【閑話】セオドアと謎の青年
ここは、とある騎士団の会議室。会議に参加しているのは八名ほどだろうか。
「あー、やっと終わったわい。」
会議が終わったのか一人の老人が疲れた声を出す。
「儂が来ずとも関係者だけで会議すればいいんじゃないかの?オズウェル。」
老人が、学園からここまで遠いんじゃよな、と愚痴をこぼす。
老人にオズウェルと呼ばれたその男、年はその老人と同じか少し低いくらいだろうか、鍛えているのかガタイが良い。
「そんなことを言うなセオドアよ。毎年行っているとはいえ、魔導学園の生徒の森での実習はとても危険だろう?だからこうして守護騎士団団長である俺と魔導学園学園長のお前が会議に参加しなければならないのだ。」
と、オズウェルがセオドアと呼んだその老人を説く。
「そうは言ってものう、キリアム先生が居ればそれで十分だと思うがのう?」
「森では死と隣り合わせです。だからこうして騎士団の協力を要請するためにここに来たのでしょう?こんな大事な話に学園長であるセオドア様が居ないでどうするのですか?」
キリアムと呼ばれた男もセオドアに言って聞かせる。
「キリアム先生が言うのならしょうがないのう」
セオドアはそれ以上不満は言わなくなったがそこに居る全員が来年も同じことを言うのだろうと諦めている。
「もう会議も終わった事じゃし帰るぞ。」
セオドアが見るともう窓の外は日が暮れていた。
「では馬車の手配をしましょう。」
オズウェルが隣に座っていた部下に馬車の用意をさせる。
「悪いの、送ってもらって。」
「こっちまで来てもらってるしな。馬車の用意ぐらいはな。」
セオドアにオズウェルが答えた。
「ではそろそろ行くかの。」
セオドアら魔導学園関係者は椅子から立ち、会議室を後にする。
「お疲れ様です!先生!」
会議室を出ると外で待機していた若者が一人、セオドアに近寄ってきた。
「アイザックか、まだここにいたのか。」
「先生が居るなら僕もここに残っているに決まっているじゃないですか。」
アイザックと呼ばれたその男が答える。
「仕方ない、お主も一緒に馬車に乗っていくか?」
「いいんですか?ありがとうございます!」
アイザックを交えた一行は馬車へ向かう。
セオドア達が馬車へ乗るため、建物の廊下を歩いている途中、一人の騎士が廊下をこちらへ歩いてきた。
「おお、お主は確かアルバートじゃったかの?」
前から歩いてきた騎士、アルバートは何度も学園の森での実習に付いてきたこともありセオドアは覚えていた。
「これはセオドア様、お久しぶりです。今から団長へ報告書を出しに行くところなんです。」
疲れた様子のアルバートはそう答えた。
「お主は対外部隊じゃったか。今日も魔物やモンスターの討伐かの?」
「ええ、まあ、それもあるのですが・・・」
なんだかアルバートの歯切れが悪い。
「他に何かあったのかの?」
「ええ、実は討伐の帰りに不審な男を拘束したのですが・・・」
アルバートが帰り際に拘束したという男について話し始めた。
「男は『ミツヤユウシ』と名乗っています。ミツヤが苗字だそうです。」
「『ミツヤ』も『ユウシ』もここらじゃ聞かない名じゃな。」
「そして、自分は異世界から来たのだと主張していまして。」
「異世界とな?異国ではなく?」
「はい、異世界と言っていました。普通なら見つかった場所から言っても精神異常者として処理をするのですが・・・不思議なことに彼には全く魔力が無いのです。」
「魔力が無いか、高い技術を持つ魔法使いであれば偽装はできるがどうじゃ?」
「戻ってきてから魔力が使えぬよう罪人用の枷をして再度、計魔石を使って魔力を計ってみましたが魔力をまったく持っていませんでした。部下も器が無いのではないか、なんて言い出す始末でして。」
「ほう、面白そうじゃの。キリアム先生、儂はその青年に会ってくる。先に魔導区に帰ってよいぞ。」
「途中からそんな気はしていました。分かりました、でも遅くなる前に帰ってきてくださいね?」
アルバートは「騎士団の承諾は?」などと思いながらも魔導についての専門家であるセオドアにあのユウシという青年を見てもらった方がいいと判断して青年との面会を承諾した。
「先生、私もついていきます!」
アイザックがいきなり話しかけてくる。
「別についてこなくてもいいぞい。」
「ちょうどよかった。ではアイザック君、学園長先生の帰りが遅くならないように見張っていてくださいね。」
「分かりました。キリアム先生。」
アイザックに少し鬱陶しく思いながらもセオドアは「それで今はどこにいるんじゃ?」とアルバートに案内をたのむ
「私は報告がありますので部下に案内させましょう。」
「そうじゃ、他にその少年について他に情報はあるかの?」
「そうですね、拘束したときの所持品はリュックのみ、中には薬草らしきもの、木の串や筒、フルーツ、ナイフでした。あと犬を飼っていました。」
「その犬に変わったところは?」
「バルド大森林の中でも犬型はいますが、見たことのない種類だったので森の生き物ではないかと。子犬のようでしたし魔力量もとても少なく特に害はなさそうなので一緒に牢屋に入っています。」
「分かった。それじゃあ会ってくるぞい。」
セオドア(と勝手に付いてきたアイザック)はアルバートと別れて牢屋棟へ向かった。
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「面会だ。」
この牢屋の担当の兵士が中に声をかける。「はい」と中から声がした。兵士がカギを開けて扉が開かれる。中に居たのは一人の少年と子犬一匹。
「やっほ。元気?」
学園の生徒たちにするように挨拶をする。第一印象で怖がらせてはいけない。
「はあ、元気ですけど・・」
そう答えた青年を見る。服装は汚れていてここでは見ないデザインであり生地も特殊な生地のようだ。
「儂がここに来たのは不思議な人間がここにいると人に聞いての。ちょっと失礼。」
そう言って頭に手をのせて魔力を流し込もうとする。
(ほう、本当に魔力が流れないということは、)
「ふむ、本当に器が無いようじゃな。興味深い。」
と、つい声に出てしまう。魔力の器が無いなんて聞いたことが無い。
「まず、貴方はどなたですか?」
「儂?儂はセオドアという名じゃ。」
いまだに青年は誰?という顔をしている。
すると後ろから、
「先生はここフォーレの魔導学園の学園長にして《七賢者》の一人にあらせられるお方。本来お前のような一般人とは話す機会さえ巡ってこぬ。感謝に思えよ。」
とアイザックが声を出す。自分の紹介をしてくれるのはいいが一言二言余計な言葉が多い。
「やめんかみっともない。邪魔じゃ、お前はここから出ておれ。」
アイザックを外にやる。
(あやつは能力はあると聞いたが貴族出身だとかで人を見下している所があるのう。)
「これで邪魔者はいなくなったの。今日儂が来たのはお主が器を持っていないとアルバートに聞いてな。興味が沸いたんで来たんじゃ。」
ここに来た理由をとりあえず説明する。
「ごしゅじん、この爺ちゃん強いぞ!」
いきなり犬が喋りだした。
「ほう、喋る犬か。珍しいの。」
喋る動物は学園にも数匹いるがめずらしい。
「そういえば異世界転移してきたとか言ってたかの。この世界のことは全く知らないのかの?」
魔力が全く無いと聞いて来たがそういえば異世界から~とも言っていたのう。こりゃ少し現実味が湧いてきたのう。
「転移してきてからはあの森にずっといましたから。」
「ほう!ずっと森に!なるほどのう。」
アルバートめ、「帰りに」とは聞いていたが「森の中で」なんて聞いていないぞ?
「それよりも「うつわ」ってなんですか?」
魔力の器について軽く説明してやる。
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「う、器って人工的に作れたりしませんかね?」
「さあ?、皆生まれた時から持ってるものじゃしのう。そんなこと研究しとる奴なぞ居ないじゃろうな。」
器についての研究をしてるやつはいるが器のゼロから作る奴など聞いたことが無い。
落胆している目の前の青年が
「この世界には『魔道具』とかは無いんですか?魔力がなくても使えるようなものは。」
と聞いて来た。
(魔力を使わない魔道具?なんじゃそれは、トンチかの?)
「確かにこの世界『魔道具』と呼ばれるものはあるが、魔道具なんてものは魔力を入れることで初めて動く機械のことじゃ。魔力のないお主には使えまい。」
(なんで魔道具を知っていて器はしらないんじゃろう。)
「それよりなぜ魔道具という単語は知っておったんじゃ?」
「元居た世界ではゲームやアニメと呼ばれる娯楽があって、その舞台がこの世界みたいに魔法の世界だったりするんです。架空の世界ですけど。」
「ふむ、良く分からんの。要はお主のもと居た世界にもこの世界に似た世界の知識があったりするという事か?」
「まあそんなところです。」
「なるほどのう、それにしても異世界の知識か・・・お前さんにはますます興味が湧いたの。」
ドアが開き、アイザックが入ってきた。
「先生そろそろお時間です。そろそろ学園へ戻りましょう。」
(いい所なのにいらぬことをしよって)
「わかった、わかった。まだ聞きたいことはあるんじゃがのう。そうじゃ、お主はここから出たいか?」
「はい」と答える。青年が答える。
「じゃあ儂が身元引き受け人になってやろう。その代わり体の仕組みを調べたり、元居た世界の事を話してもらったりはしてもらうぞ?よし、決まりじゃな!そうとなったら早速手続きに行ってくるとしよう。」
(よし、そうなったら早速オズウェルに言って身柄を渡してもらおうかの。)
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