【第二十一話】スキル

「そうなんですか!?」


ジーク君も驚いている。俺はここのギルドに縁でもあるんだろうか。


「と、取り合えず入ろうか。」


ジーク君と一緒にギルドの中に入る。


「団長さーん、居ますかー?」


ジーク君が中に声をかけると中からクラリーチェさんが出てきた。


「おお、ジーク来たか。おや、後ろに居るのは昨日来たユウシか?」


「はい僕の隣に住んでいるユウシさんです。ってここに来たことあるって、昨日来たんですか?」


「ああ、ここには昨日別の団員と一緒に来てな。」


クレアと昨日来たばかりのギルドがバイト先だとは思わなかった。


「団長、ユウシさんはお金が欲しいみたいで、僕が薬草採取のクエストを受けてユウシさんにやって貰うってことはできますよね?」


ああ、バイトってつまりジーク君に俺が仕事を貰うって話だったのか。


「ああ、それもいいがユウシ、先ほど君にギルドカードが届いたぞ。ユウシは今日から正式にうちのメンバーだ。」


そう言ってクラリーチェさんが俺にカードを渡してくる。カードには名前とギルド名が入っていた。


「あれ、早いですね。」


「ああ、もう二日くらいかかると思っていたが、偶然申請が少なかったのだろうな。報告書によると今まで犯罪もしていないし他のギルドにも入っていない。だから許可が早かったのかもな。」


書類を見せてもらうと職歴の欄も空欄だった。これって傍からみたらニートに見えるんじゃね?


「じゃあ、ユウシが仕事を受ける形でいいか?と言ってもランクは『見習い』だ。受けれる仕事は簡単なものだぞ?」


「ちょ、ちょっと待ってください。そのランクが『見習い』って何ですか?」


「ああ、ギルドに入ったこと無かったのだな。他の知り合いでもギルド経験者は居ないのか?」


「まあ、ド田舎だったもので。」


本当は違うけど。


「そうか、ギルドに入っている者はギルドに限らずランク付けがされている。」


「『見習い』は一番下のランクだ。クエスト、つまり依頼だな。依頼をこなせばそれがギルド連盟の方へ報告され一定の数依頼をこなした状態でギルド連盟が開催する試験で合格すれば次のランクに上がれる。ランクは貨幣の価値になぞらえて、鉄、銅、銀~という風に上がっていく。まあランクは白金よりもさらに上があるが今は知らなくても問題は無いだろう。滅多にいないからな。」


ようは俺はまだペーペーってことだろ?理解できた。


「『見習い』でも薬草採取のクエストはできますよね?僕、図書館でこれ借りてきたんです。」


ジーク君が下げているカバンの中から「犬でも解る!薬草採取!」という本を取り出した。・・・字の勉強の時もそうだったけど、なんでここの世界の人は犬に分からせたいんだろう?


「そうだな、ユウシは男だし他にも「荷物搬入の手伝い」だとか「荷物の運びだし」みたいなものもあるが、薬草採取なら今日のジークの仕事がてらできるだろう。」


クエストってそんな短期バイトみたいなものなのか?


「じゃあ決まりですね!サラさんに頼んできます!ユウシさんギルドカードを貸りてもいいですか?」


カードを渡すとジーク君は奥に歩いて行った。


「サラさんって?」


「ああ、昨日は買い出しで居なかったな。うちの事務員だ。次回クエストを受ける時にでも挨拶しておいてくれ。」


事務員は雇ってたんだな。てっきりクラリーチェさんがここを回しているのかと思っていた。


「お待たせしましたー、はいギルドカード。」


カードを受け取りポケットにしまう。


「今回のクエストは「ミジロク草の採取」にしました。」


「ミジロク草か傷薬の材料になる比較的いろいろな所に生えている薬草だな。ジークいいのを見つけたな。」


ジーク君に渡された本によればミジロク草は日当りのいい森の中に生えている薬草らしい。ホントだ傷薬になるって書いてある。


「じゃあ僕の装備を取ってきますね。ユウシさんは外で待っていてください」


「ちょっといいか?行く前にスキルの確認だけさせてくれ。」


スキル?スキルなんてあるのかこの世界?諦めていたけどチートスキルなんかがあるかもしれないってことか?


「じゃあ僕もスキル確認していいですか?最近確認してなかったので。」


「分かった。じゃあ道具を取って来よう。少し待っててくれ。」


それにしてもスキルかーどんなスキルが俺にあるんだろうか?魔法系のスキルもまずないとして、子ウサギに負けたから戦闘系でもない。じゃあなんだろう、全く見当もつかない。


「待たせたな、羊皮紙とインクとナイフだ。」


クラリーチェさんが道具を持ってきた。そういえばスキルの確認方法なんて知らないや俺。


「じゃあ僕からやりますね。ユウシさんも方法は知っていると思いますが見ていて下さい。」


そういうとジーク君はおもむろに紙にインクをこぼし、ナイフを持つ。


「インクをこぼしたらそこに血を一滴垂らします。」


ジーク君がそう言ってインクに血を垂らすとインクが動き出して文字になり始めた。


「これで終わりです。どうですか?」


ジーク君の紙を見てみると、そこには大量の文字が書いてある。少し上げるだけでも、

『初級土魔法Lv.46,中級土魔法Lv.32,上級土魔法Lv.5,身体強化Lv.33,高速詠唱Lv.23,剣術Lv.22,大剣中級Lv.21,片手剣初級Lv.12,盾防御Lv.12,薬草採取中級Lv.12,解体Lv.25,etc・・・・』

といっぱいあるが詳しいことは良く分からない。


「ほう、この前見た時よりもレベルが上がっているスキルがちらほらあるな。修練を積んでいるようだな。」


それほどでも、とジーク君は照れている。


「どういう仕組みなんですか?」


「これは血の情報をインクが読み取りそして書き出している。スキルの最大レベルは最高を50として今どのくらいなのかをインクが書き出しているんだ。ほら例えばジークは魔導学園に通っているおかげで中級土魔法のレベルが32と高いだろう。こういう風にその人の能力が数値化されて見えるんだ。」


なるほどなるほど、これヤバいんじゃね?セオドア爺には「人に器が無いということを教えるな」と言われている。キリアム先生には「この世界の人なら簡単な魔法は誰でも使える」と聞いた。だけど十中八九、俺の魔法スキルは0だろう。・・・どうやって説明しよう。まずスキルが書き出されるのかが問題だ。


「じゃあユウシもやってみろ。」


しょうがないやるか。ジーク君の見よう見まねで俺もインクに血を垂らす。痛っ、緊張のせいか指を深く切っちゃった。だんだんインクが文字を作っていく。

インクが動きを止めてジーク君が第一声。


「あれ?、これだけですか?」


確かに少なかった、クラリーチェさんも驚いてる。だって俺のスキルは、


『潜伏Lv.13,木材加工Lv.1,読書Lv.3,窃盗Lv.4,薬草採取Lv.5,料理Lv.1』


だけだった。書くことが無くていまだ中央に残っている大量のインクたちが物悲しい。


「これは・・ひどいな。いくらなんでもひどすぎる。例えば読書、レベル3といったら数日間本を読めば3に達するだろう。学園だったら初等部だってもっと高いはずだ。」


「でも魔法関係まで無いですよ?」


う、やっぱりそこに気づくか。


「じ、実は体質で魔法を扱えなくて・・・」


我ながらとんでもない嘘が出たな。すぐにばれるだろ俺よ。


「なるほど、確かにここまででは無かったがクレアのスキルを見た時も酷かった。クレアも何か病気があると言っていたし、もしかしたらそういう事なのかもしれんな。」


「確かに今までのユウシさんと話してきましたがこんなにスキルが低いはずがありません。」


二人ともなぜか納得してくれたな。でも一つ分かった事がある。このスキルはこの世界に来てからカウントされているってことだ。俺がこっちに来て本を読んだのも数日間だし、もとの世界での経験がスキルになるのならネットサーフィンLv.30とかあってもいいはずだ。


「だがこの窃盗や潜伏というのは見逃せんな。前科は無いと聞いているがどういうことだ?」


「もしかしたらですけど、俺のカバンって拾い物なんですよ。それで着いたのかもしれません。あと潜伏はこの前まで危険な所にいたからそれで着いたのかも。」


「確かに潜伏は自分よりも強いものに追われていればいるほどレベルは上がりやすいが・・・それにリュックを拾っただけでこんなに上がるか?」


たぶん潜伏があんなに高いのは自分が弱すぎるって所為もあるだろうな。あと窃盗だけど、これは拾った場所が森の中だったし白骨達から見ればこれが全財産だもんな。


「まあとにかく、この魔法系のスキルが無い点とそれによってスキル確認がおかしくなるのかは詳しそうな知り合いに聞いておこう。引き留めて悪かったな。気を取り直して初のクエストしっかりこなしてこいユウシ。」


「では、行ってきます。」


クラリーチェさんに見送られてギルドを出る。

一波乱あったが、こうして俺の初クエストが始まった。

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