【第十八話】マーケットと服
「昨日はひどい目にあった。」
昨日、四時間以上続いたキリアム先生の授業はヒートアップしていき、もう最後の方は何をいっているのか分からなかった。
授業の最後には、話終えて満足げなキリアム先生、真剣に聞いていたクレア、ヘトヘトの俺、そして全く話を聞いておらず話が終わってやっと飯だとはしゃぐポチ、授業終了を見計らって帰ってきたピーターがいた。途中から森の危険な植物だとか、森に強い魔物が多い理由だとかを話していた気がするけど思考が止まっていたからよく覚えていない。
さて、すっかり文字も読める用になったし、魔法の知識も仕入れたし、ようやくこの世界で生活できるようになったんじゃないかと思う。・・・生活できるようにはなったんだろうけどセオドア爺さんからもらった薬草のお金でニート生活真っただ中なわけだし。・・・とりあえず交友の輪を広げるべきかな?でも交友って言ってもなあ、知り合いは爺さんとナイスミドルと中二病と鳥だ。・・・なんていうか個性的だよね。
そうだ!お隣さんと挨拶していなかったな。高等部の寮だって言ってたし、まあ少し年は下だろうけど。
今いるかな?明日は休みだってキリアム先生も言ってたし。昼前の今がチャンスかな?よっしゃ、思い立ったが吉日だ!
うーむ、隣の部屋の前まで来た物の・・・表札がこれ、「ジークフリド」って書いてあるよな・・・「ジークフリーデ」なんていう名前だとガチムチしか姿が浮かばない。
「えーい、ままよ!」
コンコン、とドアをノックする。・・・居ないといいなー。ガチムチの友達なんてガチムチしかいないだろ(偏見)
奥から「はーい」と声がして、ガチャ、とドアの鍵が開く。頼む、可愛い女の子の友達がいる人間であってくれ!
「あ、すみませーん。私、隣に越してきました三谷夕士と申します~。越してきてからバタバタしていてご挨拶できなかったんで本日参りました~」
相手がだれであろうと、とにかく初印象を良くしておくに越したことない。
「あ、そうなんですか~!昨日、尋ねても中から反応が無かったので嫌われてしまったのかな?なんて思っていたところなんですよ!」
顔も見ずに挨拶していたが顔を見て驚いた。めっちゃ美少年じゃん・・・でも、ここ高等部だよな?なんていうかこう・・身長が低い。ショタなんて呼ばれてもおかしくないくらいには。
「立ち話もなんなのでどうぞお入りください!」
人当たりの良さそうな子だな。お、茶菓子も用意してくれてる。
「あ、自己紹介がまだでしたね。僕の名前はジークフリーデ・アイゼンエルツと申します。気軽にジークとでも呼んでください。」
うっわ、めっちゃかっこいい名前だなおい。ジークフリーデって時点でかっこいいけどさ。
そんな俺を察したのか少し笑ってジークフリーデが話し始めた。
「ジークフリーデって顔じゃないでしょ?僕。親は僕の種族の英雄にちなんでこの名前をつけたそうです。僕の種族は皆鍛冶が得意な種族なんですけどどうも周りの子たちよりも力が弱くて。でも魔力は皆よりあったので今、こうして魔導学園に居るんですよ。」
いやジークフリーデって顔が分からないけど、ってそれよりも
「種族?一族じゃなくてか?」
「ああ、僕はドワーフ族なんですよ。ほら、だから背が小さいでしょう?って言っても種族の中でも小さい方なんですけどね。」
「ドワーフ?ドワーフって言うとあの髭が生えていて小柄で力が強い?」
「ええ、まあまだ子供なので髭は生えてきていませんけどね。」
まじまじジーク君の顔を見る。それにしても美少年だ。
・・・なんていうかこういう顔で生まれてくればモテモテなんだろうなあ
「そんなことないですよ!むしろ皆にドワーフだなんて言うと距離を取られてしまうんですよ。」
しまった声に出ていたか!
「人種差別が少なくなってきているとはいえ、やっぱり距離を取られると辛いですよね・・・」
「人種差別なんてあるんだなあ。ジーク君良い子なのに・・」
「有難うございます。」
ジーク君は下を向いて照れている。話している感じからしてジーク君自体は人懐っこい性格の良い子なんだけどな。
「そう言えばジーク君って何歳なんだ?」
見た目はクレアと同じくらいだろうか?
「16歳の高等部1年生ですよ。」
っていうことはクレアの一つ下か。奴よりしっかりしてるな。
「またいつでも来てください!」
とりあえず挨拶が終わりジーク君の部屋を後にして自分の部屋に戻る。
「ごしゅじんおかえり!」
留守番していたポチが尻尾を振って出迎えてくれる。
「今日は街に繰り出してみようかな。」
初めて学園に来る途中、マーケットがあったけど、あの中に食料品以外の物も売っていた気がする。
「ごしゅじん、どっか行くのか?」
「今から街に行こうと思ってさ。ポチも来るか?」
「ポチはごしゅじんについていくぞ!」
ポチも来るそうだ。持って行くものは・・・リュックとお金だけでいいか。と、言ってもこれぐらいしか持ってないけど。
「じゃあ行くぞポチ。」
よし取り敢えず市民区のマーケットに行った後商店区に行ってみよう。ん?なんか見たことがある影が・・・
俺に気づいたのか手を振ってこっちに近づいてきた。
「おー!奇遇だなユウシよ!私は偶然通りかかったんだが偶然会ってしまうとは流石、友人だな!」
・・・棒読みだし、俺に気付くまで立ち止まってずっと寮の方を伺ってたの見えてたぞ。
「なんだクレア。悪いが今日は構ってやれないぞ。俺は今から街に行くんだ。」
あからさまに落ち込んでる!本当に俺以外友達いないんだな。
「き、奇遇だな!私も今から街に行こうとしていたところだ!」
嘘つけ街は逆方向だぞ。
「はぁ、それは本当に奇遇だな。良ければ一緒に街に行くか?」
「本当か?ま、まあ?どーしてもと言うのなら一緒に行ってやらないこともない!」
「いや、別にどうしてもっていう訳じゃない。」
さっさと町へ行こうとする俺に、
「私が悪かったー!頼むから一緒に連れていってくれ!」
すがってくるクレア。はえーよ!もうちょっとキャラを通して来ると思ったわ。
普通にしていれば美少女なのに本当に残念だよなぁ。
「街に行くのはほぼ初めてだし、案内できる人がいるに越したことはないから願ったり叶ったりだよ。」
頼りにされて嬉しいのか、「私に付いてこい!」と張り切って前を歩く残念娘クレア。
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十分ほどでこの前見た景色に着いた
「ふふん、ユウシここがマーケットだ!」
なぜクレアが威張るのかは分からないけど、確かにここのマーケットは確かに立派だ。昼前のせいか、この前に通った時よりも活気がある。
「クレアはいつも何を買っていくんだ?」
「私はここに買いに来るのは服ぐらいだな。」
クレアの買う服って・・・今日もなんていうか奇抜な格好をしている。
ってそうじゃなくて、クレアは自分で飯を作ってるのかは不明だけど、美味しい食材なんかは分からなさそうだよな。
「まあ買い食いでもしながらぶらぶらしようぜ。案内のお礼もかねて少しなら奢るよ。」
「ここら辺の名物って何なんだ?」
「やっぱりバルド産の食材は名物だろう。ほら、あそこにも屋台があるだろう?」
「屋台には大きく「焼き鳥」と書いてある。」
「あそこではバルド大森林に出現する魔物、コカトリスの肉を使われているから少々高いが美味いぞ!」
コカトリスってそれ食べていいの?でもポチが匂いだけで涎を垂らしているのを見ると相当美味いんだろう。
「わかった、じゃあ奢るのはアレでいいか?」
「ポチのぶんも!」
「分かった分かった。すみませーん焼き鳥三つくださーい!」
店主らしき人に声をかける。
「いらっしゃい!ここの肉は冒険者さんに降ろしてもらってるから新鮮で安全だよ!」
っていうことは新鮮じゃなくて安全じゃないのもあるんだな?
一瞬だけど店主が俺達、つまり二人と一匹を見て少しギョッとしたように見えた。まあクレアの格好はギョッともするだろう。
「お代は一本につき大銅貨1枚ね!」
言われた通りに大銅貨三枚を渡す。
「ありがとう!ごしゅじん!」
流石に串のままポチに与えるわけにもいかないのでベンチに腰掛けて焼き鳥を食べる。
「うっまぁぁあ!」
ポチが叫ぶ。確かに日本円で500円くらいの焼き鳥なだけある。肉も大きくてジューシーだ。
クレアの方は「これが友人との買い食い・・・!」と一人で感動している。
「・・さっきから視線が気になるよな。やっぱりクレアの格好がおかしいんじゃないか?」
「何を失敬な!私よりユウシの服の方が一般離れしているじゃないか!」
そういわれて自分の服を見る。そうだった!転生してきてからずっとこの格好だったし忘れていた。そう言えばここに来た初日にキリアム先生にも言われた気がする。
「じゃ、じゃあさっきからの視線はクレアの格好じゃなくて俺の格好がおかしいってことか?」
考えてみればこの世界に来てからずっとこの服だった。一応寮で体は洗っていたけど服のことは考えてなかった。
「まあ、私はユウシの格好イカスと思うがな!」
「よし、新しい服を買おう!」
クレアがイカスっていうことは傍から見ると「痛い」とか「やべえ」ってことだ。
「ちょっと待て!私がイカスって言ったらなんで新しい服を買うことになるんだ!」
「いや、ほら、このタイミングじゃなくても服は欲しいと思っていたからさ。」
クレアをなだめる。
「まあそれなら?私がなじみの店を紹介してやろうか?」
「お断りします。」
「どういう意味だ!」
だってクレアの馴染みって厨二な服だろ?
クレアの機嫌を取りつつやっと商業区まで来た。
「・・・ここら辺はほとんどの店が服を製造・販売している。だが男性の流行など私にはわからぬ。」
いまだにちょっと不機嫌なクレアが、そう教えてくれた。悪かったって。
「すみませーん、ここに来たばかりで服が欲しいんですけど見繕ってもらえますか?」
早速、店に入って店員に服を見繕ってもらう。
「いらっしゃいませ!うちは丈夫さと安さが売りのオーグリ商店。何着ほど必要でしょうか?」
「とりあえず上から下まで三セットずつ下さい。」
「かしこまりました。」と店員が店の中に消えていき、再び戻ってくると手には服を持っていた。
「私の見立てではこの辺がサイズかと思います。試着されますか?」
試着室に入り試着してみたが、なんというか村人Aだ。
「お似合いです!お客様!全部で金貨二枚になりますがいかがなさいますか?」
「・・お願いします。」
靴も買い、着替えた俺にクレアが一言。
「なんていうか・・・地味になったな。」
「それは俺も自覚してるから言ってくれるな。」
何とも言えない気持ちのまま、次は商業区をまわることにした。
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