【第十六話】謎の少女現る


俺は新しい本を探して図書館をさまよっていた。


「うーん、昨日は童話とか伝記とかを読み漁ったし今日は(自分の中では)ワンランク上の図鑑とかに挑戦してみるか?」


昨日のキリアム先生の授業が終わった後、俺は図書館の閉館まで本を読み漁っていた。だって暇なんだもん。もとの世界じゃ暇な時間はスマホを弄ったりゲームをしたりしてたけど、この世界にそんなものない。まあ、本を読み漁ったお陰でもうスラスラ字は読めるようになった。

ちなみに俺が本を読んでいる間、ポチはピーター書士と、なにやら戯れてた。俺の隣でなにもしないのは退屈だろうし、遊び相手が増えてポチが楽しそうにしているのは良いが、ずっとポチは俺にベッタリだったから近くに居ないと少し寂しかった。

ともあれピーター書士曰く、「ホゥ、授業もそろそろ終わる時間だ、少ししたら来るだろう。」とのことなので来る前に一冊適当に選んで読みながら待ってようかな、なんて思っている。


「今日は魔獣やらモンスターやらの解説もしてくれると言っていたしこの『図解!バルド大森林の魔獣!』にしてみようかな。」


本を手に取り読書スペースに戻ろうとしたとき、一人の少女が目の前に現れた。



「やあ、『異界から来たりし者』よ。我は混沌に潜む者。お前はなぜここに来た?」


うわ、なにこの子?厨二病?「混沌に潜む者」とか明らかに厨二病のそれじゃん。ん?でも今「異界の者」って言ってたか?って言うことは事情を知っている人なのか?そういえばセオドア爺さんも「知らせておくべき人には話しておく」みたいなこと言ってたもんな。もしかしてこの女の子がその『知らせておくべき人』なのかな?


「俺が異世界人って知っているなんて、君は何者なんだ?」


と、恐る恐る聞いてみる。


「ふっ、私は龍の化身にして英知を持つ者。お主と話がしてみたくてな。」


見た目は美少女って感じだよな。金色の髪の毛を後ろで結んでいて見た目は中学生くらい?とてもじゃないがセオドア爺さんの『知らせておくべき人』には見えない。でも異世界だし見た目が少女でも中身は何百歳、みたいなパターンもあったりしそうだけどさ。でもなんだかこの見た目でその設定はなんていうか出来過ぎというかなぁ。


「ホントかぁ?」


「あ、当たり前だろう!」


疑いの目で見る俺に対して、慌てて返答してくる。


「我が龍の力に触れようものならお前は跡形もなく消えてしまうだろう。」


目の前の少女は大げさにポーズをとる。

・・・ふぅん、龍の化身で英知を持つ者ねー。なんか最初は驚いたけど、今はただの中二病娘に見えてきた。指ぬきグローブしてるし。


「おやユウシ君、ここに居ましたか。」


キリアム先生が顔を見せた。


「すみませんね、授業自体は早めに終わったんですが呼び出されてしまいまして。」


キリアム先生と一緒にポチとピーター書士も帰ってきた。


「ごしゅじん、そいつだれだ?」


ポチが聞いてきた。そういえば名前を聞いてなかった。

「名前は・・」と聞こうと少女を見ると少女が固まってる。


「おや?、クレアさん奇遇ですね。あなたも図書館で勉強ですか?」


クレア?この女の子の名前か?


「クレアって、この子の名前ですか?」


「クレア・メイリーズさん、私の教え子です。」


え!?そうだったの?っていうことは


「・・・ただの中二病な少女じゃねえか!」


「中二病?良く分かりませんが、確かにクレアさんの言動はちょっと独特ですかね。先程もクレアさんの制服の改造について呼び出されてしまいまして。」


本当だ、よく見たら服装が改造されてるけどここの制服だ。


「本当だぞ!私は英知を持つ者なのだ!」


「確かにクレアさんは座学は学年トップですね。」


「我が龍の力に触れようものならお前らは跡形もなく消えてしまうのだぞ!」


「本当か?ポチ。」


「ごしゅじんほどじゃないけど、こいつはザコだな。」


ポチのとどめの一撃。「ごしゅじんほどでもないけど」の部分で俺もハートに大ダメージを受けてるが、そろそろ可哀そうになってきた。クレアの目がうっすらと涙ぐんで来た。


「でもどうして俺に話しかけてきたんだ?」


とりあえず話題を変える。


「キリアム先生に連れられているのを見て・・・」


ああ、初日に俺がここに来た時の話か。いまだに元の世界の格好してるけど、学園じゃ目を引くもんな。」


「・・漆黒の髪と瞳がカッコイイなって・・」


やっぱり厨二じゃねえか!


「確かに黒い髪に黒い目はこの国じゃ珍しいですね。」


確かに城塞都市のマーケットを歩いた時にもこの学園でも黒い髪なんてほとんど見ないな。

ん?この国じゃ見ないってことは他の国には居るってことか?


「じゃあさっきの『異界から来たりし者』ってもしかして国外から来た人ってことか?」


「?理解していたわけではないのか?そういえばさっき異世界人がどうとか・・」


しまった!墓穴を掘った!セオドア爺さんに人に喋るなって言われてたのに。

話題を変えねば!


「結局珍しいもの見たさに、この黒髪と黒目を見に来たってことなのか?」


「ち、違う私は話しかけたかっただけで・・・この学園では話の通じる者が居ないから異界の者なら話が通じるかなと思って・・・」


未だに涙ぐむクレアがそう訴えかけてくる。話を逸らすことができたけどこれはこれでなんか可哀そうになってきた。今だに厨二ワードが抜けていないのは置いといてフォローを入れねば。


「ほら、要は友達が欲しかったんだろ?俺もこの学園に友達いないし、良かったら初めての友達になってくれないか?」


そう言った瞬間にパァっと顔が明るくなる。


「ユウシと言ったか。よかろう、お前がどうしてもと言うのなら私の眷属一号にしてやろう!」


なんだか「一号」っていうのが物悲しいな。

こうして俺は残念中二病娘のクレアと友達になった。

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「さて、では今日の授業をしましょうか。」


キリアム先生が話し始める。

今ここに居るのは俺、ポチ、ピーター、クレアだ。なかなか大所帯になったものだ。


「そう言えばクレアはキリアム先生の教え子だって言ってたけど何年生なんだ?」


見た目と中身からクレアは中学二年生くらいだと思うけど、この学園のシステムが分からない。


「私は高等部の二年だぞ。17歳だ。」


え!?、てっきり14歳くらいかと思ってたけど、なに高2なの?高2でこの見た目はもう成長は絶望的だな。


「なんだその目は!言いたいことがあるなら言え!言っておくがこの見た目は仮の姿であって、実はもっとナイスバディな・・・」


「わかったわかった。そういうことでいいから。」


「なんだその「どうでもいい」みたいな口ぶりは!」


クレアが騒ぎ始める。


「授業を始めてもいいですか?」


キリアム先生がクレアに尋ねる。クレアはピタッと騒ぐのをやめ、コクコクと首を頷かせた。どんだけ先生が怖いんだお前は。


「さてでは始めましょう。まずは前回の続き、聖と闇の属性です。」

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