【閑話】クラリーチェと謎の青年

ジークとユウシがクエストに出発した後。クラリーチェもまた、ある依頼のため城塞都市から少し離れたあるところに赴きクエストを遂行していた。


「よし、こんなものだろう。後はギルドに戻り報告書を纏めるだけだ。」


「早くここから出てしまおう。」クラリーチェは馬に跨がり来た道を戻る。ここはバルド大森林。クラリーチェは森林の生態系の調査の依頼を受けていた。クラリーチェが得意な風と水の魔法、そして魔力量の見極めを駆使して何処にどの様な生物が何匹居るかを調査していたのだ。弱小とは言えクラリーチェはギルドの団長である。森林の深層でもなければ彼女の敵ではない。ただし森林の魔物は彼女の魔力量におびき寄せられ倒しても倒してもキリがない。先程も両手両足が生えた魚「ファイターフィッシュ」に絡まれていた所である。


(森林の生態系は変わっていなかったが森林に漂う魔素が微かに乱れているな。報告に入れておくべきか。)





ギルドに戻るとクラリーチェは早速報告書を書き始めた。


「概ね前回の報告と変わらないが、森林の魔素が荒れている。原因は不明、と」


クラリーチェには毎年この時期に森林の調査の依頼が来る。大体週に一度の調査で今回の前にも何度か報告書を書いているので森林の状態が変わらなければ書くことも少ない。

週に一度は森林に行かねばならないので、毎年この時期になると遠くの時間がかかる仕事を受けることが出来ないのはネックであるが大口の客であり毎年こうして仕事を貰っている手前断れない。


「おーい!帰ったぞー、誰か居るかー!」


クラリーチェが報告書を書いていると、ギルドの入り口から声が聞こえてきた。


「おお、帰ってきたか。」


クラリーチェが入口向かうとそこには二人の男が居た。

一人はガタイの良い男、一人は比較的小柄の男であった。


「ダリス、フラウド、ご苦労だったな。」


「おや、団長だけですかい?」


ダリスと呼ばれたガタイの良い男が尋ねる。


「朝までジークが居たのだがな、ルツ村までクエストに行った。」


ダリスは納得したようにうなずく。


「ただいま帰りました。」


小柄な男もクラリーチェに挨拶をする。


「今回は角ウサギの群れの討伐だったか。」


「はい、森林に近い村との事だったので用心していきましたが、泊まる部屋が大男と同室だったこと以外はどうって事なかったです。」


ダリスは「どういう意味だ?」とフラウドを睨む。


「ふふ、そうか。それは頼もしいな。だが無理はするなよ?死んだら元も子もない。」


「団長、俺達を見くびっているんですか?こんぐらいじゃ足りないぐらいですよ!」


「だが二人共休んでいないだろう?」


「私達は好きでこのギルドで依頼を受けてるんです、心配はいりませんよ。それに私たちが依頼を受けないで誰か他に依頼が出来る人が居るんですか?」


「そうだぜ?俺たちは好きでやっているんだ。まあ、あと10人くらい戦力になるメンバーが増えれば俺達も休めるんですがね。」


「それを言われるとな。このギルドには若いやつは3人しか居ないからな。」


「三人?ジークとクレアの嬢ちゃんと、後は誰だ?」


「ああ、お前たちがクエストに行ってる間に一人新人が入ってな。」


「へえ、どんな奴か会って確かめないとだな。」

「そうですか。会ったら挨拶しておきますね。」


フラウドは興味がなさそうにそう答えた。ダリスと反対に新入りに興味を示さないフラウドにクラリーチェは苦笑いした。


「そうだ、紅茶でも飲んでいくか?」


「いや、今日は報告したら直ぐ帰る。長旅で疲れてな。」

「私も今日は家に帰ります。」


「そうか、しばらくはここに居るのか?」


「とんでもない!明後日にはまた新しい依頼に出発するさ。」

「私も明日からまた新しい仕事が入ってます。」


「そうか、さっきも言ったが無理だけはするなよ?」


「分かってる」「はい。」


二人はサラにクエストの報告をすると直ぐに帰っていった。


~次の日~


「戻りました!」


入口からジークの声がしてきた。


「おお、戻ったか!依頼は成功したようだな!」


(ジークがルツ村に依頼に行くと普段は二日以上掛かっていたから今回は早い方だな。スキルを見ても、ジークはメキメキと成長していて、団長として自分の団員の成長を感じ嬉しいな!)


「じゃあ僕のクエストの報告してきます。」


ジークは依頼の報告の為にサラの元へ行った。


「ユウシは薬草の採取だったかどれどれ?・・これは!またずいぶん採ったな。」


クラリーチェは予想以上にユウシのリュックにミジロク草が入っていて驚いた。


「クエストは確かミジロク草十五株の採取だったはずだが・・ジークめ相当手伝ったな?」


(明らかに二日間で採れる量ではない。ルツ村の近くには林があったはずだがあそこは魔物が出るからユウシは入れないだろう。」


「まあいい、クエストクリアの方法は分からないだろうから私が教えよう。付いてこい。」


クラリーチェはユウシを連れてギルドの奥に進む。


「サラ、新入りのユウシだ。」


クラリーチェは事務員のサラをユウシに紹介する。なにやらサラのいとこをユウシは知っていたようだ。クラリーチェはサラとユウシの会話が盛り上がる前に話を止めて話し始めた。


「ここでクエストの受注・報告をする。ほらお前の薬草を出せ。」


そうしてユウシの報告を済ませているとジークが会話に入ってきた。


「あれ、報告してたんですか。戻ったら二人ともいないので探しちゃいましたよ。」


「おや、入れ違いだったか。とにかくユウシよこれで報告の仕方は分かったな?」


「ありがとうございました。」


「これからもギルドへの貢献よろしく頼むぞ。」


ユウシはジークに小銭を渡すとそのまま帰っていった。


「じゃあ僕もそろそろ帰りますね。」


倉庫に大剣を置いてきたジークが帰る前に挨拶をしてきた。


「ちょっと待てジーク。お前に聞きたいことがある。」


「聞きたいこと、ですか?」


「ミツヤユウシに何か変わった点はあったか?些細なことでもなんでもいい。」


「そうですね・・特に変わった点は無かったと思いますけど・・・」


(やっぱり思い過ごしだったのかもしれんな・・)


「そうだ、ユウシさんとは関係は無いですが聞きたいことがあったんです、低級の魔物が近くに居る人間を襲わず遠くに居る敵をわざわざ攻撃することってあります?」


「そんなこと聞いた事ないが?」


「そうですか・・道中にヘルハウンドに襲われて、それは難なく倒す事が出来たんですが、その時に近くに居たユウシさんを襲わずに僕の方へ来たんですよ。」


「そうか・・ありがとう。もう帰っていいぞ。ああ、そうだ。ユウシのクエストを手伝ってやるのもいいがお前のクエストの支障にならないようにな。ミジロク草の量、あれはお前も手伝ったろう?」


「いいえ?手伝ってませんけど?薬草採取は一人で終わらせていたはずです。ユウシさんが採った薬草の量はちゃんと見てないんですがそんなに取ってたんですか?」


「いや、それならいいんだ。今度こそ帰っていいぞ?」


「?、お疲れさまでした。」


ジークも帰って行った。


(低級の魔物が獲物を無視した?そんな話は全く聞いたことが無い。ユウシと関係しているのか?それにユウシが採ってきたミジロク草の量、あれは林に入ったに違いないが本当に入ったのか?あのスキルで?)


「うーん、謎は深まるばかりか。」


(やはりあの方に聞くしかあるまい。)

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