【第二十六話】初めてのソロクエ
「おいユウシ、ちょっといいか?」
一人で依頼でも、と思っていた俺はクラリーチェさんに呼び止められ空き部屋に連れて行かれた。
「その、なんだ、お前が魔力が無いというのは本当か?」
「・・・はい?」
あれ?なんで知ってるんだ?俺は誰にもそのことは言っていないはずだ。もしやセオドア爺さんか?あの爺さん「誰にも話すな」なんて言ったくせに誰これ構わず言ってんのか?いや、伝えるべき人には伝えておく、みたいなこと言ってたしクラリーチェさんがその一人って事があるかもしれないな。
「いや、私がおかしなことを言っているのは自分でも自覚している。昨日セオドア様にお会いしてな、その時に教えられたのだ。私はセオドア様にからかわれただけなのかもしれんな。前に体質だと言っていたし何かの間違いだろう。そうに違いない。」
今「セオドア様」って言ったか?じゃあセオドア爺さんに教えられたって事か?でもなんかクラリーチェさん変に自己解決しようとしてるな。
「いえ、セオドア爺さんの言う通り俺は異世界人です。」
「・・本当なのか?」
「はい、なんだか魔力の器っていう物が無いんだそうです。」
「信じられんな・・それはつまり死んでるという事な気がするんだが」
「うーん・・説明しづらいんですけど俺の世界では「魔素」なんてものは無くてどんな生き物も魔力の器なんて物が無くても生きることができるんですよ。」
「想像がつかんな」
クラリーチェさんが俺のことを宇宙人を見るような目で見てる気がする。いやまあ同じようなもんかもしれないけど。
「確かに魔力の器が無ければ魔力関係のスキルが出来ることも無いか・・・」
うっ、やっぱり魔力関係のスキルは貰えないのか。
「それで、これからどうする?」
「これからですか?」
「戦う力がない君に依頼をこなしていくことは困難だろう。無理を言って入会させてしまったが、今後襲われたら戦う術もないだろう?」
「薬草採取なら出るでしょう?」
ジーク君が貸してくれた本を読んだけど結構な種類の薬草があった。今日ここに来る前に魔法区と商業区の間にあるっていう薬草の市場を見てきたけど結構いい値段のするものがあった。
「この前大量に採ってきたからって調子に乗るんじゃない。この前は偶然多く採れたかもしれないがもし薬草を取りに行って魔物に出くわしたらどうするつもりだ。」
「そのことなんですけど、」
俺は自分の推測を話し始めた。
「そのことなんですけど、俺は魔物に襲われないらしいんです。」
「は?襲われない?」
「この前ジーク君とルツ村に行ってきた時にアッシュハウンドが現れたんです。ですが俺のことを無視してジーク君を襲っていました。」
「それはジークに聞いた。確かにアッシュハウンドは好戦的で人間を見つけたらまず襲ってくる。だがお前のそれは偶然かもしれんだろう?」
「あと、セオドア爺さんに聞いたかもしれませんが城塞都市に来るまでバルド大森林の深部に居たんですよ」
「バルド大森林の深部だと!?」
このやり取り何回目だろう。
「私でさえバルド大森林の深部は一人じゃ厳しいぞ?」
「そこら辺はセオドア爺さんに聞いてもらえれば証言してくれるはずです。そして俺が滞在している間ほとんど敵に襲われることがありませんでした。」
「いま君が嘘をついてもしょうがないし私も信じたいが・・にわかには信じられないな。魔物に襲われないバルド大森林など想像もできん。」
「それで考えたんです。俺はバルド大森林で戦うことは出来ませんが生きて薬草を持ち帰ることは出来ます。」
「薬草採取専門か。お前が大丈夫と言うのなら止めはしない。だが絶対に死ぬなよ?」
なんかめっちゃ心配されてる。まるで死地に行く兵隊を送るような・・・まあこの世界の人にとっては死地なのかもな。
俺とクラリーチェさんは部屋から出て受付へ向かう。
「なあ、本当に大丈夫なのか?」
心配性だな。確かに無茶をする団員が居たら止めるのもギルドマスターの役目なんだろうけど。
「大丈夫ですよ。俺が言い出したことなんですから死んでも自業自得ですよ。」
いやもちろん死ぬつもりないけどね?
「ふふ、冗談でもそんなこと言うもんじゃないぞ?」
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さて、クエストを新しく受けてきたわけなんだが、
「数種類の薬草の採取か・・」
前回は一種類だったけど今回はいくつかの種類の薬草を取らなきゃいけない。クラリーチェさん曰く、バルド大森林固有の薬草採取のクエストは見習いの俺にはまだ受けれないそうなのでクラリーチェさんに大森林にも生える薬草で見習い冒険者が受注できるものを選んでもらった。
ただ考えていなかったことが一つある。あれだけ一人で大丈夫だと言っていたくせに恥ずかしいのだが森まで行く手段、どうしよう。
この前ジーク君と馬車に乗った場所でバルド大森林行きの馬車を探したが結果から言って、馬車は無かった。そこら辺に居た馬車の運転手曰く、「あそこまで馬車を出している奴なんて居るわけないだろ(笑)」だそうだ。話によると大森林に行くのは一部の冒険者と一部の騎士団員のみだし、冒険者でそこに行ける実力者なら自分で馬でも所持しているらしい。
・・・徒歩で行くしかないか。
俺は遠くに見える森に向けて歩き出した。
歩くこと一時間と数十分。やっと平原を抜けて森に着いた。
「やっと着いた・・・」
しばらくご無沙汰だった大森林が俺を歓迎・・・してるか?いやしてないだろうな。
薬草を探しながら木の間を進んでいく。今のところ来た方角分かってるけど遭難したらどうしような、これ。くそ、こんな時にポチが来ていれば。
そうそう、ポチは今日は来ていない。ホントは今日連れて来るつもりだったけど行きがけに、「ミーシャちゃんとやくそくしたから、いかない」と言われた。・・・いや寂しいとかじゃないよ?ただ「ごしゅじん」とか呼んでるんだし付いてきてくれてもいいじゃん。こう、ふだんは居なくてもいいと思ってたけどいざとなると居てほしい存在というか・・・ごめんなさい、寂しいです。なんで来なかったんだポチよ。城壁を出る時はポチ居なくてもヨユーとか思ってたけど来てみて思い出す数々のトラウマ。ビ、ビビッてねーし。
とにかく今日は少し採ったら帰ろう。今日は下見、そう下見だ。依頼には一週間以内って書いてあった。持っていく量も多いんだし、少し採ったら直ぐ帰ろう。明日やってやるさー、ってやつだ。
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