【第六話】計画

辺りが次第に明るくなってきた。

「俺は・・助かったのか?」

朝になったのか。夜に見た大狼が今も脳裏から離れない。あんな化け物がいるのかこの森は。地面から頭までで2~3mくらいはあったんじゃないだろうか?とにかくそのくらい大きかった。あいつがこの森の主だって言われても納得できる。

はっきり言ってあんな化け物がここにいるんじゃこの森で生き延びることなんて絶望的だ。今まで森で生き延びれたのは奇跡だったんだ。元の世界に帰りたい。そういえば異世界転移してきて一度も元の世界のこと考えたことなかったな。家族や友達は元気だろうか。バイトも無断で休んでしまった。もう元の世界には帰れないのかな・・

ガサガサと音がした。今いる茂みに何かが入ってきた。まだ朝方だしここらに猛獣がまだうろついてるかもしれない。でも、

「ただで死んでたまるか!俺は足搔けるだけ足搔くぞ!」

ガサガサが近付いてくる。俺はひとまず茂みから出てナイフを構えてその音の主に構える。俺を追うように茂みから飛び出してきたのは、


「ポチィ?」


思わず声が裏返った。こんなところになんでポチが。

「もしかして探しに来てくれたのか?」

ポチは答えるように元気に鳴いた。

そっか、いつもなら木の上にいるはずだもんな。そうだ、ポチいつもの木まで道が分かるか?

ポチはついてこいと振り返り歩き出す。すごいなポチは。人の言葉を理解して道案内までできるなんて。天才犬だな、日本ならテレビに引っ張りだこに違いない。

そこから15分ほど直進すると見覚えのある場所が見えた。ここは最初に子ウサギに殺されかけた場所じゃないか?やっぱり、木の一本に穴が開いてる。

「戻ってきたのか・・・よかった・・」

ちょっと涙が出てきた。


けど感傷に浸ってる場合ではない。「よし!」と声を出して気持ちを入れる。俺は決めたぞ。この森から脱出するって


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これがゲームだったら「えっ、森から出るの早くない?」みたいになるんだろう。でも実際にこんなところ来てみなよ。「こんな森いられるか!俺は自分の世界に戻るぜ!」って絶対なるから。そこ、死亡フラグとか言わない。まあ自分の世界には戻れないんだけどさ。昨日見た狼、あいつがここら辺に居るのは非常にヤバい。昨日は運よく見つからなかったけど、もし曲がり角でばったり、なんていうことがあったら一瞬で食われるだろう。


無計画に森から脱出するわけじゃない。森で生きていくために必要な食料が道中で採れるか分からないからある程度は食料調達が必要だろうし早くても出発は明日になるだろう。とにかく今日は食料調達だ。と言っても寝床の木にはこの前集めてきた野草もある。リンゴを取りに行った帰りに余った時間で野草を採りに行けば2日は生き延びられるだろう。

さて、リンゴを取りに来た。ちなみにポチもついてきてくれてる。今は剥いてやったリンゴを齧ってる。


「もしかしたらここに来るのも今日で最後かもな。」


思えばこの世界最初の食料はリンゴだった。見つけられなかったら今頃は餓死していたかもしれないし、感謝しないとな。リンゴを採るのにもナイフがあるおかげでツタを切って最初よりも断然安全になってるな。

リンゴもカバンに入るだけ採ったし、あとは野草を少し採ったら帰ろう。


寝床まで帰ってきた。今寝床の木の下には今まで採った食料が並べられている。リンゴ、芋、野草が数種類。だいぶバリエーションが豊かになったと思う。リュックの中には拾ったときにもともと中に入っていた小銭、ナイフ、あとは赤い石だとかよくわからない金属の塊とか、まあ中に入っていたってことは何かに使える道具だったり素材だったりするんだろうか。置いて行ってもいいけどそんなにリュックのスペースも取らないし持って行こう。物々交換とかできるかも?川沿いを歩くつもりだし飲み水にも困らないだろうし、


「今日一日で大体の準備は終わったな。明日には出発できそうだ。」


その前に一つやらなければいけないことがある。

寝床に戻ってきてから疲れたのかずっと後ろで寝ていたポチに話しかける。そう、ポチとのお別れだ。


「ポチ、いいか?俺は明日ここから離れて森に出ることにしたんだ。この森に家族がいるだろうお前を連れてはいけない。もう会えないかもしれない、でもお前と会えて本当に良かった。ほら、今日お前が迎えに来てくれた時、本当にうれしかったんだぞ?ひとりだけで転移してきてさ、正直寂しかったんだ。ポチ、元気でやれよ?」


ポチは悲しそうな顔で俺の顔を舐めてきた。こら、服の裾を引っ張るな


「今までのお礼なんてこれぐらいしかできないけどさ、ほら、お前の好きなリンゴをやるよ。」


ポチはリンゴを食べようとはしない。


「日も暮れてきたし早く帰りな?」


ポチは動かない。甘えた声を出して、まるで行くなと言ってるみたいだ。それでも俺がポチが来れない木の上まで登ってしまうとリンゴを咥えてどこかへ行ってしまった。


「ごめんな、ポチ。」


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夜が明けた。よし出発だ。・・・ポチは来ていない。最後に意地悪しちゃったな。

くよくよしてても仕方がない。それで脱出のルートだけど、川を下ろうと思っている。川は下れば海につながっているだろうし、万が一、海まで森が広がっているなんてことがあっても次は海岸線を歩けばいい。

なんだかいざとなると名残惜しいけど日の出てるうちに少しでも距離を稼ぎたい。よし、行こう。


20分くらい歩いた。もう今までに来たことのない場所まで来ている。ところで、

「なんだか、つけられている気がする。また新しい生き物か何かか?」

少し走って前に見えた背の高い茂みに隠れる。やっぱり何かが居たな、茂みの中にその何かも入ってきた。茂みの揺れ方的にそんなに大きな英物ではないみたいだな。・・・まさか?


茂みから出るとそこでその何か・・を待ち構える。ガサガサ、俺が外で待っているとも知らずに飛び出してきたその生き物は、


「やっぱり・・・」


ポチだった。



「なんでついてきたんだポチ!お前には家族とか仲間とかいるだろう?」

ポチは尻尾を垂らしてシュンとしている。ポチの前にはさっきまでくわえていたリンゴ。昨日あげたやつか?

「今すぐ戻れ!、ウウウって唸ってもダメなものはだめだっての!」

あ、そっぽを向いてやがる。くそー。たぶん話が通じてないわけじゃない。話が通じなければこっそり後をつけてくるなんて絶対にしないだろう。断固帰らないという感じでもうその場に「伏せ」をしている。


「・・・本当に一緒に来るのか?」


さっきとはうって変わって立ち上がって尻尾を振ってる。くそー、やっぱり話が通じてんじゃねえか。


「この先にはたぶんお前の家族は居ないぞ?もしかしたら二度と会えないんだぞ?それでもいいのか?」


ポチは元気よく吠える。


「はぁ、しょうがない一緒に行くか。」


茂みからポチが出てきた時、実は結構嬉しかった。なんだかんだ俺もポチと居たいんだよな。



こうして一人と一匹の旅は始まった。

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