【第十三話】異世界人の証明

敷地内の一番奥の建物まで来た。なんだか雰囲気がある建物だ。


「こちらです。」


案内されてひとつの部屋の前に来た。目の前には物々しい木製のドア。


「ミツヤユウシさんを連れてきました。」


キリアムさんがドアをノックする。


勝手にドアが開き「入りなさい」と中から声が聞こえる。


「失礼します。」と部屋の中に入る。部屋の中にはセオドアが沢山の書類の乗せられた机の向こうに座っていた。


「改めて自己紹介をしよう。セオドア・ワード、この学園の長をしておる。気軽に「セオドア爺さん」とでも呼んでくれ。名字で呼ばれるよりもそちらの方が固くなくていいんでな。昨日ぶりじゃの、ユウシよ。まあ座りなさい。」


あれ?俺、自己紹介したっけ?なんで俺の名前知ってるんだろう。とりあえず「三谷夕士です、よろしくお願いします。」とあいさつを返して机の手前に用意されていた椅子に座る。



「早速じゃが話をしようかの。まず始めにお前さんがおかれている状況じゃな。今、お前さんは身体調査の名目で騎士団から身柄を預かっておる。お主の調書も見たので大体のお主のことは分かった。」


ああ、だから名前知ってたんだ。そういえば俺の体を調べるって守護騎士団のルガードさんもそんなこと言ってたな。


「と、言うのはあくまでもここに呼ぶための口実じゃ。もう状況証拠的にもお主が異世界人だというのは間違い無いじゃろう。」


「ルガードさんは中々信じてくれなかったのにここではすんなり信じてくれるんですね。因みになんで俺が異世界人だって信じてくれたんですか?」


「一つ目の根拠はこれじゃの。」


机の上に見覚えのあるリュックが置かれていた。


「俺のリュックですか?」


「そうじゃ。お主が見つかった時にお前が所持していたリュックじゃ。一応危険物が入ってないか調べさせてもらったぞ。一応確認しておくが中に入っていたものはナイフ一つ、薬草数種、竹の串や筒、魔結晶が一つ、未熟な魔法の実が一つ、これでで間違いないかの?」


ちょっと待って、知らないものが多く入ってる。


「ナイフとか竹はもってましたけど魔結晶?魔法の実?」


薬草は結局食べなかった山菜たちのことかもしれないけど魔結晶と魔法の実は本当に知らない。


「その様子じゃと知らずに持っていたのか?これらはすべて薬草じゃし、魔結晶と魔法の実はこれとこれじゃ。」


リュックの中から取り出されたのは火をおこすのに使っていた石とリンゴだった。


「それがそうなんですか?火打石とリンゴだと思ってました。確かに全部、俺が森の中で見つけたものです。」


「リンゴのう、確かにリンゴに似ているが全然違うものじゃな。熟した魔法の実はとても貴重で高額で取引されておるんじゃよ。」


そんな貴重なものだったのか。結構ポチも俺も食べてたけど勿体なかったかな。


「話は戻るが、すべてお前のものであるというのなら結構。あとですべて返す。危険物探しのついでにリュックやその中身の物も調べさせてもらった。まずこのリュック自体じゃがこの世界の物じゃな?」


「はい、森の中で見つけました。近くに白骨が数体あったので元の持ち主はその人達だと思います。」


「そうか、作られたのはおそらく十年以上前であると鑑定が出たし話は合うのう。傷んでいて素材まで分からなかったが、かなり質の良い物じゃ。他には・・ナイフは特に変わったところもなかったし、魔晶石も含魔量を見ると下級のモンスターの物の様じゃ。じゃがこの薬草たち、これらはバルド大森林の中でも深部にしか生息していないものじゃった。」


バルド大森林って俺が居た森の事か?なぜだか後ろにいたキリアムさんも驚いてる。


「森の中にいたとは聞いていましたが、深部となると・・・それまでのいわゆる森とは危険の度合いが違いますよ?」


「キリアム先生が驚くのも頷ける。お主は見つかった時にはもうその恰好だったらしいのう。じゃが普通そんな恰好であの森に行くことは自殺と同じじゃ。

そこでユウシを異世界人とする二つ目の証拠、『魔力の器が無い』という事実じゃ。」


それは昨日も言っていたな。魔力を生命活動に~ってやつか。


「でも例えば魔力を隠せたりするなら魔力の器っていうのが無いように見せることも可能なんじゃないんですか?」


もちろん俺はそんなことしてないが好奇心で聞いてみる。


「魔法を極めたものであればできなくは無いじゃろう。しかしそれも瞬間的にじゃし、お主取り調べられている時手枷をされていたじゃろ?あの手枷をはめられた者は魔力操作が出来なくなり、魔力量の偽装も出来なくなる。」


セオドア爺は、「それに偽装するにしても普通は器が無いように偽装するのではなく、魔力が少なく偽装するはずじゃろうしの。」と付け加えた。


「それでユウシよ、森の生き物やモンスターに襲われたことはあるかの?」


「一回だけ、猪みたいな奴に追われたことがあります。」


あの時は森に迷って大変だった。あとは子ウサギで二度、死にかけたけどあれはこっちから仕掛けたからノーカンだ。決して子ウサギに負けたのが恥ずかしいから言わなかったわけじゃない。


「たった一回ですか!?普通あり得ませんよ?」


キリアムさんが驚く。


「足と腕が生えたサカナとか巨大なミミズとか色々見ましたけど本当に襲われませんでしたよ?」


「それじゃよユウシよ。今、お主が言っていたのは恐らくはファイターフィッシュとタイランワームじゃろう。この二匹はバルド大森林の深部でなくても目撃されるがこの二匹は森の凶暴な生物の代表じゃ。普通、襲われないわけがないんじゃよ。」


まあ確かにその二匹が戦ってるところを見たけど、どっちも強そうだった。


「ではなぜ襲われないのか。これは仮説じゃが、お主が魔力の器を持っておらず魔力を有してないからじゃないかと思う。」


「なんで魔力を持ってないと襲われないんですか?」


「人間と違いバルド大森林の生き物やモンスターは相手の魔力を感じる事が出来る。特にタイランワームは目がない代わりに魔力をより感じる事が出来て地中から地上を動く獲物を狙う事が出来る。タイランワームに限らずほとんど生物は草木や他の動物を食べて魔力を確保しておる。」


・・・やっと言いたいことがわかった。


「俺に襲う価値がなかったってことですね?」


「まあザックリいうとお主が弱すぎるがために襲われることがなかったんじゃろうな。お主だって食べられもせぬ木の実をわざわざ採ったりしないじゃろう?」


セオドア爺の「弱すぎる」という言葉が心に刺さる。「弱すぎるから」なんて認めたくないけど、子ウサギに負けたことから言っても間違いないよなあ。


「まとめると、お前さんがバルド大森林、しかも深部にその軽装備で居たことの物的証拠。そして魔力の器が無いこと、この二つが我々がお主を異世界人とした理由じゃ。」


大体俺が伊勢可人たる理由は分かった。いまだにセオドア爺の「弱すぎて」の言葉から立ち直れてないけど。


「してユウシよ、お主これからどうするつもりじゃ?」


・・・考えてなかった。あの森では考える余裕もなかったけどこれからどうしよう?


「まず、お主は元の世界に帰りたいのか?ここに居たいのか?」


そうか、召喚されたとかならまだしもここに居る理由がないなら帰ってもいい、のか?それなら危険なこの世界からは早く帰りたい。


「帰る事が出来るのなら帰りたいと思ってます。」


「帰るあてはあるのかの?」


「正直、ここに来た方法もここに来た理由もわからないんです。」


「すると帰り方も分からぬという事じゃな?ふむ、正直お主のように『異世界から来た』なんていう人物は初めて見たのでのう、残念じゃが儂の知識にお主をもとの世界に返せることはできぬ。」


「でもこの世界に来れたなら帰る方法もきっとあるはずです。一人で探してみますよ。」


「そうか、じゃが行く当ては無いじゃろう?」


確かにこの世界に来たばかりだし、人と会ってまだ一日も経ってないしこの世界に行く当てなんて無いなあ。


「そこでじゃ。お主が良ければここに滞在していかないか?」



「行き当たりばったりでも探してみよう。」なんて考えていたが、セオドア爺がそんなことを言ってくれた。


「いいんですか?俺がここに居ても何もできませんよ?」


「確かに儂にはお主を返してやることはできない。じゃがお主の帰る手段を捜索を探してやることならできる。儂の知り合いに心当たりがないか聞いてみよう。」


なるほど、学園長の知り合いっていうのなら博識の人は多いだろうな。

それに、とセオドアは続ける。


「それに、実は昨日お主から聞いた魔力を使わない魔道具について気になっていての。お主の世界の知恵を貸してほしい。もちろんただでとは言わぬ。住む場所を用意しよう。どうじゃ?悪くは無いじゃろう?」


「でも俺には魔法の知識なんてありませんよ?」


「儂は異世界の知識が欲しいんじゃよ。実際、魔力の使わない魔道具なんて考えたこともなかったしの。」


「わかりました。じゃあ・・よろしくお願いします。」


こうして俺の新しい異世界生活が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る