【第二十四話】対決ワイルドボア
村まで帰る途中、
「そういえば何でジーク君はこっちに来たんだ?依頼の方は?」
「ターゲットの痕跡はあったんですが肝心のターゲットは見つからなくて。それで村長さんの家に戻ったらポチだけが居たので村長夫人に聞いたら「ユウシさんは林に向かった」なんて聞いたもので、それで飛んできたんですよ。」
確かに血相変えていたもんな。今思い出してもあの戦いっぷりは凄かった。そう、今思い出しても・・・思い出すと結構心に来る様なこと言われてた気がするな、「スキルを見た時にここはユウシさんじゃ危険だとすぐに判りました」とかさ。やっぱり俺がジーク君は簡単にアッシュハウンドとやらを倒してたけど俺はそこまで弱いのか?ひょっとしてジーク君が強すぎるだけなんじゃないか?
「ジーク君ってどのくらいの強さなんだ?」
「ど、どのくらいと言われても困りますが・・僕の冒険者ランクは鉄級です、じゃ答えになりませんか?」
うーん、その鉄級の冒険者がどのくらいの強さなのかさっぱりわからんが・・見習いも含めて下から二番目ってことだろ?嘘つけあの強さで下から二番目のランクならもっと上の冒険者はどんだけ強いんだよ。
「(下から二番目の)鉄級って嘘だろ?」
「ポイント的にはもういつでも銅級試験は受けることは出来るんですが、まだ学生なので試験は高等部卒業したら昇級試験を受けようと思ってて。」
ていうことは実力は低く見積もっても銅級冒険者ってことか。どのくらい強いのかはやっぱりわからないけど、このジーク君が「バルド大森林はもう数人は居ないと行けない」なんて言ってたって事はやっぱり森ってヤバい所だったんじゃないかって思う。
「あの凶悪そうなアッシュハウンドを狩れるっていうことは強いはずだもんな。」
「凶悪そう?アッシュハウンドは比較的弱い魔物ですよ?一匹なら村長夫人だって簡単に倒せるはずです。魔法を使ってですけど。」
まじか・・やっぱり俺ってどんだけ弱いんだろう?この世界の人たちは基本魔法が使えるらしいし「魔法で倒せる」のはしょうがないとしてもなぁ・・。もしあの村長夫人が徒手で簡単に魔物を倒してたら完全に心が折れる。
「あ!もどってきた!おーい!ごしゅじーん!」
村に戻るとポチが迎えてくれた。口になんか咥えてる?なにそれ、骨?
「ごしゅじん!あのおばちゃんいいひとだ!」
見事に餌付けされてるな。
「あら、帰ってきたの?」
村長夫人も出迎えてくれた。
「ポチちゃんに骨を勝手に上げちゃったけどよかったかしら?」
「ポチも喜んでいるみたいなので大丈夫です。」
「それでミジロク草は採れたの?」
「おかげさまでこれだけ採れました」
俺はそう言って半分くらいミジロク草が入っているカゴを見せる。
「まあ!大量ねぇ」
どれだけの量の薬草を採ればいいのかわからなかったけどこの量で大量なら後は採りに行かなくてもいいかもな。また一人で行ったらジーク君に怒られそうだし。
「そうだ、この後どうするんだ?ワイルドボアだっけ?は見つからなかったんだろ?」
「ワイルドボアは夜に動きが活発になるので夜にまた行こうと思います。」
ワイルドボアってことは猪だよなー一度大森林で猪に襲われてていい思い出が無い。その後あの大きな狼を見たんだっけ。あれは流石に死ぬかと思った。それにしても一度猪に襲われてるんだよな、相手をしない程弱いはずなのに。
「とりあえず夜まで待って、夜になったらまた畑を見に行きます。」
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それは夕食の後、意外と豪華な夕食に満足してジーク君の夜の偵察に付いて行く準備をしていると、
「じゃあ僕は畑に行ってきますんで先に寝ていてください。」
え!?俺行く気満々なのに!そんな俺に気づきジーク君は、
「だめですよ!ただでさえワイルドボアは危険な動物なんです。」
へー、ワイルドボアは魔物じゃないのか。
「っていうかまずワイルドボアってどんな動物なんだ?」
「ワイルドボアはあのバルド大森林にも生息する動物です。厚い毛皮と強い力、そして食欲が旺盛なことで有名です。」
もしかしたら俺が襲われたあの猪はワイルドボアだったのか?
「目撃情報だとまだ若いワイルドボアのようですが危険なのでここで待機していてください。」
「遠くから見てるだけでもダメかな?」
さすがにジーク君が働いてるのに一人俺だけ寝ているのは申し訳ないし、かといって起きてジーク君を待つのも寂しい。それにワイルドボアを見ておきたい気持ちもあるしな。
「・・・分かりました。獲物も若いですし遠くから見てる分には安全でしょう。その代わり絶対に近付かないでくださいよ!」
「分かったよ。後ろで見てるだけだ。」
それに俺が前に出たところでどうしようもない。
「ポチもいく!」
「いいけど俺と一緒に静かにしてろよ?」
「わかった!」
「絶対に安全な所で待機していてくださいよ!」
そうして村長を含めた3人と1匹で農場へ向かった。
「じゃあこれを持ってください。」
ジーク君に棒を持たされた。
「ワイルドボアは火には近づいてこないので松明を持っておけば襲われずに済みます。」
そう言ってジーク君が松明の先に手を近づけると俺の持っていた松明が灯った。
「じゃあ行きましょうか。」
前からジーク君、村長、俺とポチの順で歩いていく。数分歩くと畑が見えてきた。ちょうど村を挟んで林の反対にあった。
「おお、広いな。」
辺りは暗くて何を育てているのかまでは見えないが思った以上に畑が広い。遠くにうっすらと木が見えるからあそこまでは畑なのかな。
「うちの村の畑は城塞都市にも出荷をしている。とても良質な野菜がとれるぞ。」
村長が自慢げに説明してきた。確かに夕飯の野菜は美味しかったな。
でもあのアッシュハウンドを「弱い」と言うジーク君が危険っていうなんてどんだけ危ないんだろう。
「ワイルドボアは食欲旺盛で作物を食べるだけでは無く、ナワバリ意識がある。そのナワバリで許可なく他の生き物が餌を取ろうとするとワイルドボアは過剰に攻撃してくる。今回はその餌場にこの畑がなってしまってな。」
あー、危険もそうだけど、厄介ってことでもあるのか。もしかして俺が前に猪に襲われたのも「餌を取ろうとしたから」なのかもな。
その時、畑の中で何かが動く気配がした。
「ジーク君、あれ・・・」
「ええ、ユウシさんは後ろに下がっていてください」
言われた通り村長と俺は後ろに下がる。
畑に近付くジーク君に気づいたのかドドドドドと音がして畑からその巨体をあらわにするワイルドボ・ア・・?
畑の中から出てきたワイルドボアの正体は巨大なウリ坊だった。
・・・なんていうか拍子抜けだ。あんなに危険危険言ってたけどウリ坊かよ。だって見てよあのクリクリした目。絶対に悪い生き物じゃないだろ。ていうかこいつワイルドボアじゃないだろ。「ワイルド」って感じがしないもん。
ジーク君を見ると大剣を構えて真剣な面持ちでウリ坊を見ている。うそ!?やっぱりあいつがワイルドボアなの!?
「ユウシさん!思っていたより成長しています!そこで見ていても危ないかもしれません!」
小柄なジーク君に比べて、ウリ坊はだいぶ大きいけどそれでも俺にはウリ坊に見える。あの顔とかテレビで見るようなそれだ。でもジーク君が言うんだから危険なんだろう。
今の声でジーク君に気づいたウリ坊がドドドドドという地鳴りと一緒にジーク君に突進していく。ジーク君は突進に備えて剣で身を守っている。
ドゴォという音と共にジーク君が吹き飛んでいった。うまく受け身を取って着地するジーク君。
「ジーク君大丈夫か!?」
「なんとか大丈夫です!」
こんな時に力になれない自分が情けないな。俺にできるのは邪魔にならないように遠くから見守るだけだ。
「村長さん、ジーク君は本当に大丈夫なんですか?」
ウリ坊だと思って弱そうだと思ってたけど、簡単に吹き飛ぶジーク君を見るとちょっと不安になってくる。
「ジークには何度かワイルドボアを討伐して貰っている。まあ見ていろ。」
ジーク君の方を見るとワイルドボアが二度目の突進を仕掛けていた。今度はジーク君がガードを解いている。
ジーク君はワイルドボアの方に手の平を向けて、「ロックウォール!」と叫んだ。突進をするワイルドボアの前に突然岩の壁がせり出し、それにワイルドボアが突進していく。
おお、あれが魔法か!この世界に来て初めて魔法らしい魔法を使っている所を見た気がする。
ワイルドボアは止まらずに壁に突っ込んでいき、壁を粉砕して突き進んでいくがもう前を見てはおらずとにかく突進している感じだ。
ジーク君はそんなワイルドボアに突っ込んですれ違いざまに大剣をワイルドボアに合わせる。
うーん、確かに血は出ているが毛皮のせいで致命傷にはなっていないみたいだ。でも長期戦になれば血を流している分ワイルドボアが不利だな。なるほど、いつもこうやって倒していたのか
ワイルドボアは逆に興奮して再度ジーク君に突進しようとしている。ジーク君も次の一手の為に
その時だった。この時、誰一人として警戒していなかった畑から、もう一体ワイルドボアが飛び出してきて、そのままジーク君を吹き飛ばした。
「ジーク君!」
ふいの横からの衝撃にガードも出来ず、受け身も取れずに地面に叩きつけられるジーク君。
「これは不味いぞ。まさかワイルドボアが二匹いたなんて・・・」
村長の顔が青ざめている。
「ワイルドボアは基本、自分の餌場には同族であっても入れない。・・まさか兄弟か?」
「そんなことよりどうするんですか!?ジーク君、マズイやられ方してましたよ!」
ジーク君は今もまだ立ち上がれずにいる。
「分かっている!万全なジークであっても一人でワイルドボア二体は厳しい。ジークを連れて一度家まで戻る。ユウシ君、手伝ってもらうぞ。」
「分かりました。どうすればいいですか?正直戦闘は無理です。」
「ワイルドボアの注意をどうにか引き付ければ・・・」
そうだ!俺のカバンに煙玉が入っていたはずだ。
「俺が煙玉を使います!そのうちにジーク君を助けましょう!」
松明で導火線に火を点けてワイルドボアの方に投げる。濃い煙があたりに立ち上る。
昼間使わないでよかったな
煙があるうちにジーク君に近寄る。
「ジーク君!大丈夫か!」
「え、ええ、油断しちゃいました・・」
「一旦村長の家まで撤退するぞ。」
「ダメです!まだ依頼を終わらせていません!」
ジーク君は大剣を杖替わりに立ち上がるが、明らかにこれ以上戦えない。
「依頼主として言うぞ。今回は依頼中止だ。ワイルドボア二体はジークお前ひとりじゃ無理だ。」
村長もジーク君を止める。
「お願いしますやらせてください!」
村長に頭を下げるジーク君
「諦めたくないんです!」
「・・・なにか手はあるのか?これまでのお前のやり方でははっきり言って無理だろう。」
「・・上位魔法を使います。時間が必要ですが、煙玉を使った今なら・・!」
「・・分かった。その代わり一度ダメだったらおとなしく依頼を放棄してもらうぞ。」
「有難うございます!」
ジーク君は深呼吸すると精神統一を始めた。ブツブツとなにやら詠唱しているが聞き取れない。
「おい、我々は下がっているぞ。」
村長に促されて避難する。
煙がだんだん晴れ、ワイルドボアのシルエットが見えてくる。片方の-ジーク君が最初に戦っていた方は血を流していて弱ってきているがもう片方のワイルドボアはジーク君に狙いを定めて突進していく。
「ジーク君!」
「・・・『グランド・ロック・フォール』!」
空に手を上げ、ジーク君が叫ぶと岩が地面から空中に集まっていきそれがさらに大きな岩を形成していく。
ジーク君が手を振り下ろすと大岩がワイルドボアに落下していき、大岩はワイルドボア達をまとめて捉え、ワイルドボア達は悲鳴に似た鳴き声を上げて押し潰されていった。
ズズズという音と共に大岩は止まり辺りに静寂と土煙だけが残った。
ジーク君は気を失ったのかその場に倒れ動かなくなった。
「終わったのか・・?」
「ああ、ジークが二匹とも倒した。あいつが依頼を達成したんだ。早く倒れたジークを連れて帰ろう。手当てしてやらんとな。」
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