【閑話】セオドアと謎の青年2

 オズウェルにあの青年を預かる旨を伝えに団長室まで来た。アイザックは外に待たせてある。


「おお、セオドアかルガードから話は聞いている。謎の男に会いに行ったんだってな。」


「そうじゃ、それについて相談事があっての、彼の身柄を魔導学園で預からせてもらえないかの?」


「どのみち専門家の力を借りて調べるべきだとルガードと話していたところだ。だが大丈夫か?素性も分からないのだぞ?」


「見た感じ本当に魔力が無いし害はなさそうじゃ。まあ、異世界人だと言っているし異世界の不思議な力なんて物があるかもしれんがの。」


「・・・冗談でも怖いことを言うな。分かった、身柄を魔導学園に渡そう。だがくれぐれも注意しろよ?」


「分かっとる、分かっとる、じゃあそういうことで頼むぞ。迎えは明日よこすのでの。」


「ああ、そういえば奴が持っていた荷物はどうする?学園の方で調べるか?」


「そうじゃな、それも預かっていこう。今から持ち帰ることはできるかの?」


「部下に持ってこさせよう。」


 セオドアはユウシの荷物を預かり、部屋を後にする。外で待っていたアイザックを連れて騎士団の敷地を出る。


「しまったオズウェルに馬車を用意してもらえばよかったのう。しょうがない、歩いて帰るかの。」


「先生、私が用意しましょう!」


 そう言うとアイザックは念話石で自分の馬車を呼んだ。


(自分の馬車から念話石まで、流石金持ちじゃの。)


「ささ、どうぞお乗りください。」


 二人は到着した馬車に乗り込み学園へ向かう。


「どれどれ、中には何が入っているのかの。」


 セオドアはリュックを開き中をのぞく。


(これは・・・ナイフか見た感じはよくある普通のナイフじゃな。あとは・・これは薬草か?少し傷んでおるのう後で何の薬草か鑑定してもらうかの。あとは木の串と筒かの?後は木の実か。気になるのは薬草と木の実じゃな、これを調べれば彼が今までどこにいたのか大体わかるじゃろう。)


「先生付きました。」


 アイザックが声をかけてきた。考え事をしているうちに学園へついたようだ。


「ありがとう、じゃあまた今度な。」


 アイザックと別れて職員棟に向かう。もう日が暮れているせいか学生たちは疎らだ。


「セオドア様、戻って来られたのですね。」


 職員室に行くとまだ残っていたキリアスがセオドアに話しかけてきた。


「どうでしたか、その器のない男は。」


「一つ質問じゃが、魔力が全くない人間が森の中で生き延びることはできると思うかの?」


「素の戦闘能力が高くない限りはまず無理でしょうね。魔力が無いということは抗うすべがないということですから。」


「実は器のない青年がの?森の中で生活していたと言うんじゃよ。」


「魔力の少ない人間で森の中で生活できるなんて達人レベルでしょう。」


「そうじゃよなー、ところでキリアス先生、明日の朝その青年を迎えに行ってくれないかの?」


「私も少し興味が出てきましたし、分かりました。迎えに行きましょう。」


 キリアスと別れた後、セオドアは青年のリュックを鑑定に回し、一休みもかねて学園長室で待機する。


「森の中に居た、と彼は言っていたのう。果たして魔力のない物が何日もあの森の中で生き延びる事が出来るのかのう。魔力のない者があのナイフで森の生物と渡り合うのは無理じゃろうし、代わりにあの子犬が戦っていた?いや、どう見ても魔力も小さいただの子犬だったのう。」


 うーん、と悩んでいる所にコンコン、とドアがノックされ鑑定官が部屋に入ってきた。


「頼まれた品の鑑定が終わりました。一つ、その前にこの品はどこで見つけてきたのですか?」



「そんなにおかしな品だったのかの?」


「まあ、ナイフはどこにでもある品でしたし、リュックも少し高価なミノタウルスの革が使われていますがそんなに珍しい物ではありませんでした。あとこの魔晶石も何の魔獣の物かは分かりませんが魔力も弱く、高価なものでもありませんでした。しかし、この薬草達はどれもバルド大森林の深部でのみ採れる貴重なものですし、木の実に至っては未成熟な魔法の実でした。」


「ほう、深部の薬草と魔法の木の実か!」


「未成熟とはいえ魔法の木の実は深部でしか取れず一つ生るのに百年かかる代物です。こんなもの一体どこで?」


「ナイショじゃ。」


(森の中とは聞いていたがまさか深部とはのう。これは慎重に物事を運ばなくてはのう。本当に異世界人なのかもしれないのう。)

 適当にごまかして監察官を返した後、一人その青年の取り調べ記録を読み始めた。


(このミツヤユウシという青年が大森林の深部で生き延びる事が出来た理由はアレかもしれないのう。)

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「ミツヤユウシさんを連れてきました。」


 外からキリアスの声がする。魔法学園らしく魔法でドアを開けてやり、「入りなさい」と外に声をかける。


「失礼します。」と声の主、ミツヤユウシが中に入って来る。


「改めて自己紹介をしよう。セオドア・ワード、この学園の長をしておる。気軽に「セオドア爺さん」とでも呼んでくれ。名字で呼ばれるよりもそちらの方が固くなくていいんでな。昨日ぶりじゃの、ユウシよ。まあ座りなさい。」


「三谷夕士です、よろしくお願いします。」と自己紹介が返ってくる。


 昨日、資料を読んで大体の情報はセオドアの頭に入っている。


「早速じゃが話をしようかの。まず始めにお前さんがおかれている状況じゃな。今、お前さんは身体調査の名目で騎士団から身柄を預かっておる。お主の調書も見たので大体のお主のことは分かった。と、言うのはあくまでもここに呼ぶための口実じゃ。もう状況証拠的にもお主が異世界人だというのは間違い無いじゃろう。」


 ここに呼んだ理由と正直な意見をユウシに話す。


「ルガードさんは中々信じてくれなかったのにここではすんなり信じてくれるんですね。因みになんで俺が異世界人だって信じてくれたんですか?」


「一つ目の根拠はこれじゃの。」


 セオドアは昨日預かったリュックを机の上に出す。



「俺のリュックですか?」


「そうじゃ。お主が見つかった時にお前が所持していたリュックじゃ。一応危険物が入ってないか調べさせてもらったぞ。一応確認しておくが中に入っていたものはナイフ一つ、薬草数種、竹の串や筒、魔結晶が一つ、未熟な魔法の実が一つ、これでで間違いないかの?」


 中身を確認して本題に入ろうとするが、


「ナイフとか竹はもってましたけど魔結晶?魔法の実?」


「なにそれ?」といった感じに中身を確認してくるユウシ


「その様子じゃと知らずに持っていたのか?これらはすべて薬草じゃし、魔結晶と魔法の実はこれとこれじゃ。」


 リュックの中から机の上にそれを出す。


「それがそうなんですか?火打石とリンゴだと思ってました。確かに全部、俺が森の中で見つけたものです。」


「リンゴのう、確かにリンゴに似ているが全然違うものじゃな。熟した魔法の実はとても貴重で高額で取引されておるんじゃよ。」


 脱線してしまったな。話を戻そう。


「話は戻るが、すべてお前のものであるというのなら結構。あとですべて返す。危険物探しのついでにリュックやその中身の物も調べさせてもらった。まずこのリュック自体じゃがこの世界の物じゃな?」


「はい、森の中で見つけました。近くに白骨が数体あったので元の持ち主はその人達だと思います。」


「そうか、作られたのはおそらく十年以上前であると鑑定が出たし話は合うのう。傷んでいて素材まで分からなかったが、かなり質の良い物じゃ。他には・・ナイフは特に変わったところもなかったし、魔晶石も含魔量を見ると下級のモンスターの物の様じゃ。じゃがこの薬草たち、これらはバルド大森林の中でも深部にしか生息していないものじゃった。」


 ユウシの後ろにいたキリアムが驚いてる。

(しまった、そういえば深部の話はしてなかったのう。)


「森の中にいたとは聞いていましたが、深部となると・・・それまでのいわゆる森とは危険の度合いが違いますよ?」


「キリアム先生が驚くのも頷ける。お主は見つかった時にはもうその恰好だったらしいのう。じゃが普通そんな恰好であの森に行くことは自殺と同じじゃ。

 そこでユウシを異世界人とする二つ目の証拠、『魔力の器が無い』という事実じゃ。」


「でも例えば魔力を隠せたりするなら魔力の器っていうのが無いように見せることも可能なんじゃないんですか?」


 と、ユウシが聞いてきた。


「魔法を極めたものであればできなくは無いじゃろう。しかしそれも瞬間的にじゃし、お主取り調べられている時手枷をされていたじゃろ?あの手枷をはめられた者は魔力操作が出来なくなり、魔力量の偽装も出来なくなる。それに偽装するにしても普通は器が無いように偽装するのではなく、魔力が少なく偽装するはずじゃろうしの。それでユウシよ、森の生き物やモンスターに襲われたことはあるかの?」


「一回だけ、猪みたいな奴に追われたことがあります。」


(やはり、あの森で一回だけしか襲われないのいくらなんでも少なすぎる。)


  「たった一回ですか!?普通あり得ませんよ?」


 キリアムも驚いている。


「足と腕が生えたサカナとか巨大なミミズとか色々見ましたけど本当に襲われませんでしたよ?」


「それじゃよユウシよ。今、お主が言っていたのは恐らくはファイターフィッシュとタイランワームじゃろう。この二匹はバルド大森林の深部でなくても目撃されるがこの二匹は森の凶暴な生物の代表じゃ。普通、襲われないわけがないんじゃよ。ではなぜ襲われないのか。これは仮説じゃが、お主が魔力の器を持っておらず魔力を有してないからじゃないかと思う。」


「なんで魔力を持ってないと襲われないんですか?」


「人間と違いバルド大森林の生き物やモンスターは相手の魔力を感じる事が出来る。特にタイランワームは目がない代わりに魔力をより感じる事が出来て地中から地上を動く獲物を狙う事が出来る。タイランワームに限らずほとんど生物は草木や他の動物を食べて魔力を確保しておる。」


 なかなか「君が弱すぎて襲われないんだよ」とは言いづらい。


「俺に襲う価値がなかったってことですね?」


「まあザックリいうとお主が弱すぎるがために襲われることがなかったんじゃろうな。お主だって食べられもせぬ木の実をわざわざ採ったりしないじゃろう?」


 ユウシが察してくれたのでセオドアもぶっちゃける。


「まとめると、お前さんがバルド大森林、しかも深部にその軽装備で居たことの物的証拠。そして魔力の器が無いこと、この二つが我々がお主を異世界人とした理由じゃ。」


 そして今日の本題に入る。


「してユウシよ、お主これからどうするつもりじゃ?まず、お主は元の世界に帰りたいのか?ここに居たいのか?」


 まずは本人の意思を聞かなければならない。そして、どちらにせよこれからの予定を聞いておきたい。


「帰る事が出来るのなら帰りたいと思ってます。」


「帰るあてはあるのかの?」


「正直、ここに来た方法もここに来た理由もわからないんです。」


「すると帰り方も分からぬという事じゃな?ふむ、正直お主のように『異世界から来た』なんていう人物は初めて見たのでのう、残念じゃが儂の知識にお主をもとの世界に返せることはできぬ。」


「でもこの世界に来れたなら帰る方法もきっとあるはずです。一人で探してみますよ。」


「そうか、じゃが行く当ては無いじゃろう?」


「そこでじゃ。お主が良ければここに滞在していかないか?」


 セオドアは今日夕士が来る前から考えていたこと、この少年を学園で面倒見るということを提案してみる。


「いいんですか?俺がここに居ても何もできませんよ?」


「確かに儂にはお主を返してやることはできない。じゃがお主の帰る手段を捜索してやることならできる。儂の知り合いに心当たりがないか聞いてみよう。それに、実は昨日お主から聞いた魔力を使わない魔道具について気になっていての。お主の世界の知恵を貸してほしい。もちろんただでとは言わぬ。住む場所を用意しよう。どうじゃ?悪くは無いじゃろう?」


「でも俺には魔法の知識なんてありませんよ?」


「儂は異世界の知識が欲しいんじゃよ。実際、魔力の使わない魔道具なんて考えたこともなかったしの。」


 セオドアは本当は魔道具など二の次であり、不遇にも力も持たずこの世界に転移してきたこの青年がこの先どういった道を歩んでいくのか、ジジイながらに興味を持ったから学園に残らないかと提案したのである。そんな裏の考えを知ることもなくミツヤユウシは


「わかりました。じゃあ・・よろしくお願いします。」


 と、この要塞都市の魔導学園での生活を始めたのであった。

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