【第八話】嵐の夜に
おはようございます。夕士です。いやー、昨日の虎は凄かったね。ちびるかと思った。さてと、今日の天気はどんより曇り空、昨日まで居た川上の方はゴロゴロ雷が鳴ってる。こっちに来てからずっと晴れてたけど雨が降ったら川の近くは歩けないだろうからその前に出来るだけ歩いておこう。
「それにしてもこの竹林、動物以外全く異世界感がしないな。上流だと紫色の木とかあったし、変な竹とかあってもいい気がするよな。」
でも全然普通だよな。と、その時、ズズズズズと足元から音がしてきた。
「地面から?モグラかなんかか?」
その場から離れる。すると次の瞬間、ズドンと地面から細長い物が飛び出してきた。それは5mくらい地面から突き出た後に、そのまま静止した。その物体の正体は、タケノコだった。
「あっぶねぇ!あのままそこに立ってたら、タケノコに掘られるところだったぞ!?」
タケノコ掘られってか?前言撤回だよ!この竹林、全然普通じゃない。竹林だしタケノコがあるかもなんて思ってたけど危険すぎる。早くこの竹林から出よう、身が持たない。特にケツ。
何度もタケノコの猛攻を避けながら歩き続けて、竹林に終わりが見えて来た頃、ポチがワンと吠えた。ポチの向いている方向を見るとそこには虎がいた。トラもこっちに気づいたみたいだ。おいおい、あの虎こっちに走ってきてないか?
「逃げるぞポチ!」
ポチはなぜだか動かない。仕方なくポチを抱えて逃げる。
ちらっと見た感じ、夜に見たのよりも二回りくらい小さい。でもそれで普通の虎サイズだからたまったもんじゃない!
「はあ、はあ、猫は水が苦手って聞くし川だ、川に逃げよう。」
離れていた虎の足音もどんどん近づいてくる。
「見えた、川だ!」
川の中に飛び込む。流れはそこまで早くないけど結構深い。
川面に顔を出して岸を確認すると虎はそこで立ち止まってる。ガオーと吠えててたぶん戻ったら食べられるな。
ポチも横で犬かきしていて、「ワン」と虎に吠えてた。余計なことするなっての。ひとまずポチとリュックをお腹に抱えて反対の岸を目指す。
バシャ、バシャ、川の反対側に上がって一安心する。虎も追ってきてない。ふぅ、偉い目にあった。いまだに虎は向こう岸にいるけど川を渡ってくるそぶりは無い。それに向かってポチがまだ鳴いてる。いい加減よせってば。
その後少し川を下って、虎が諦めたのを確認して、一息つく。焚き火で濡れた服を乾かして、まだだった朝食兼昼食を食べる。
うーん、食料が減ってきたな。重量的には出発前の1/3くらいになってる。野草の一部を今、ポチがむしゃむしゃ食べてるけど、俺は生では食べたくない。どこかで食料調達しないとな。
気を取り直して先を急ぐ。空模様も怪しくなってきた。
「こりゃ本格的に雨が降りそうだな。川の水も濁ってきてるし上流はもう雨降ってるかもな。」
そろそろ雨がしのげる場所を探さないと。少し森の中に入って良さそうな場所を探す。と、ここでポツポツと雨が降り始めてきた。
「走るぞポチ」
地面がぬかるんだりしてないうちに走りだした。
体もだいぶ濡れてきたころ、一つの洞穴を見つけた。靴もドロドロでもう走るのがつらかったところだから助かったな。
洞穴に入ってまず服を脱ぐ。搾れるぐらいには服が濡れてる。昼間にも乾かしたのにまた濡れちゃったな。
洞穴はそこまで広くなく、奥まで徒歩30秒といったところだ。外はもうザーザー降りだし今日はここで一晩を過ごそう。
奥の方で枯れ木を見つけてきて火を点ける。少し湿っていたけど少し木を削ってそれに着火したら直ぐについた。ダメかなって思ったけどついてよかった。これで服を乾かして芋が焼ける。
「それにしてもパン一で洞窟の中は寒いな」
火にあたってる前側だけが暑くて背中が寒い。服が乾く前に芋が焼けたので先にポチと二人で食べる。そうだ、明日は雨の影響で焚き火が作れないかもしれないから、明日用に芋を焼いておこう。
「服も乾いたし、どうしようかな。」
いかんせん外が雨だとどうしようもない。外もだんだん暗くなってきたな、もう夜か。ポチも隣でウトウトしてる。
外からの光がいきなり小さくなり、ふと入り口を見ると、外に大きな影が見えた。ポチもガバッと立ち上がって入口の方を見つめる。入口に現れたのは、自動車並みの大きさの熊だった。ずんずん中に入ってくる。まじかよ・・・絶体絶命だ。入口は熊の後ろだしこの洞穴には逃げる場所も隠れる場所もない。
とその時、何を思ったのかポチが熊に向かって走り出した。
「無謀だ!ポチ戻ってこい!」
熊の動きに注意しながらポチを呼び戻す。ポチは止まらずに目の前の熊を通り過ぎた。いや、気付かなかったが熊の後ろの陰に向かってとびかかった。
「・・・熊の・・・子供か?」
ポチがとびかかったその先には二匹の子熊が居た。ポチは尻尾を振って子熊とじゃれ合ってる。親熊の方はその様子を一瞥した後、俺を通り越して洞穴の一番奥で横になった。
「ポチの知り合いなのか?」
親熊は襲ってくるそぶりは無い。こっちの方にポチが戻ってくる。子熊のサイズはポチより二回りほど大きいくらい。俺には近寄ってこないがこっちをじっと見てる。ポチは裾を引っ張って遊びに加われと誘ってきてる。嫌だよ、何されるか分かったもんじゃないし。それにさっきから親熊の視線を感じる。子供に手を出したらただじゃ置かないといったところだろうか。
「俺はいいから遊んできな?」
ポチを子熊のところへ送り出す。
3匹はその後しばらく遊んでいたが親熊に呼ばれて終了した。ポチは親熊の近くでワフワフ言った後こっちに戻ってきた。ポチは顔が広いのかな?もしかしたら昼間の虎もポチの友人だったかもしれない。まったく確信はないけど。
熊の親子はその後すぐに寝入ってしまったのか洞穴の奥からは今、いびきが聞こえてくる。ポチも遊び疲れたのか俺の膝の上で寝息を立てている。まったく、良い顔で寝てやがるぜ。そんな俺は熊のいる洞穴で寝るなんて怖くてできないので、持ってきた竹の一部を削って時間をつぶしてる。場所は比較的入り口の近くに陣取っている。ポチの友達らしい熊を疑ってるわけじゃないけど一応すぐ逃げられるようにね。いやーでも今日は猛獣ラッシュだったな。熊と言い、トラと言いさ。あの木の上での生活がどれだけ運が良かったのか思い知らされる。なんていうか・・この森出るって決めてよかったよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます