【第二十二話】バトル
こんなにスキルが少なかったのか・・・
俺のスキルの書かれた紙を見ながらため息をつく。一瞬でも立ち直れていない。
「ジーク君遅いなぁ・・」
今はジーク君が装備を整えるのを待っている所だ。
「お待たせしましたー」
やっと戻ってきたか・・!?
「ジーク君それどうしたの?」
戻ってきたジーク君の背中に担がれていたのは大剣だった。しかもギルドに来る前に立ち寄った武器屋で見たような某ドラゴン殺しみたいな物々しいやつだ。
「僕のポジションは剣士ですからね。そりゃあ剣位持ちますよ。」
背中をこっちに向けて大剣を見せてくる。それにしてもデカ過ぎるだろ。ジーク君は小柄だけど、その身長と同じぐらいの大剣を背負っている。ジーク君に限ってそんなこと無いと思ってたけど、クレアや俺を加入させたギルドだもしかたらジーク君もポンコツだってこともあり得るのか。
「では、早く行きましょう!」
ジーク君に連れられて防衛区を進む。
「なあ、スキルってこんなに少ないもんなのか?」
歩きながらスキルの書かれた紙を見てジーク君に尋ねる。
「僕もそんなにスキルが少ない人初めて見ましたよ。スキルの数だけなら一歳児の方が多いかもしれません。」
そんなに少ないのか、俺のスキル。
「ところでこの『潜伏』スキルってさ、ひょっとして敵から身を隠せるスキルだったりするのか?」
俺の知ってる潜伏スキルなら上げれば敵から感知されなかったりするはずだ。
「さあ?、聞いたことないですね。スキルレベルは基本はその人が「どれくらい上手いか」を表してる指標みたいなものですからね。スキルが上がれば上手くなる訳じゃなくて、上手くなった分スキルが上がるだけですからね。潜伏スキルならユウシさんよりレベルは低いですが僕も持ってます。Lv.13なんてせいぜい「かくれんぼが上手い」程度だったと思いますよ?」
命からがら森を逃げ回ってやっと手に入れた能力が「かくれんぼが上手い」なのか・・・
「そもそも潜伏スキルは逃げれば逃げるほど上がるスキルなので冒険者には好まれてないんですよね、弱虫の証だって言われている程です。」
つまりあれか、俺は弱虫Lv.13ってことなのか。
「おっと、門に到着したな。」
前に俺がこの街に入るとき通った門が見えた。
ジーク君が門番らしき人にギルドカードを見せて外出の説明をしている。
「あれっ?ギルバートさん?」
門で検門をしている人物に心当たりがあった。
「お前は、・・ミツヤユウシか。」
不味い人とあったという感じで顔をしかめるギルバートさん。
「どうしたんですか?こんなところで」
確かこの人、対外部隊だとかだったはずだここにいるってことは・・ははーん。
「ギルバートさん・・冤罪で捕まえたのがばれて左遷されたんですね。」
「!?何を勘違いしているのか分からんが今日はうちの部隊が検閲の当番なだけだ!大森林に毎日行くなど命がいくつあっても足りん!」
「それに!っ、、お前がああゆう状況だったなど誰が信じる?」
俺に気を使ってか、声を下げて異世界のことも伏せて喋ってくれた。
「まあ、誤解が解けたならいいですけどね?」
「お待たせしましたーあれっ?ユウシさん守護騎士団の方と知り合いなんですか?」
羨ましいといった顔でこっちを見てくる。知り合ったきっかけ最悪だけどな。
「ああ、ちょっとお世話になってな。」
「お世話・・はっ!、もしかしてあの窃盗スキルについてですか?」
「何?窃盗だと?詳しく聞こうか。」
「あーもう、話をややこしくするな!ほらジーク君、チェックは受けて来たんだろ?」
「は、はい。」
「よしじゃあ行こう、すぐ行こう」
「帰ってきたら聞かせてもらうからな!」と叫んでるギルバートさんに手を振って門の外に出た。
「よっしゃ行くか!」
森の中なら薬草もあるだろ。確か森はあっちだったな。
「ちょ、ちょっと待ってください!何処に行こうとしてるんですか!?」
「何処って・・バルド大森林だっけ?に行くんだろ?」
「バルド大森林!?とんでもないですよ!?もし大森林に行きたいなら少なくても後二、三人戦力が要りますし、まずその格好じゃ無理でしょう?」
その格好って言われてもこの前買った只の布の服だ。元々来てた服より丈夫だと思うけどな。
「とにかく今日は行きません!ほらこっち来てください!」
ジーク君に連れられて馬車乗り場に連れて行かれた。
「馬車乗り場?」
「ええ、これに乗って依頼者の所まで行きます。」
「依頼者ってこの街の住人じゃないのか?」
「森の生物は脅威ですが城塞都市で消費される食料の為に近くに農村なんかが結構あるんですよ。今日の僕の依頼者はその村長さんです。」
「ジーク君の受けたクエストって何?」
「畑を荒らすワイルドボアの討伐ですね。農村なので害獣となっている動物や魔物の討伐クエストはよくあるんですよ。」
あー、なんていうかありがちな奴だな。ジーク君の獲物がどんなやつか知らないけどどのくらいの強さなんだろう?反応を見てるとバルド大森林の奴らよりは弱いっぽいけどな。
「あ、居ました。あの馬車です。あの馬車に乗って目的の村の近くまで行きましょう。」
なんだかんだで俺は初めて馬車に乗るかもな。元の世界で乗ったこと無いし。
「いらっしゃい、どこまでのご乗車で?」
「ルツ村までお願いします。」
「ルツ村までは大銅貨一枚ですがよろしいですか?」
「じゃあ、連れと二人分で銀貨一枚ですね。」
ジーク君がそう言って銀貨一枚を御者に渡す。
「まいど、発車まで少々お待ちをー」
「運賃ぐらい俺も払うよジーク君」
「いいんです、今お金が無いんでしょう?クエストが終わってから返してくださって結構ですよ。それに、僕も一人でのクエストは寂しかったんで誰かが居るってだけでも嬉しいんですよ」
やばい、ジーク君が天使に見えてきた。
「ありがとう。クエストが終わったら絶対返すから」
本当にジーク君には何から何までお世話になりっぱなしだ。
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馬車に揺られること、数十分。馬車が止まり御者が「ルツ村ですぜ」と声をかけてきた。
馬車を降りると林の中に道が一本。
「やっとついたのか?」
ポチも馬車から降りてきて伸びをしている。
「ここを行けばルツ村です。お昼前には着いちゃいましょう。」
そういってジーク君は道を歩き始めた。
前にジーク君次にポチ、最後に俺という隊列で進んでいく。
「この林、時々魔物とか出るので気を付けてくださいね?」
「ここって村の近くなんだろ?魔物とか出て村人は大丈夫なのか?」
「まあ、あまり強くは無いですし。それに一人でさえ行動しなければ、魔物の方も警戒して襲ってくることは少ないですよ。」
「それって、今までジーク君はどうしてたんだ?」
ジーク君は苦笑して、
「確かに僕が一人でここに来るときは大体、道中で魔物に襲われていますね。さっきも言った通り強くは無いんで簡単に対処できますが、やっぱり二人と一匹だと心強いですね!」
ごめん、そのうち一人は戦力にならないです。
しばらく歩くと前の茂みからガサガサと音がして、一匹の野犬が飛び出してきた。野犬は牙を剥きだしてこっちに唸ってきている。
「アッシュハウンドです!弱い魔物ですが群れで沸くので気を付けてください!」
確かに続いて二匹、三匹と後からアッシュハウンドが茂みから出てくる。
「僕に任せて下がっていてください!」
俺はポチを抱き上げて素直にジーク君に従う。その間にジーク君は背負っていた大剣を構えて野犬と対峙していた。
そう言えばジーク君は大剣を持っているけど素早そうな野犬とは相性悪いんじゃないか?
「俺に手伝えることあるか?」
「大丈夫です!」
ジーク君はそう言うと前の野犬に切りかかる。
・・・すげえ。一瞬で戦闘が終わった。ジーク君がものすごい速さで横に振りぬいた剣は一気に三匹のアッシュハウンドの首を刎ね飛ばし、三匹の胴体は地面に倒れていた。
その時だった。俺の後ろでガサガサと茂みが音を立ててアッシュハウンドがもう一体出てきた。
「ユウシさん!」
近くで見るとこの野犬の牙の鋭さや目のギラ付きがはっきりと分かる。あ、俺死んだな・・・
アッシュハウンドは獲物を定めると一気に飛びかかった・・・ジーク君に。
俺を素通りした?俺の方に襲い掛かるとジーク君も思っていたようで少し慌ていたが、それでもアッシュハウンドを一刀両断しこっちに近付いてきた。
「大丈夫でしたか?」
いや、本当に危なかった
「運よくこっちに攻撃が来てよかったです。」
そう言いながらジーク君はアッシュハウンドの死体に近付いていく。見るとアッシュハウンドの首と胴体は煙のように消え始めた。
「ユウシさんは知っていると思いますが魔物を倒すと魔晶石が落ちます。これもギルドに持っていけば買い取って貰えます。まあアッシュハウンドの物だとそんなに値段はしませんけどね」
それにしても・・・ジーク君あんなに強いの?今日の朝まで、あんな小柄で大剣なんて使ってポンコツの可能性もあるぞ、みたいなこと思ってたけどとんでもないじゃん?次元が違うじゃん?
「ジ、ジーク君強いんだね。」
「いえいえ僕なんてまだまだです。」
「いやでも大剣そんな振り回してさ」
「身体強化魔法を使ってますからね。」
そう言えばそんなことできるってキリアム先生が言ってた気がする。
「ちなみにジーク君てどのくらい冒険者やってるんだ?」
「学園の中等部に入学した後ですから大体3年くらいですかね。まあその前から修練は積んでましたけど」
ガチの奴じゃん。どっかのポンコツとは比べ物にならない。
「では先を急ぎましょう。」
俺たちはまた村に向かって歩き出した。
それにしてもアッシュハウンドとやらは俺を素通りというかほぼ見えていなかったかのようにジーク君に襲い掛かっていた。前にセオドア爺から「襲う価値が無くて空気みたいなもん」と言われたけど今回のこれってそうゆう事だったのか?
「さて、着きましたよ!」
俺が考え事をしているうちに一気に視界が開けて、建物が見えた。俺たちはルツ村に到着した。
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