【閑話】クラリーチェと怪しい新顔
ギルド『梟の止まり木』の団長、クラリーチェには一つどうしても気がかりの事があった。それは先日、ギルドの団員であるクレアという少女が連れてきた青年の事である。
最初にギルドに来たときには何も感じなかった。あのクレアに仲良さげにしているから何者だと思ったがクレアの紹介もあり、特に問題も無くギルドに入れることにした。ギルド連盟の報告によれば彼には犯罪歴も無く他にギルドに入っていたことも無いようだった。ギルドに関しては「完全に初心者」それが報告の示す内容だった。ギルド連盟の報告には他にも他に職業はあるのか、何処の出身なのかも記されている。青年の出身は「ニホン」、クラリーチェは聞いたことのない地名だが遠い田舎から来た、と説明をしていたのでクラリーチェも「私の知らない地名があるのだろう」としか思わなかった。しかしその後の職業の欄には何も書いてはいなかったが、住所の欄には「フォーレ魔導学園」と書いてあった。
クラリーチェはここで違和感を持った。
職業が学生や教師と書かれずに住所がフォーレ魔導学園となるのは中途採用の住み込みの教師か、夏休み後に転入予定の転入生くらいのものだ。そして転入前でもあの年で魔導学園の生徒であれば魔力量はそれなりにあるはずである。だが、クラリーチェが青年と初めて会ったとき文字通り「何も感じなかった」のだ。
クラリーチェには普通の人間には無い能力がある。対峙した相手がどれ程の魔力量を持っているのかが判るのだ。考えても見ればクレアが連れてきたということは、ほぼ学園の関係者しかいないだろう。高位の魔術師ならば魔力を抑えて魔力量を少なく見せることができるだろうが、そんな高位の魔術師がこんな弱小ギルドに魔力を隠してまで来る用は無いだろう。
(どういうことだ?もちろん学園の生徒であれば魔力量を押さえることが出来る可能性はある。だが隠す必要は無いはずだ。)
クラリーチェが悩んでいるとそこにギルドのメンバーであるジークフリーデの声が聞こえてきた。
「団長さーん、居ますかー?」
「そうか、今日はジークがクエストに行く日だったか。」
ギルドメンバーのジークは大剣の使い手であり、寮に住んでいるジークはその大剣をギルドの倉庫に置いている。だからこうしてクエストに行く前にはいつもギルドに挨拶しに来るのだ。
もう三年以上も前からこのギルドに所属しているジークは、まだ学園の高等部所属という身分ながらこのギルドの主なメンバーの一人と言えるほど活躍している。
「おお、ジーク来たか。おや、後ろに居るのは昨日来たユウシか?」
「はい僕の隣に住んでいるユウシさんです。ってここに来たことあるって、昨日来たんですか?」
「ああ、ここには昨日別の団員と一緒に来てな。」
クラリーチェの悩みの種、ユウシその人がギルドに来た。数日後に来いと言ってあったクラリーチェにとっては突然の訪問であったがユウシを調べる丁度いい機会であった。
「団長、ユウシさんはお金が欲しいみたいで、僕が薬草採取のクエストを受けてユウシさんにやって貰うってことはできますよね?」
(なるほど、仕事を探してここに来た、と言う事か。)
「ああ、それもいいがユウシ、先ほど君にギルドカードが届いたぞ。ユウシは今日から正式にうちのメンバーだ。」
「あれ、早いですね。」
「ああ、もう二日くらいかかると思っていたが、偶然申請が少なかったのだろうな。報告書によると今まで犯罪もしていないし他のギルドにも入っていない。だから許可が早かったのかもな。」
一先ず届いていたギルドカードをユウシに渡すクラリーチェ。
「あれ、早いですね。」
「ああ、もう二日くらいかかると思っていたが、偶然申請が少なかったのだろうな。報告書によると今まで犯罪もしていないし他のギルドにも入っていない。だから許可が早かったのかもな。」
そして軽くクエストに付いて指南するクラリーチェ。
(もしも、このギルドに危害を加えようとしているのならば相応の手段で対応するしかない)
「サラさんって?」
「ああ、昨日は買い出しで居なかったな。うちの事務員だ。次回クエストを受ける時にでも挨拶しておいてくれ。」
そう言いながら、クラリーチェはユウシの魔力量を見る。この前よりも念入りに、そして見逃さぬよう。
(?、魔力量が見えないだと?今までにも魔力が枯渇して死にかけている人間も見てきたがここまで少ないのは初めてだぞ?)
(・・まさか本当に魔力量が少ない?)
だが、クラリーチェは学園の生徒でありながら魔力量が常人以下、それどころか魔力量がほぼ無い者に既に会っていた。そう、青年を連れてきた少女、クレアである。
(だがクラリーチェでも魔力が見えた。「生きること」だけにしか使っていないと言えるほど魔力量は少なかったがそれでもあった。)
「お待たせしましたー、はいギルドカード。」
どうやらジークが手続きから戻ってきたようだ。
「今回のクエストは「ミジロク草の採取」にしました。」
「ミジロク草か傷薬の材料になる比較的いろいろな所に生えている薬草だな。ジークいいのを見つけたな。」
「じゃあ僕の装備を取ってきますね。ユウシさんは外で待っていてください」
(そうだ、もしも魔力量を少なく見せていたとしてもスキルチェックならば魔法が使えるかどうか分かるはずだ。)
「ちょっといいか?行く前にスキルの確認だけさせてくれ。」
クラリーチェはさりげなくスキルチェックを促した。
「じゃあ僕もスキル確認していいですか?最近確認してなかったので。」
ジークのアシストもあってかユウシはスキルチェックを拒まなかった。
「分かった。じゃあ道具を取って来よう。少し待っててくれ。」
クラリーチェが道具を持ってくると直ぐにスキルチェックが始まった。最初にジークがやって見せる。
(ほう、ジークのやつ本当に腕を上げたな。)
クラリーチェが数か月前に見た時よりも確実にジークのスキルレベルは上がっていた。
「どういう仕組みなんですか?」
ユウシが無邪気にそう尋ねてくる。
(惚けているのかなんなのか、まあいい。)
クラリーチェはユウシに説明してやる。
「じゃあユウシもやってみろ。」
ようやく本題のユウシのスキルチェックに入る。
ユウシは素直に従い自分の指を切りそれにインクが反応する。
(なん・・だと!?)
クラリーチェはスキルが書かれた紙を見て驚愕した。
「あれ?、これだけですか?」
ユウシのスキルチェックの書かれた紙には数個のスキルしか書いていなかったからだ。
「これは・・ひどいな。いくらなんでもひどすぎる。例えば読書、レベル3といったら数日間本を読めば3に達するだろう。学園だったら初等部だってもっと高いはずだ。」
(クラリーチェのスキルチェックを見た時には魔法関連こそ低かったが学問関係のスキルの量とレベルは目を見張るものがあった。だがユウシのスキルの量は・・赤子並みだ。)
「でも魔法関係まで無いですよ?」
「じ、実は体質で魔法を扱えなくて・・・」
(これは嘘だろう。魔法を扱えない人間など聞いたことが無い。私が知らないだけでスキルを誤魔化す術すべがあるのか?いやだが、ここで怪しめばこの後逃げられるかもしれない。今は泳がせておこう。)
「なるほど、確かにここまででは無かったがクレアのスキルを見た時も酷かった。クレアも何か病気があると言っていたし、もしかしたらそういう事なのかもしれんな。」
「確かに今までのユウシさんと話してきましたがこんなにスキルが低いはずがありません。」
その後は適当に話を合わせつつ二人を送り出すクラリーチェ。
「まあとにかく、この魔法系のスキルが無い点とそれによってスキル確認がおかしくなるのかは詳しそうな知り合いに聞いておこう。引き留めて悪かったな。気を取り直して初のクエストしっかりこなしてこいユウシ。」
(そうだ、あの方に聞けば何かわかるかもしれぬ。今度お会いする時に助言を頂こう。幸い、この後ユウシはジークとクエストに行き一日は戻って来ない。帰ってきたジークに話を聞いてその後、お会いしに行こう。)
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