【第二十九話】危険
「ポチもいく!」
ポチが奥から尻尾を振って走ってきた。
「いいか、ポチ。俺の故郷には番犬と言うのが居てだな?家の長が返ってくるまで怪しい人が入って来るのを防いでいるんだ。そしてそれがお前だ!」
「ポチが・・番犬・・・?」
「そうだ、とても大事な役目だぞ」
「わかった!ポチ頑張る!」
ポチが御しやすくて良かった。魔力があるポチに森は危ないだろう。
そんなポチを置いて俺は昨日の畑まで来た。
「昨日植えたばかりだけどどうなってるかな?」
図鑑によれば早いものは一週間で育つらしいし楽しみではある。
「どれどれ?」
苗は成長している・・気がする。
昨日植えた苗はトマトみたいな実がなる苗で普通に植えれば収穫まで二~三か月はかかるらしい。図鑑を見る限り魔力の濃い環境だと最速で通常の10倍くらいの速さで成長するらしいし野菜もそのくらいの速さで成長するのかと思ってたけどそんなこと無いのかな?図鑑には野草しか載って無かったし、考えてみればこのトマトが他の野草と同じくらいの速さで育つとは限らないか。これは様子見だな。
そうそう、今日は種も持ってきた。よく学食で見かけるナッパの種が売っていたので試しに買ってみた。
昨日耕したスペースでまだ何も植えていないところにナッパの種を蒔いておく。
「これは蒔いてから育つまで一か月らしいしトマトよりも成長が分かるはずだな」
あとは近くに生えていた薬草も何株か植えてみる。今植えたのはヨモロ草、森だと3~4日、魔素の薄い所でも一か月もあれば育つ薬草だ。
さて、こんなもんかな。今日は木の実の納品を受けてきている。木苺に似てるブラムという実の納品だ。野草探してる時にもそれっぽいのは見つけたし直ぐに終える事が出来るだろうとこれを選んだ。森の中を歩いているとそれっぽい実を発見したので袋に詰めていく。
「そうだ、こういう実も栽培できないかな?」
畑用に何個か確保しておこう。
畑がある場所に戻り木苺の種を蒔いてみる。畑の中は育ったら邪魔だろうし少し離して植えておいた。ナッパと違ってこっちは本当にどうなるか分からないけど成長が楽しみだ。え?果肉の部分?美味しかったです。
「よしそろそろ帰るか。」
荷物をまとめて帰る支度をする。クワとかシャベルは置いて行ってもいいかもしれないな。家にあっても邪魔なだけだし。
街まで帰る途中、森の終わりが見えたころ。
パカラッパカラッと、どこからか蹄の音がする。
「馬の足音か?騎士団かもしれないな。」
もしルガードさんだったらこの前みたいにフォーレ城塞都市まで連れて行ってもらいたい。
そうしている間にも馬の足音が後ろから近付いてきた。振り返ると遠くに馬に乗った人影が見える。
・・・あの人は!
「まさかと思って来たが、ユウシじゃないか。」
馬に乗って現れたのはギルドの団長、クラリーチェさんだった。
「本当にこの森を歩いているのだな。知ってはいたが驚いたぞ」
そういえば朝にギルドによった時にクラリーチェさんは居なかった。
「クラリーチェさんはなぜここに?」
「セオドア様の依頼でな。毎週バルド大森林の調査をしているんだ。」
「生態調査」かたぶん俺に教えられても理解できない。
「いまから帰るんですか?」
「いや、少し気になる事があってなもう少しここを探る。」
なんだ、フォーレまで送ってもらおうと思ったのに。
その後クラリーチェさんと別れてフォーレに帰ってきた。納品をさっさと済ませて寮まで戻る。
「おーい帰ったぞー」
「おかえりごしゅじん!」
尻尾を振ってポチが出迎えてくれた。ポチを見てるとなんだか疲れが癒されるな。
「留守番はどうだった?」
「えっと、ひまだったぞ!」
そりゃそうだろうここは寮だ。ここに来るまでに警備員もいるし泥棒なんて来ないだろう。とはいえ留守番をしてくれたお礼に今日採った木苺の残りをポチにやった。むしゃむしゃ食べてるし気に入ったようだ。余ったの売らないでよかったな。
買ってきた食材でちゃちゃっと飯を作ってポチと食べて寝ることにした。
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「ポチもいく!」
今日も出がけにポチがそう言ってきた。
「いいか、ポチ。俺の故郷には番犬と言うのがいt「そういってきのうおいていったもん!」
「でも家に誰かいないと危ないだろ?」
「いくんだ!」
ポチは俺の服の裾を咥えて離さない。
「いいか?森は危険な所なんだ。俺には魔力が無いから敵には襲われない、でもポチは魔力があるだろ?森に行ったら・・・」
「森に行ったら襲われる。」そう言いかけて違和感を覚える。
あれ?そういえば俺がポチと森に居た時ポチは一度も襲われてなくないか?森の生き物は誰にでも襲ってくると聞いた。どういうことだ?誰にでもって言うのは「人間なら」誰にでもっていう事なのか?うーんでも俺が襲われないみたいにポチにも襲われない理由があるのか?
「ごしゅじんー」
服を引っ張ってもダメと感じたのか次は目で訴えかけてきている。
「よし分かった。ポチがそう言うのなら連れて行こう。だけど危なくなったら絶対に逃げるんだぞ?」
なんだか俺が初クエスト始める時のジークみたいなことを俺も言ってる気がするがポチには「いのちだいじに」で森に臨んでほしい。
城門を目指してポチを連れて街の中を歩く。そういえばポチにリードした方ががいいんだろうか?
そんな事を考えていると城塞都市の端、城門にたどり着いた。
「お、ルガードさん。こんにちは」
「おお、ユウシか。今日もクエストか?」
そういうルガードさんは今日も門番か。
ルガードさんに見送られて城門を後にする。
「ポチー離れるなよー」
ポチははしゃいで走り回っている、よほど嬉しいんだな。そういえばポチと外に出るのも数日ぶりな気がする。
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森に着いた。今日はポチも来ているのでクエストは受けていない。ポチがもしモンスターに襲われてもいいように煙玉もいつもよりも多めに持ってきてる、いわば様子見だな。ポチが襲われるようなら今後は連れて行けない。
「あまり遠くに行くなよー」
「ごしゅじんはポチがまもる!」
・・・聞いてないな。さて、俺は畑でも見に行くか。
畑を見に行って驚いた。畑が荒らされている。昨日植えたナッパ、あれが芽吹いて若葉にまで成長していたのだが、あれが全滅している。見ると何かむしられてるみたいだ。薬草やトマトの苗は無事なのは幸いと言ったところかな。
「他の成長具合はどうだろう、薬草はもう採ってもいいだろうけどこのまま成長させて種とかできるならそれを集めてもいいかもな。トマトの方は・・全然育ってないな。何か違うんだろうか?」
その時ポチが唸り声をあげた。ポチが向いているその先にはこの前見たワイルドボアが居た。
あいつが畑を荒らした主なのか?やばい、ワイルドボアがここに居るってことは俺たちがえさ場を荒らしに来たと勘違いしてるのかもしれない。
ワイルドボアはこの前見たのよりも少し大きく顔も少し大人になっていた。
「ポチ逃げるぞ!」
「グルルルルル」
ダメだ聞いてない。ワイルドボアもポチに牙を向けて今にも突進しようとしている。
あっ!、ポチがワイルドボアに噛みついた!
ワイルドボアは体を揺らしてポチを引きはがす。
「早く来い!」
ポチを連れ森の出口を目指す。
だめだ、追ってきている。ポチも立ち止まっては威嚇しているがまるで怯まない。
出口が見えた!
ポチも横に居る。
あとちょっと!
だが気付くのが遅れてしまった。ワイルドボアがポチめがけて突進してきていることに。
俺はポチ庇い背中に猪の突進を受ける。強い衝撃と共にミシミシと背骨が音を立てる。
薄れゆく意識の中、俺は煙玉を投げポチを逃がすのが精いっぱいだった。
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