【第十九話】弱小ギルド
服を買った後、商業区で俺は今後必要になるであろう鍋や包丁などを買っていた。
「商業区って他にも店はあるんだろ?クレアは商業区では買い物しないのか?」
「・・私はそこまで物を買ったりしないからな。だが、ここには金物から武器防具まで何でも売っている。見に行きたいものがあれば案内しよう。」
俺の服装が一気に現代っぽく無くなったのが原因か、心なしかクレアのテンションが低い気がする。まあ知ったこっちゃないけど。
「服も買ったことだし何か役立つ道具でも探しに行こうかな。」
「それなら良いところへ案内しよう!」
「なあ、今から何処に行くんだ?」
「ふふん、今から行くのはギルドだ。」
ギルドか!さっきマーケットで冒険者って単語を聞いたからそういうのがあるんじゃないかなって思ってたけどやっぱりあったか!
「ギルドは商業区の中でもバルド大森林寄りにある。」
確かに進行方向には騎士団のあった防衛区がある。
「ほらあれを見てみろ。」
クレアが指差した先には大きな石造り建物。大きな文字で看板には『赤き大蛇』と書いてある。
「「赤き大蛇」ってなんだ?」
「「赤き大蛇」とはあそこのギルドの名前だ。つまり「赤き大蛇団」ということだな。とくにあの「赤き大蛇」はここらでも大きなギルドだ。」
「じゃあ目的地はあそこのギルドなのか?」
「そう急ぐな。今から向かうのは私が所属しているギルドだ。」
十数分後、俺たちは目的地であるギルドに到着した。到着したんだが・・
「・・なあ本当にここであってるのか?」
「ああ、ここで間違いないぞ?」
「何か問題でも?」っていう顔で俺のことを見てくるクレア。
「いや、まずここ商業区じゃないし。」
歩いてるうちに商業区を出て防衛区に入ってしまった。
「あと、小っちゃくない?」
今俺たちの目の前にある木造二階建ての建物を指す。控えめな文字で「梟の止まり木」と書いてある。正直、さっきの石造りの建物を見てしまったせいかすごくしょぼく見える。
クレアが所属しているギルドって聞いて悪い予感はしてたけどさ。
俺がギルドの人間だったらクレアは取らない。なぜならクレアは俺レベルで弱いからだ。魔力がある世界で魔力の無い俺レベルで弱いってそれは相当弱いってことだ。そんな戦力外を俺だったら取らない。
「久しぶりだな、クラリーチェ団長!」
そんな俺を置いてクレアがギルドの中に入っていく。仕方なく俺も一緒に入る。お?、中は案外きれいだ。
「久しぶりだなクレア。」
建物の奥から一人の女性が出てきた。見た目は凛々しくて「かっこいい」っていう言葉が似合う感じの人。女性にもてるんだろうな。
「今日は友人を連れてきたぞ!ユウシだ。」
クレアがクラリーチェと呼んだ女性に俺を紹介する。
「ユウシです。この街に来たばかりで分からないことがあるかもしれませんがよろしくお願いします。」
「ポチだ!」
とりあえず、ポチと一緒に挨拶する。
「クレアの友人だと?」と少し驚きながら挨拶を返してくる。
「私はクラリーチェ。このギルドのギルドマスターをしている。よろしく、ユウシ、ポチ。」
「ごしゅじん!こいつもつよいぞ!」
「ふふ、ありがとうポチ。」
「ポチを見ても驚かないんですね?」
「まあ、喋る動物は珍しいが何度か見たことはあるしな。」
ポチとの接し方を見ても礼儀の正しい人に見える。どうしてこんな人がクレアを・・・
「本来ならギルドの人間がもう少しいるんだがな、あいにく人手不足で全員出払っていてな。それで今日来たのは依頼か?それとも入団希望か?」
「いえ、今日はクレアに街を案内してもらっていたんですよ。さっきまで商業区に居たんですけどクレアに連れられてここまで来たんで依頼とか入団希望とかじゃないんです。」
「そうか。商業区からここまで遠かっただろう。商業区の方がここよりも確実に安全だが土地代が高くてな・・・」
なんか生々しい話を聞いてしまった。
「そうだ、本当にクレアはここに所属しているんですか?」
「それはどうゆう意味だ!?私を疑っているのか!」
「疑わずともクレアはここの一員だ。私が保証しよう。」
ほらな?とドヤ顔で俺を見るクレア。
「そうだ!ユウシもここに入団したらどうだ?」
唐突にクレアがそんなことを言い出した。
「そんな急に言ってもクラリーチェさんが困るだけだろ?」
「いやいや、さっきも言ったようにウチは人手不足でな。ウチみたいな小さいギルドは固定客の依頼と薬草採取のような簡単なクエストのみだ。実績を残さねばより上のクエストは回って来ず、今のメンバーだけでは薬草採取まで手が回る奴は少ない。討伐の依頼のついでに薬草採取のクエストを二、三個受けてもらっているくらいだ。だから薬草採取だけでもやってもらえると打ちとしては大助かりなんだ。」
そういうことなら入団してもいいかもな。これからもっとお金が必要になってくるだろうし稼げるなら稼いでおきたい。
「じゃあ入団します!」
「そうか!それは助かる。」
奥に書類を取りに行くクラリーチェさん。
「じゃあこれに名前だけ書いてくれ。」
渡されたのは契約書。雇用形態やケガの治療のことまで書いてある。
「これでいいですか?」
他にも書く欄はあったけど名前だけ書いて書類を渡す。
「そうだな・・推薦者は私でいいとして、ポジションか・・そうだ、ポチは戦えるのか?」
「ごしゅじんはポチがまもる!」
「そうか、じゃあポジションはテイマーにしておくか。よし、これで数日後には正式にうちのクラン員だ。」
「数日後?」
「ああ、クラン連盟というものがあってだな。「ユウシをクランに入れたい」と連盟に申請をして書類を送る。すると連盟は過去に重罪を犯していないか、他のクランに入っているのにそのクランに無断で入っていないか等を精査し、合格すればユウシは晴れてクランの一員になるというわけだ。」
なるほど、それに数日が掛かる訳だな。
「ふっふっふ、これでユウシは私の後輩だな!」
後輩ってお前もそんな冒険者歴長くないだろ。
「・・クレアは何回クエストをクリアしたことがあるんだ?」
「そ、そんなの覚えていない。まあ、沢山やったがな。」
本当かー?
「確かクリアしたのは三回程だったか?簡単な薬草の採取クエストだったはずだ。」
素なのかクラリーチェさんが答える。
「お前も威張れるほどクリアしてねえじゃねえか!」
「い、いや、これはクレアが出来るようなクエストがそれくらいしか・・・・・・・なかっただけでな?」
フォローを入れるクラリーチェさんだが、当のクレアはクラリーチェさんの「それくらいしか」が心に突き刺さってる。
「でもクレアはまだ学生だが知識は目を見張るものがある。それだけでもとても貴重な人材だ。」
その言葉にクレアは立ち直って。
「ふふん!そういうことだ!」
確かに学園では頭はいいらしいからな。クレアが早めに立ち直ってくれてよかった。
数日後にまたここへ来ると約束してギルドを後にする。
「悪いがまたマーケットへ寄っていいか?」
「別構わないが、何を買うのだ?」
「せっかく鍋とか買ったし家で料理でもしようかなって。」
そんなこんなでマーケットに戻ってきた。
「それにしてもいろんな野菜があるよな。」
「ここにはバルド大森林産の食材も並んでいるからな。」
「うわ、この野菜高っ!」
目の前にあったトマトに似た白い野菜は一個で銀貨3枚分だ。
「含魔量が多いんだろう。」
含魔量?一度どこかで聞いたことがあるな。
「生物は呼吸か食事で体の中に魔素を取り入れる。魔素を多く取り入れたいなら食物の方で摂取するしかない。だから魔素が多く含まれた食べ物はその分値段も高い。」
よくわかんないや。簡単に言うと栄養価が高い食べ物の方が高くなるみたいなことか。俺には魔素は不要だし関係ないな。
夕飯用に食材とポチのリクエストの果物だけを買って俺たちは寮に戻ることにした。
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