじゃねぇかよ…俺の言うこと聞けよ〜これは命令だ」
「命令ってな……」
肩を掴まれた手を振り払おうとしていた少女だが、そこまで言うと少女の目からは光が消えていき、大人しくなる。
「ふひひ、それでいいんだよ…まあ金も稼がにゃならんけど…ちょっとくれぇは遊んでいいだろ」
そう言うと田村は、少女の肩を自分の方へと引き寄せる。
「よし、んじゃついて来いよ…良いところに連れてってやるからよぉ…」
田村がそう言い、歩き始めた時であった、目の前に突如現れた少年が田村を睨みつける。
「おい!テメェ!
髪を金色に染め、鋭い目つきをしたその少年は、田村に向かっていきなりそう言い放つ。
「あ…あん?何だよお前?この
「……あ?てめぇもういっぺん言ってみろよ、人の彼女と何をするって⁈」
そう言うと、少年は田村に殴りかかる。
「うらぁ!死ねや、ボケェ!」
少年の拳は見事に田村の顔面に直撃し、田村を地面へと叩きつける。
「おい!明里!オメェもどういうことだ⁈こんな男なんか……と…」
そこまで言うと少年は目を丸くする。
「おい…明里…どうしたんだよ?……っ!テメェ!明里に何しやがった!」
少年は地面に這いつくばっている田村に目を向けると、息を荒くしながら田村の方へと向かっていく。
「くそっ!何なんだ…お前は…いきなりでしゃばってくんじゃねぇよ!お前こそ死にやがれ!」
田村が少年に向かってそう言うと、少年の目から光が消えていき、その場で動かなくなる。
そして次の瞬間、体から全ての力が抜けるように少年が地面へと向かって沈んでいく。
しばらくすると、目に光が戻った少女が悲鳴を上げ始める。
「い、いやぁぁ!
そう言いながら少女は少年の元へと近づいていき、地面に
「翔ちゃん!翔…ちゃ…う、嘘?い、息してない……いや、いや、いやぁぁああ!」
そう言いながら少女は滝のように涙を流し始める。
「は…はぁ?う、嘘だろ?し、死んだのか?そ、そんなわけ…」
動かなくなってしまった少年を見て、田村はうろたえる。
少女の叫び声と倒れている少年を見て、商店街で買い物をしている人々の足が止まる。
「どうして⁈何で翔ちゃんを!う…うぁぁ…!」
泣きながら田村を睨んでくる少女に向かって、田村は
「ち、違う……お、俺じゃない…ち、違う!」
そう言い、少女から背を向けて一目散に商店街の出口へと走り出した。
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