【第十二話】街

 あーたーらしーいーあーさがーきたー

 牢屋でのあーさーだー


 でもこの牢屋、ベットあるんですよ。ぶっちゃけ森よりもよく寝れた。どうも三谷夕士です。

 森の中では木の上だとか洞穴の中だとか碌な場所で寝れなかったしなー、まず下が固くないし不安定でもない。森に比べたらこの部屋はとても快適だよな。まだ眠そうなポチを撫でながらぼーっとする。


 それにしても昨日の爺さんは強烈だったな。いきなり部屋に乗り込んできて喋るだけ喋って帰っていった。それにここから出してくれるって言ってたな。でも体を調べるとか言ってたし不安だよな。

 まあ考えても仕方ないか。そんなことより、腹減ったなー 朝食まだかなー 食料調達しなくても食べ物が手に入るなんてここは天国だろうか。


 そんなこと言ってるとドアからノックの音が聞こえてきた。お、朝食か?


 ガチャ、と鍵が開き俺をここに入れた張本人、ルガードが部屋の中に入ってきた。


「出ろ、外に迎えが来ている。」


 え、迎え?もうここを出ていいのか?ずいぶん早いな。セオドア爺さんも仕事が速いな。

 待ってれば飯が出てくるわけだしもう少しくらいここにいてもいい気がしなくもないがポチを連れて素直に牢屋の外に出る。


「っていうか釈放ってことは俺の身の潔白は証明されたってことですか?」


「私はお前の体を調べるために連れ出すと聞いているが?」


 やけに仕事が早いなとは思ったけどそういうことかよ。じゃあ、まだ俺は嘘ついてるかどうか疑われているままなのか?


 ルガードに案内されて建物のロビーに行くと、そこにはローブを着た男が立っていた。昨日セオドア爺さんと一緒にいた奴じゃないな。


「初めまして、ミツヤユウシさん。私は学園で教師をしているヘンリー・キリアムと申します。ヘンリーでもキリアムでも好きな方で呼んでくださいね。」


 なんだか優しそうな人が来たな。見た感じ50代くらいかな?髪には白髪が混じってきていてナイスミドルって感じだ。


「後はよろしく頼みます。」


 ルガードはそう言って建物の奥に入っていった。


「では行きましょうか。」


 キリアムさんが歩き始める。


「行くってどこにですか?」


「今から行くのはフォーレ魔導学園、そこでセオドア様がお待ちです。」


 歩き始めてからから数分たつと、大通りに出た。まだ朝なのに賑やかだな。大通りには出店が並んでいてフルーツだとか野菜だとかパンだとか、とにかく色々なものが売られていた。売っている物に興味は惹かれるが一先ずキリアムさんに付いていく。因みにポチは俺の腕の中にいる。大通りまでは自分で歩いていたが、初めての人混みに圧倒されたのか「ごしゅじん抱っこして」とポチから言ってきた。

 大通りに入ってしばらくした。もう十分以上歩いているけど本当に出店のバリエーションが本当に多い。


「そんなに出店が珍しいですか?」


 あちらこちらにある出店にキョロキョロしてる俺とポチをみてキリアムさんがそう尋ねてきた。


「まあ、ここに来るまではあの森の中でしたから。」


「森の中というとバルト大森林のことか?」


「ええ、こいつと一緒に何日も森の中で暮らしてました。」


「ほう、セオドア様の言っていたことは確かでしたか。」


 キリアムさんが驚く。昨日、セオドア爺さんも俺が森に居たって言ったら驚いてたけどな、そんなに驚くことか?まあ、あそこは危険っちゃ危険だけど。もしかしたら遭遇していないだけでもっと危険な奴があの森に居たのかもしれない。本当にあの森から出てきてよかった。



「ごしゅじん、ポチお腹すいた。」


 少しは人混み慣れてきたのかポチが朝食をせがんできた。そういえば朝食まだだったな。


「あのー朝食を食べてないんですけどいつ食べれますか?」


「学園には学食もありますのでもう少し我慢してくださいね。」


「ここはまだ街の中ですけど、あとどのくらいで学園に着きますか?」


 ここまでもそれなりに歩いてけどそれでも学園のようなものは見えてこない。まずこの城壁都市の中に魔導学園とやらはあるんだろうか?


「学園はもうしばらく歩いた先にあります。そうですね、それまでこの城塞都市のことでも話しましょうか。」


 今一ここがどんな所かも分かって無かったから助かるな。


「まず、ここから西にある王都『ロードディア』を森からの脅威から守るために建てられた前線基地が城塞都市『フォーレ』の始まりとされています。ですが森には貴重な薬草や質の良い鉱石、モンスターの素材など沢山の資源が発見され今日まで発展してきました。」


 王都なるものが存在してるのか、機会があったら行きたいな。今、森で都市が発展したとか言ってたけど、前線基地からこんな城壁都市になるほど凄いのか森の資源は。


「でもあの森って危険なんじゃないですか?」


「ええ、危険なんてものじゃありません。毎年何百、何千もの冒険者があの森で死亡したり行方不明になったりしています。ですがあの森には危険があってもそれに見合うほどの恩恵を生んでいるということです。」


 さらっと怖いこと言ったな。一年に何千人も犠牲が出てるのかあの森。


「さて話が逸れてしまいましたがこの都市は大きく分けて4つのエリアに分かれています。

 一つは先ほどまで居た防衛区、都市の一番森側に位置しており、城塞守護騎士団の本部や王国騎士団の駐屯所があります。守護騎士団はあの森で行方不明になった者の捜索やモンスターの討伐、城塞都市の守護などを行っています。王国騎士団は主に都市の治安維持を行っています。」


 なるほどなじゃあ昨日会ったルガードさん達はモンスターの討伐の帰りだったのかもな。


「二つ目は今歩いている市民区、都市の中で一番大きいエリアですね。敷地はこの城塞都市の7割を占めています。その名の通り市民たちは主にここで暮らしています。行政機関もここにあります。比較的沢山の人種がここで暮らしています。」


 確かにさっきから角ついてたり一つ目でガタイが良かったり、見る数は少ないけど確かに一般の人とは見た目が違う人たちがいる。


「三つめは商業区、森から得られた素材の加工場や森の探索に不可欠なアイテムなどの製造所、鍛冶屋や工場も商業区にあります。都市の中では王都寄りに位置しており毎日王都と商業区を荷馬車が往復しています。

 四つ目は魔導区、私たちが今から行く魔導学園もそこにあります。エリアの中だと一番狭い区ですね。魔導の研究機関もあります。魔導書や魔法の杖、ポーションなどは商業区でなく魔導区で作られていたりします。魔導学園で私が教えているのは高等部ですが、学園には初等部から大学院まであるので小さいと6歳から大人まで、人種も沢山の生徒が居ます。」


 なんだか王都だとか王国騎士だとか初めて聞く単語もあったな。魔導書だとか気になるけど魔法を使えない俺にとってはいらないものだろうなきっと。


「さて、そろそろ魔導学園が見えてくるはずです。」


 そう言って指した先に見えてきたのは石造りの立派な建物。


「あそこが我々の『王立フォーレ魔導学園』です。」


 敷地は日本の大学くらい。校舎らしき建物が並んでおり学園の敷地内には制服を着た学生達がいた。見たところ日本で言う小学生~大学生までの年代の生徒が居る。それにしても久しぶりに女子の制服を見た。やっぱりいいよな制服ってさ。


「早速セオドア様のところへ行きましょうか。」


 学園の敷地をキリアムさんがどんどん進んでいく。もう少し女子生徒を見ていたかったがキリアムさんに付いていく。

 ・・・なんだかさっきから視線を感じるな。見ると周りの生徒が俺のことを見ている。


「なんだかみんなに見られてません?俺」


 キリアムさんは俺を見て、


「うーん、まあ、ここら辺じゃ見ない服装をしてますしね。しかもなぜか子犬を抱えてる。」


 そうだった。転移してきてから一人きりだったから忘れてたけど、もとの世界から服装がそのままだ。森で雨にも濡れてるし泥も服のあちこちに飛んでいてたぶんこれ、傍から見るとかなりみすぼらしい。なんだか恥ずかしくなってきた。


「・・・早くセオドア様のところへ行きましょうか。」


 キリアムさんは歩くスピードを速めてくれた。・・・なんかごめんなさい。

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