【第十四話】図書館と梟

「よろしくお願いします」


「まあそう言ってもまだすむところも決まってないがの。」


 セオドア爺さんがオチャメな感じでそう言った。

 なんじゃそりゃ?この爺さん見切り発車で決めたのか?


「まあ学生寮が空いてるはずじゃし、直ぐに用意はできるじゃろ。」


 なら良いけどさ、これで「部屋決まるまで野宿ね」なんて言われてたらたまったもんじゃなかった。


「事務室よ、今から一人分部屋を開けられるか?・・・そうか、わかったぞい。」


 机から石を取り出してそれに話しかけたセオドア爺さん。


「今、何をしていたんですか?」


「今か?念話石を使って事務室と連絡を取ったんじゃ。まあ、これは一個だけでも相当な値段じゃし、魔力を込めんと使えんからユウシ君が使うことはできんがのう。」


 なんだ、結局この世界らしい道具は使えないのか。


「それで、高等部の学生寮が空いているようじゃ。キリアム先生、すまんが事務室に寄った後に学生寮まで案内を頼まれてくれんかの?」


「分かりました。ついてきてくださいユウシさん。」


「ああ、それと、お主が「異世界から来た」と言うことはなるべく伏せておくようにの。お主は特異な存在じゃ、トラブルに巻き込まれかねない。知らせておくべき人物には儂から話しておくでの。」


 キリアムさんに連れられて同じ校舎内の事務室に向った。


「書類を貰ってきました。ここにサインをお願いします。重要事項を良く読んでくださいね。」


 キリウスさんから紙とペンを渡される。

 ・・・やべえ、字が読めねぇ。

 すみませんこれって何語ですか?日本語と英語は読めないんですけど?


「おや?大陸文字が読めないんですか?」


 何かの書類らしき紙を前に固まる俺にキリアムさんが聞いてきた。


「はい、俺の知ってる文字じゃないみたいです。」


 見たこともない文字だ。


「分かりました、代わりに私が読みましょう----」



 なんとか書類を書き上げて名前もキリウスさんに別の紙に書いてもらい、それを写してなんとかなった。

 無事、事務員さんに書類を受け取ってもらい、代わりに寮の鍵を受けとる。


「そうそう、学園長から伝言です。『薬草と魔法の木の実はユウシくんは使わないだろうし学園で買い取っておくぞ』だそうです。」


 と、鍵と一緒に袋を渡される。外からの感触からしてそんなに入ってないな。まあ、たかが薬草とリンゴならこんなもんだろ。

 職員棟を出て学生寮に向おうとすると、「グー」とポチの腹が鳴った。

 真面目な話をしている間、空気を読んで黙っていたポチは、


「ごしゅじんーお腹すいたー」


 と飯を要求してきた。


「では、朝食を食べに行きましょうか。」


 キリウスさんは苦笑しながらそう提案してきた。

 思わぬ臨時収入が入ったし流石に朝飯分は入ってるだろう。

 そういえば貰ったお金を確認してなかったな。

 袋の中には大きな金貨が一枚と小さい金貨が4枚か。金貨って相当価値ありそうだな。


「キリアムさん、これって高いんですか?低いんですか?」


「大金貨一枚と小金貨4枚ですか。妥当か少し多いくらいですかね。すべて傷んでなければもっと値段が付いたはずです。」


「いや、この金貨の価値は高いのかどうかなんですけど。」


「ああ、通貨を知ってる筈もなかったですね。この国には5種、それに大小の合計10つの通貨があります。価値は下から順に、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨。下の貨幣よりそれぞれ10倍の価値があります。そしてそれぞれに大小があって大貨幣は小貨幣の5倍の価値です。」


 例えば小さい金貨は大きい金貨の1/5の価値であってその下の大きい銀貨の二倍ってことか。・・・それで結局金貨は一枚で何円くらいだ?


「着きましたよユウシ君。ここが学生食堂です。学園の生徒は皆、自炊かここで三食を済ませています。」


 話しているうちに学食についてしまった。結構立派な学食だな、中も広い。


 メニューを読めないから、キリアムさんと同じものを頼んでからキリアムさんと同じようにレジらしき所に並ぶ。


「お会計は大銅貨一枚です。」


 このパンとスープとサラダと焼いた肉のセットが大銅貨一枚っていうことはだいたい銅貨一枚が日本円で百円くらいか?すると俺の今持ってる金貨は合計で9万円?マジかよ・・しかも傷んでなかったらもっと高く売れたらしいし大切に持ってくるべきだったな。


「小金貨一枚しかないんですけど・・・」


 レジのおばちゃんが嫌な顔をして小金貨を受け取る。そりゃあ俺だってレジで500円の買い物に1万円出されたらいやだもんな。

 なんとかレジを抜けてやっと朝食にありつく。もう九時ぐらいなのかな?とにかく腹減った。


「ごしゅじん!これめちゃくちゃうまいぞ!」


 ポチにも何か買ってあげた方が、とキリアムさんが進めてくれた豆と肉を煮込んだような料理をポチが食べている。値段は小銅貨二枚でなんでも犬に似た種族用のご飯らしい。まあ確かに森の飯に比べると全然うまいだろうよ。



 学食をでて数分後、やっと寮に着いた。石造りで小綺麗な建物だな。


「ユウシさんの部屋はここですね。」


 鍵でドアを開ける。中はベッドや机等の基本的な家具が設置されていた。


「それでこれからの予定ですが、字が読めないなら本での勉強はできませんよね・・・」


 キリアムさんはそういうと考えだす。


「初等部でなら基礎から文字が学べると思いますがどうします?」


 初等部っていうことは周りは小学生だけってことか?ロリコンなら歓喜するだろうけど俺はあいにくそんな趣味もないし小学生に混じって勉強するのは、なんていうかやり辛い。


「他に方法はありませんかね?」


「他だと図書館でそういった初歩的な本を読むしかないですかね。」


「じゃあそうします。」


「では図書館に案内しますね。ですがこのあと私は少し用がありまして、図書館への案内しかできそうにないんですよ。代わりに書士を紹介するのでその方に図書館を案内してもらってください。」


「分かりました。」


「では図書館に行きましょうか。」


 学生寮から職員棟の方向へ少し戻ったところに図書館はあった。


「大きいですね。」


 図書館がめちゃくちゃでかい。寮に行く途中も「でかい建物があるなー体育館かなー」とは思ってたけどまさか図書館とは。


「まあ、大陸中の魔術関連や学問関係は大体ここにありますからね。」


 そりゃ大きいわけだな。


 図書館の受付みたいな所に連れてこられた。受付には女の人が座っている。横に居るのはフクロウか?なんちゃらポッターに出てきそうなフクロウだな。


「ピーターさんお元気ですか?」


 キリアムさんが受付に話しかける。ん?ピーター?受付の人は女だしフクロウにさん付けするのか?


「おお、私はこの通り元気だ。お主も元気そうだな、キリアム先生よ。」


 いきなりフクロウが喋りだした。


「ちょっと待ってください。そのフクロウ喋るんですか?」


 ポチが喋った時の反応からどこかに喋る動物がいるのかもとは思ってたけど不意打ちでフクロウから良い声が出るとビックリする。


「ホゥ、お主は新入生かな?」


「この子はミツヤユウシ君。今日ここに来たばかりなんですよ。詳しくはセオドア様が話されるかと思います。」


「セオドアがらみか、ややこしいことではあるまいな?」


 仲が良さそうにフクロウと喋るキリアスさん。


「ごしゅじん、このフクロウもたぶん強いぞ。」


 ポチが俺に話しかけてくる。セオドア爺さんも「強い」ってい居てたけど、ポチの言う強いがどういう基準で強いのかわからん。


「ホゥ、喋る犬か確かにここらへんじゃ見ない顔だな。」


「ポチはポチっていうんだ!」


「私はピーター。よろしくなポチよ。」


 動物が会話しているのを見るのは慣れないな。


「それではピーターさん彼のことは後はまかせます。図書館を案内するついでに語学の本を何冊か見繕ってあげてください。」


「今日は有難うございましたキリアムさん。」


「すみませんね。学生寮への案内だけで終わると思っていましたので、最初から「このあと用がある」と伝えておくべきでした。」


「いえいえ、ここまでしてもらって本当に助かりました。」


「それでは」とキリアムさんは図書館から出ていった。


「ホゥ、それでは案内するか。」


 バサバサと飛んできて俺の頭の上にとまるフクロウ書士ことピーター。


「すまないな。図書館を飛ぶと羽根が散ると文句を言われてな。それでは行こうか。」


 翼を進行方向に出して歩き出す。「ごしゅじんポチも」と羨ましがったのでポチも抱えている。


「ここらが語学のコーナーだ。どういったものをお望みかな?」


「初歩的なものをいくつかお願いします。ここに来たばかりで字が読めないんです。」


「ホゥ、それはそれは、ではここらへんだな。」


 ピーターにいくつか本を見繕ってもらった。中身を見ると絵と共に字が書いてある。・・・これ絵本?


「ち、ちなみに貸し出しはできますか?」


「もちろんできるとも。」


「じゃあお願いします。」


 俺は本を借りると寮へ戻り読み進めることにした。

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