習慣変更不可能

霧カブラ

習慣変更不可能

男は、とある本を見つけた。



それは古本屋の奥深くに眠っており、豪華な装飾をしている、 しかし全体的にかすれている、いかにも古ぼけた本、というものだった。


それは英語で書かれていたが、男は英語が読めたため、問題はなかった。


問題はタイトルと内容だった。


タイトルは、「さるでもできる吸血鬼になる方法」。


男は、さるでもできたらそれは吸血鬼ではなく吸血ざるじゃないか、いやでも鬼というものは別に人間に限った話ではなく……と考えたが、そんなものは蛇足だった。


男はとりあえず、その本を読んだ。もちろん、こんなものを本気で信じているわけではない。興味を持ったから、動機には充分だった。


読み進めるうちに、男はかなり作り込まれているな、と思った。


例えば、ネズミのしっぽをお湯で煮て細切れにしてからハチミツに混ぜるとか、自分の血をビンに数滴入れて満月の夜に放置するとか、なぞの記号と言葉をかいて唱え回るとか、とにかく、意味不明なものがたくさんかいてあった。


他には、吸血鬼になる際の注意点がかかれてあった。ニンニクが極端に嫌いになるとか、十字架に忌避感を感じるとか、あとは日光に当たると灰になるとか、かかれてあった。


男は、こんなことで本当に吸血鬼になれるのか、そしてできればこの内容を試してみたいと思ったが、必要なものがそんじょそこらのスーパーなどでは手に入らなさそうなものばかりだったため、諦めようとした。が、最後の方に自分でもできそうな方法がかかれてあった。


男は、これならできる、そしてこの内容を確かめることができると思った。


幸い、時間はたっぷりある。男は、本の通りにどんどん準備していった。好奇心が、男を行動させたのだった。


すこし時間がたって、準備が完了した。簡単な内容だったため、すぐにできた。あとはこれを実行するだけで、いい。


男の頭に、吸血鬼になった時のデメリットがよぎったが、吸血鬼になれるとははたから信じていない。まぁ、大丈夫だろうと男は考えた。


果たして、男は吸血鬼になった。この内容は、本当だった。あの本は、本物だったのだ。


吸血鬼は、夜のときは力がみなぎった。夜の住人なので、夜は元気が出る。夜が、人間にとっての昼なのだ。


しかし吸血鬼は、吸血鬼になる過程で体力をかなり使っていた。なので、吸血鬼は一眠りしようと思った。考えるのは、それからだ。


吸血鬼は、少し暑かったので扇風機をつけ、ベッドにねっころがり、眠りについた。そして、いくばくかの時が流れた。



吸血鬼は目覚めた。そして、一眠りする前の出来事が夢でないことを実感した。人間のときと、吸血鬼のときの感覚は、違うのだ。


吸血鬼は寝起きでぼーっとした頭のまま、ベッドからおりて、体を伸ばした。そして、いつものようにカーテンを開ける。


外は、とても良い天気だった。青空がどこまでも広がり、太陽がまぶしかった。


もっとも、この光景を吸血鬼は見ることはなかった。カーテンを開けた時点で、日光が部屋に入ってきたからだった。ということは、



瞬間、吸血鬼の体は、灰となった。



後には、少しの灰だけが残されていた。


それも、つけていた扇風機によって流される。




後には、何も残らなかった。







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