【第二十話】お金が欲しい

どうしよう・・お金が無い・・


一昨日、クレアに連れられて街を歩いたり、ギルドを見学したりした。その後、大体大通りなら歩けるようになったし、俺は一人、マーケットや商業区に買い物に行った。剣だの盾だのは高くて買わなかったが、クエストをこなすのに必要そうな道具や気になった道具をついつい沢山買ってしまった。調子に乗って買い過ぎた結果、今の残金、


「銀貨一枚か・・・」


いや、なんでそんなに使ったか、聞きたいのもわかる。少しずつ買ってたらいつの間にか重くなったリュックと寒くなった懐がそこにあった。ほら皆も必要無いのについつい買っちゃうこととかあるじゃん?


「それにしてもどうしよう・・・」


今は学園の敷地内にある広場のベンチでポチが初等部の子供たちと遊んでいるのを眺めてる。


「くそー、鬼ごっこはポチが一番強いなー」


「当たり前だ!ポチはごしゅじんのポチだからな!」


そんな会話が聞こえてくる。っていうかあいつ友達作るの上手いな。ポチの周りには十人くらいの子たちが集まっている。


「それにしても金策をどうしよう。セオドア爺に相談・・・いやそれはなんか違うしな・・・」


そういえばあの爺さん俺の知識を~とか言ってたくせに音沙汰がない。キリアム先生も最近会ってないし一度セオドア爺の所に行ってみるか?


「あれ?ユウシさん?こんなところで何やってるんですか?」


声のした方を見るとそこにはジーク君が立っていた。


「ああ、俺はちょっとな・・・」


お金を使いこんで途方に暮れていたなんて言えない。


「ところでジーク君は何でここに?」


「ああ、今はアルバイトの帰りなんですよ。何個か掛け持ちしていましてその一つなんですけどね。」


ん?そうか!バイトだ!この世界に来てから労働もしていないダメ人間と化していたけど、バイトくらい探せばあるはずだ。


「そうだ!ジーク君、俺にバイトとか紹介して貰えないかな?」


「アルバイトの紹介ですか?うーん一つ心当たりはありますけど・・」


「なんでもいいから紹介してくれ!」


「ま、まあ、とりあえず落ち着いてください。ここで仕事の話もなんですし一度寮に帰りませんか?」


さっそく寮に戻ろう。


「おーい、ポチー、帰るぞー!」


「わかったぞ!」


ポチがこちらに走って来る。


「あ、ごしゅじんのとなりのやつだ。」


「こんにちはポチさん」


ポチとジーク君が挨拶してる。


するとポチと遊んでいた子供たちが、


「えーポチもう帰っちゃうのー?」

「もっと遊ぼうよ!」

「鬼ごっこ勝ち逃げなんてずるいぞ!」


まだポチと遊び足りないみたいだ。


「もっとあそびたいけど、ごしゅじんが「かえる」っていってるからな。ポチはかえる!」


そうポチが言うと子供たちの視線が俺に向く。


「えーポチ連れてっちゃうの?」

「ポチだって遊びたいよね?ね?」

「俺に勝つまで帰さないからな!」


次第に俺に向かって「酷い」だの「ポチがかわいそう」だの「っていうかここらへんで見たこと無いし不審者じゃない?」だの言葉をぶつけてくる子供達。数の暴力ってずるいよな。


「分かった、分かった。じゃあポチ一人で帰って来れるか?」


「だいじょうぶだぞ!ごしゅじん!」


「じゃあもう少し遊んでてもいい、その代わり遅くなる前に帰って来いよ?」


「ありがとうごしゅじん!」


ポチを置いて二人で寮に戻る。


「どうぞ、僕の部屋に上がってください。」


お言葉に甘えてジーク君の部屋に上がる。


「さっそくアルバイトの話をしてくれ。」


「アルバイトの話と言っても色々なことをやるので一言では言えませんね。」


いろんなことをやるのか?


「そうだ、ユウシさんは明日は空いてます?」


「できるなら明日からでも働きたいと思ってる。」


「それは良かった。ちょうど明日に仕事を受けるんで一緒に行きましょうか。」


「そもそもジーク君の紹介だけでバイトをできるのか?」


「その点は大丈夫だと思います。人手が足りないと聞いていたので喜んで仕事をくれると思います。」


人手が足りない?昨日のギルドといい、ジーク君のバイト先といいどこも人手不足なんだな。


「でも経験が無くてもできるのか?」


「まあ僕と一緒にやってもらいますし大丈夫でしょう。」


でも、なにやるかわかんないと怖いな。


「ちなみに危険なことはやらないよな?」


「まあ危険な仕事は選ばないつもりです。」


選ばない?本当に何するところなんだろう?当日から仕事が出来て初心者でもできる・・・肉体労働か?でもジーク君の体格的に土木作業をやるように見えない。


「ただいま!ごしゅじん!」


外でポチの声がした。帰ってきたのか。


「ポチの声もしたし今日は帰るよ。また明日。」


「じゃあ明日の朝また声をかけますので準備はしておいてください。」


「準備って何をすればいいんだ?」


「荷物を持ち運べるようにリュックのようなものは持ってきてください。服装は汚れてもいい服装、あとは水筒とかあればいいですかね。」


リュックに水筒、汚れてもいい服装・・・山登りかな?だめだ、本当に何するのか分からない。


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昨日から一日が経った。

さて、今日はジーク君にバイトを紹介して貰う日だ。一晩中寝ながら考えたが、何をするのかさっぱり分からない。


「ユウシさーん居ますかー?」


ドアのノックの音と一緒にジーク君の声が聞こえてきた。


「居るよ。もう行く準備も出来てる。」


とりあえず言われた通り、竹の水筒に水を汲んでおいたし、荷物は何をするか分からないので一応一昨日に買ったもので使えそうなものは入れておいた。

ポチは俺に付いてくると言って聞かないので仕事中に邪魔しないことを条件について来るのを許可した。


「ポチは連れて行ってもいいか?」


「ユウシさんの飼い犬でしたっけ?大丈夫なはずですよ。では行きましょうか。」


ジーク君に付いて、街の中へ歩いて行く。


「ちょっと寄り道していっていいですか?」


了承するとジーク君は商業区へ歩き始めた。


「ごめんなさい、ちょっと消耗品を切らしていたもので。」


そう言いながらジーク君は商業区の武器屋へ入っていった。

武器屋?なんでまた武器屋に?危険は無いなら武器は必要ないよな?もしかして俺騙されてる?


「買い物をしてくるので少し待っていてください。」


「そういうと店の奥にジーク君は入っていった。」


「待ってろって言われてもな・・・」


そう言いながら並べてある商品を見る。


「剣のコーナーか。違う店には昨日入ったけどやっぱ高いな。」


物によってまちまちだが剣は一本で大金貨するものや高いものだと白金貨が何枚もいるような物まである。


「白金貨4枚ってことは40万くらいか・・こんなもん誰が買うんだろうな。」


それにしても色々な種類の剣が並んでる。小さいものだと短いレイピアのような剣から大きいものだとモンハンの大剣みたいな剣や某ドラゴン殺しみたいな剣まである。

昨日はどんな奴が使うのか不思議に思っていたけど、防具屋に入った時に、いろいろな種族がこの街に居るから大量に一定サイズでは作り辛いから防具は全部オーダーメイドだって言われたし大剣も『オーガ』みたいな巨大な人種が使うんだろうと解釈してる。


「お待たせしました!」


ジーク君が買い物を済ませて帰ってきた。


「もうこの近くなのでちゃちゃっと行きましょう。」


っていうことはバイト先は商業区なのか汚れてもいい服装で、なんて言われたから森にでも行くのかと思った。森に行くならと思って持ってきた昨日買った煙玉やらが無駄になっちゃったな。まあ無駄になった方がいいんだけどさ。


武器屋を出て十数分経った。


「ちょっと、ジーク君?商業区出ちゃったけど?」


「まあまあ、もう少しで付きます。」


いや、俺は「まだ着かないのか」って聞いてるんじゃ無くてだな、


「着きました!ここが僕のアルバイト先です!」


ジーク君が「ようこそ」と言わんばかりに手を広げて立つその建物は、


「ジーク君俺ここ来たことあるよ・・・」


つい最近クレアと来たあのギルドだった・・・

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