【第二十三話】ルツ村
「ではまず村長さんの所へ行って挨拶しましょう。」
ジーク君に連れられて一軒の民家を尋ねる。
ドアをノックすると40代位の男性が出てきた。
「お久しぶりです、村長さん。」
「おお、ジークか、よく来たな。まあ、上がれ。」
村長の家にお邪魔する。
「早速契約内容の確認ですが、依頼は畑を荒らすワイルドボアの討伐。食事と滞在中の住居はそちらで用意していただく、という 内容で大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。ところお前と一緒に来ているのは連れか?」
「ああ、彼はユウシさん。僕が所属しているギルドのメンバーです。お金は払うので彼の分も食事は出してもらってい良いですかね?」
「それは構わんが二人居るからと言って報酬額は増やせないぞ?」
「ユウシさんはついで・・・で来ているだけなので依頼は僕一人でやります。」
「はあ、それならいいが・・」
村長が「じゃあ何で来たんだ?」って顔している。普通そう思うよな。
「じゃあ早速畑を見に行きましょうか。ユウシさんはどうしますか?」
「俺は自分のクエストしてるよ」
だって村長さんが怪しそうに俺の事見てるんだもの。ほら俺がクエスト行くって言ったらホッとしてる。
「一人で大丈夫ですか?薬草は林の中に生えているはずですがさっきみたいに魔物が襲ってくるかも・・」
「大丈夫だって、そんなに遠くまで行かないから。」
「アッシュハウンドは村の近くには居ないので僕が行くまでは村の近くで採取していてくださいねー!絶対に危険な生物のいそうな所には近づかないでくださいね!」
お前は俺の親か!まあ保護者みたいなものだけど。
「わかったよ!また後でな!」
「危険な動物を見たら戦おうなんて考えずに逃げてくださいね!」
心配性なジーク君を置いて村の近くで薬草の生えてそうな場所を探す。
「うーん、広域に生息してるって書いてあるんだけどな。」
せめて生えていそうな場所を聞いてくるんだった。聞き込みでもしてみるか。ん?前からおばちゃんが歩いてきた。あの人に聞いてみよう。
「すみませーん」
「なんだい?見かけない顔だわね?」
「この村に依頼を受けた友達に付いてきたんですよ。」
「っていうことはジークちゃんかしら?やだ、あの子もう着いてたの?後で差し入れしようかしら。この前来た時には村で作った漬物を美味しいって言ってくれたけど同じものだと飽きるかしら?」
このおばちゃんめっちゃ喋るな。っていうかジーク君好かれてんな。
「あのーすみません。聞きたいことがあるんですけど良いですか?」
「ああ、そうだったわね、何かしら?」
「ミジロク草っていう薬草を探しているんですけど・・」
「ミジロク草?木陰に生えるやつ?今年はあまり見ないわね。ここに来る前に会った林分かる?あそこになら生えていると思うんだけどねえ」
さっきそこで魔物に襲われたばっかなんですけど。そういえばさっきの魔物は俺を無視してジーク君に突っ込んでいったように見えた。もしセオドア爺の「襲う価値が無くて空気みたいなもん、だから襲われない」が正しいのであればあの林でも難なく薬草採取が出来るはずだ。試してみるか?いや、もし間違っていたら死ぬよな。
「ジークちゃんのお友達なら、おもてなししないとね?うちに来るかしら?」
「いや、俺クエストに・・」そう言いかけて止める。もし林にしか生えてないんだったらジーク君いないと無理だろうしなあ、ジーク君仕事を終えるまで待ってからでも遅くないだろ。
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
「あれ、ごしゅじんどこいくんだ?」
聞いてなかったのかよお前。確かに俺がおばちゃんと話している間、ポチはそこらへんを飛んでる蝶に気を取られていた。
「あらまあ!この子喋るの!?お名前はなんていうのかしら?」
「ポチだ!」
「あらあらポチってお名前なの?ポチちゃんもうちに来る?」
「ごしゅじんがいくなら!」
こうして俺はおばちゃんと今来た道を戻った。
「あれ、この家。」
「どうしたの?ここが私の家よ?」
おばちゃんの家、それはさっきまでジーク君と居た村長の家だった。
「ここ村長さんの家ですよね?」
「あら旦那に会ったの?」
「さっきまでこの家で村長とジーク君が話してました。」
「あらそう。でもジークちゃんと一緒に来るなんて仲がいいのね?」
「あ、寮で隣の部屋なんですよ。」
「そうなの。お名前はなんていうの?」
「ユウシです。」
「ユウシ君ね。お茶は居るかしら?」
「いただきます。」
おばちゃん改め村長夫人がお茶を入れてくれた。
「ジークちゃんと仲良くしてあげてね?」
「ええ、まあ。」
「ジークちゃんね、もう三年もここに来てくれてるんだけどね?一度も仲間を連れてきたことが無いのよ。」
「ほらあの子ドワーフ族でしょ?大分薄れてきたとはいえ未だに人種差別なんてあるから、暴力とかは無いらしいんだけど一部の子からは「ドワーフのくせに」とか言われていたみたいなのよ。素直で良い子なのにねぇ。それに同学年の子と比べて身長も小さいし見た目も人間に近いだけあってジークちゃんにとっては相当コンプレックスみたいなのよ。周りの子よりも小さいのがいけないのかなって一時期悩んでたわ。」
結構重い話だな。俺、ジーク君と知り合ってまだ数日だしなんだか聞いちゃいけない気がする。
「同じドワーフ族の中でも力が弱くてドワーフ族の中でもちょっと浮いていたらしいし。」
俺から見ればなんてことない優しい少年なんだけどな。人種とか良く分からないし。
「学費だって自分で稼いでいるんでしょう?何個もアルバイトして大変よね?今冒険者のギルドに入っているのも「もう里には戻れないだろうから冒険者として一人で生きていくんだ」って。だからユウシ君、少しでもジークちゃんの力になってくれるとおばさん嬉しいわ。」
そうだったのか。俺はそんなジーク君の覚悟も知らずに、簡単に「ジーク君に頼ろう」なんて言っていたのか。
「俺、薬草採取行ってきます。その間ポチを預かっててもらっていいですか?」
「ポチもいく!」
「ごめんなポチ、俺一人でやりたいんだ。すみません、薬草を取るためのカゴなんかありますか?」
「ええ、家の裏にあると思うから勝手に取ってっていいわ。」
「有難うございます。」
俺は家の裏に周って背負えるカゴを見つけてそれを背負う。
「少なくともこのカゴがいっぱいになるまで採ろう。」
一応魔物対策としてこの前買った煙玉を持ってきた。もし襲われたとき、無いよりはマシだろう。
図鑑を片手に林に入っていく。さっきミジロク草は木陰に生えるって言ってたよな。
ミジロク草は探すとそれなりに見つかった。もうすぐでカゴの半分くらいになる。なんだ案外簡単じゃん。これならジーク君を頼るまでもなかったな。
その時茂みがガサガサと音がして何かの鳴き声が聞こえた。
来た!ここで俺は確かめる。本当に俺は捕食の対象にならないのか。本当に襲われないのか。茂みが揺れてヌッと出てきたのはアッシュハウンドだった。いや?ちょっと違うか?さっき野犬は汚い灰色だったけど今回はそれにまだらの模様が付いてる。
「でもやっぱり襲ってこない。ジーク君と見たアッシュハウンドは戦闘態勢で牙をむき出してたけど、そんな様子はないよな?セオドア爺の話はやっぱり本当だったんだ!」
偶然襲ってこないワケじゃないはずだ。目の前の野犬も俺を見た上で知らん顔をしているようだ。
「おーい!ユウシさん!大丈夫ですか!」
村の方角からジーク君の声が聞こえてきた。茂みを進んでくる音が聞こえる。
これってヤバいんじゃないか?野犬の方を見る。案の定目つきが変わってる。ヤバい!
「ジーク君!引き返せ!魔物がそっちに行くぞ!」
俺は村の方に走りながらそう叫ぶ。
「さっき戦った犬にまだらの模様がある奴だ!」
「ユウシさんこそ逃げてください!そいつはエルダーアッシュハウンド、アッシュハウンドの上位個体です!群れている可能性もあるかも!」
ジーク君の声が近づいて来る。クソッ逃げろって言ってるのになんで来るんだ!
「ジーク君来ちゃだめだ!」
バッと視界が開け広場に出る。村に出てしまったかとも思ったけどひとまず違うようだ。ジーク君も広場に入ってきた。すでに後ろに数匹のアッシュハウンドを連れてきている。後ろのアッシュハウンドを処理して俺の方に向く。そして俺の後ろから数匹のアッシュハウンドを連れてやってきたエルダーアッシュハウンドと対峙する。大剣でアッシュハウンド達の攻撃を防ぎながらも一匹、二匹とアッシュハウンドを倒していき、最後のエルダーアッシュハウンドも倒すことはできなかったがなんとか撃退することはできた。
戦い終わったジーク君を見る。体のあちこちに爪によるひっかき傷ができている。
「なんで来たんだ!引き返せって言ったのに!」
「ユウシさんこそなんでこの林まで来てるんですか!あれほど行くなっていったのに!」
珍しくジーク君が・・怒ってる?
「それは・・ジーク君に頼ってばかりじゃいけないなって思っ「頼ってくれたっていいじゃないですか!」
「頼ってくれたっていいじゃないですか!僕嬉しかったんです。同世代の人で一緒にこうしてクエストに行ってくれる人ができて。・・スキルを見た時にここはユウシさんじゃ危険だとすぐに判りました。でも、僕は誰かと一緒にクエストに行きたいっていう自分の欲に負けてここまでユウシさんを連れてきました。ユウシさんにとっては命に係わる事なのに!」
ジーク君は涙を溢し始めた。
「寮が隣の部屋で、ギルドも同じで、こんな偶然あるんだなって思いました。でも、さっき村長夫人に「友達を連れてくるなんて初めて」そう言われたときに、その時初めて自分がユウシさんを危険にさらしていることに気づきました。せっかくの友達なのに・・僕がいけないんです。僕がこうして連れてきたからユウシさんが危ない目に合ったんです。」
「それでも今助けに来てくれただろ?それだけでジーク君が俺の事を大切に思ってくれたのは分かったからさ。とりあえず村に戻ろう?ここは危険なんだろ?」
俺たちは林から出て村に戻った。
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