【閑話】クラリーチェと謎の青年2
カツーン、カツーン、廊下にクラリーチェの靴の音が響く。クラリーチェは森林調査の報告書を届けるためにある建物を訪れていた。
「ギルド『梟の止まり木』のクラリーチェだ。依頼の報告書を届けに来た。ついでにワード様とお話ししたいんだが予定は空いているだろうか?」
クラリーチェが受付に話しかけると受付は念話石を使いどこかに連絡を取り始めた。
「・・分かりました、それでは。・・・クラリーチェ様、係の者が参りますのでここで少々お待ちください。」
クラリーチェが言われた通りに待機しているとローブ姿の男が現れた。
「ギルド『梟の止まり木』クラリーチェ様ですね?こちらへどうぞ。」
「報告書はあなたに渡せばいいのか?」
「いえ、すぐ「読みたいのでそのまま持ってきてくれ」とのことです。」
ローブ姿の男に案内されたのは同じ建物内の部屋だった。ローブの男は案内すると直ぐに去っていった。
「失礼します。」
ドアをノックすると勝手にドアが開き中から「さあ、入りなさい」と声がした。
中に入ると机に一人の老人が座っていた。
「お久しぶりですワード様。」
クラリーチェは頭を下げ挨拶をする。頭を上げると老人が不機嫌な声で、
「セオドア爺さんでいいといつも言っているだろう?」
と声を出した。
そう、ここはフォーレ魔道学園。クラリーチェの依頼の主はフォーレ学園学園長セオドア・ワードである。
「とんでもない!貴方は七賢者です。そんな御方をそんな風には呼べません!」
「儂が良いと言っておるのに固いやつじゃ。なぜ呼ばん?」
クラリーチェとしてはあの七賢者をそんな風には呼びたくないのだが、そのセオドアがそう言うのならしょうがない。
「では・・セオドア様でよろしいですか?」
「ふむ、まあ「ワード様」よりはいいかのう。」
セオドアは取り合えずは納得したようだ。
「これは今回の報告書です。」
「ご苦労だったのう。」
早速報告書を読み始めるセオドア。
「どうじゃ、最近は?」
渡した報告書を読みながらそうクラリーチェに聞くセオドア。
「おかげ様で何とかギルドを運営できています。」
「そうか、お主がギルドを立ち上げたころからの仲じゃがギルドも大きくなったのう。」
「最初はギルドとは名ばかりの一人ギルドでしたから。」
「その前は違うギルドに所属して居たんじゃなかったかの?」
「はい、私は人族とエルフ族のハーフ、いわゆるハーフエルフという存在ですが、人族から見れば使える魔法が偏っている、エルフから見れば耳も尖っていないでエルフ特有の魔素を視る力が弱い、そんな風に見られて育ってきました。私が元居たギルドも魔法に偏りがありエルフの力も弱い私はやはりよく見られてはいませんでした。私はそんな実力があるのに少し違うからというだけでギルドの依頼を奪われたり逆に厳しい土地に送られたりする冒険者の為にあのギルドを作りました。」
「比較的人族が多い城塞都市でお主達は頑張っとると思うぞ?」
「私はハーフエルフですが見た目はまだ人族に近いので良いですが、やはり人族と大きく見た目が違う種だと未だ偏見はあります。」
「そんな者たちの為にギルドを立てたんじゃ、お主は立派じゃよ。」
「有難うございます。」
クラリーチェにとってはギルド設立時からギルドに仕事を貰う存在であるセオドアには頭が上がらない。
「それにしても珍しいのう。」
報告書を読み終わりセオドアがそう呟いた。
「はい?」
「お主がわしの元に訪れるなんて久しぶりじゃないか?」
「はい、実はお聞きしたいことがありまして。」
「ほう、儂に聞きたいこととな?」
「まずはこれを見てください。」
クラリーチェは一枚の紙を差し出す。
「これはある人物のスキルを写したものです。」
クラリーチェはこの学園と係わりのあるユウシの物だ、とは伝えずにユウシのスキルのコピーをセオドアに見せた。
「ふむこれがどうしたのじゃ?」
「その人物のスキルはそれだけしかなかったのです。」
「ほう、これは赤子・・・ではないな。赤子に薬草採取や木材加工は出来んしのう。本当にこれだけか?」
「見てもらえれば分かると思いますが魔法関連のスキルを一つも持っていません。スキルチェックを偽造することは可能なのですか?」
「儂はそんなこと聞いたこと無いのう?」
「それに私の能力で彼の魔力量も見てみましたが全く魔力が無いのです。まずありえないことだと思いますが、判断材料だけを見ると魔力が無い人物が存在しているということになります。」
「そんな人物が存在するとはのう!?」
(セオドア様は惚けているのだろうか?彼がここの所属であることは事実であり、魔力が無い人間が存在するはずがない。それはつまりセオドア様が嘘をついていることに他ならない。)
「セオドア様、本当のことを話して貰えませんか?この人物は先日私のギルドに加入してきまし。彼に魔導学園が関わっているということは分かっているのです。」
クラリーチェはセオドアに問うた。
「!、そうか。なるほど。」
「どうなさったんですか?」
セオドアが急に笑い始めた。
「いやー、こんな偶然もあるもんじゃのう!」
「一体どういうことです?」
「そうじゃな、彼がお主のギルドに入ったのならお主に話してもいいかのう。その代わり誰にもこの事は話すではないぞ?」
「それは・・内容によります。」
「そんな身構えるほどのものではない。その人物の名前はミツヤユウシという名じゃないかの?」
(やはり知っていたか)
「ええ、そうです。」
「彼は最近学園に来た人物での。その前はどこにいたと思う?」
セオドアは楽しそうにクラリーチェに尋ねた。
「さあ、とても遠くの田舎にいたと言っていましたが。」
「なるほど、とても遠く、か。確かにそうじゃのう。彼はのう、異世界から来たようなんじゃ。」
「い、異世界です・・か?」
「まあ動揺するのも無理は無いのう。」
「異世界とはどういう意味ですか?」
「まあ詳しいことは今度の機会にじっくり話すが、彼には魔力の器が無いのじゃ。」
「確かに器が無い生物などありえませんが・・それにしても異世界ですか・・」
「まあ信じられんのなら彼に聞いてみるがいい。それにしてもこのスキルの量は面白い。この紙、貰っていいかの?」
「はあ、まあいいですが・・」
クラリーチェは話に付いて行けずにポカンとしていた。
「はっ、そろそろ帰らねば!」
クラリーチェが窓の外をふと見ると暗くなり始めていた。
「遅くまですみませんでした。」
「よいよい、じゃが今日話したことは他言無用で頼むぞ?」
「分かりました」
クラリーチェは良く分からないことに巻き込まれたことに頭を抱えつつギルドに戻った。
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