【第五話】遭難と夜の恐怖

今日で転移してきて5日目になった。ここで無視できない問題が発生した。


 リ ン ゴ に 飽 き た 


 たしかにこのリンゴは美味しい。野生なのに農家に作られたみたいに甘い。でもだ、いい加減転移してきてからリンゴ、リンゴ、リンゴ、三食リンゴだけ。いい加減飽きるわ!俺は黄〇伝説みたいなことをしに来てるんじゃない。ただでさえ今まで5日間無人森生活してるんだぞ?というわけでいい加減、食のバリエーションを増やしたい。新しい寝床?この世界の人間を見つける?知るかそんなもん!

 だがしかし。肉は諦める。どうあがいてもそこらへんにいる生き物を倒すことはできないだろう。うまくいっても相打ちになるかどうかだろう。いのちだいじに、だ。なになに?”ナイフをゲットしたなら子ウサギぐらいならいけるだろう”って?・・・もう試した。昨日一日はナイフでウサギを捕ろうとしていた・・・・・・・・。木に突き刺さってるところを一突きしようとしたけど、ボスッだってさ。まさか毛皮に刃が通らないとはね。人も死ぬ気で逃げればウサギの親から逃げれるもんだな。

 子ウサギを狙ってる間に思ったんだけど、ウサギたちが食べてる草とか葉っぱとかあれって食べれないかな?結構食べれそうな気がするんだけどな。

 というわけで採ってきました、野草を。毒がないかどうかは俺じゃ分からない。ポチならわかるかもしれないけどそのポチは今日は来ていない。ポチを待つって言っても次いつ来るかもわからない。待ってられないくらいにはリンゴ以外のものを食べたいんだと考えてくれてもかまわない。

食べてみるしかないか。一番安全そうなネギのような見た目の細い野草を選ぶ。これはウサギが食べていたわけじゃないけどネギっぽかったから採ってみた。一口齧ってみよう。


「うん、ネギだな。細いネギ。」


毒もなさそうだ。良い食料になるんじゃないだろうか。他にも食べてみよう、


「こっちは?うえ、苦い。こっちは少し甘いな。でもなぁ、」


苦かったり、辛かったり、甘かったり味はあったけどネギほど美味しくなかった。


さてと、あとは川下の方で見た野草で最後かな。

そうそう、昨日一日中森の中を周っていて気付いたけど、どうやら昼の間の生き物たちは俺に自分から襲ってくるようなことは無い。近付いても基本は興味がなさそうにどっかへくか、そもそも無視してくるかのどっちかだ。前に見たキモザカナと巨大ミミズみたいに森の生き物同士の争いは見たりするけどね。まさかとは思うけどこういうチートスキルだったりしないかな?・・いや違うな。

ん?なんだ?フゴフゴと鼻音が聞こえる。豚とかかな?この森で豚はまだ見たことないな。ちょっと見てみるか。どれどれ?毛におおわれていて牙がある。あれは・・猪か?おー、初めて見た。何かを掘ってるな。お、口に何か咥えてる。芋か?なんだかサツマイモみたいな形状してる。おおー!この辺に芋があるってことか?もし俺も食べれるなら初めての主食になるぞ!

猪が掘ってるのはあのツタか・・お、ここにもあるじゃん。俺も掘り返してみるか。


いやー、採れた採れた。一つのツタの下に十個くらいの芋がつながってた。ここに来た目的の野草も近くに見つけたし、今日は帰るか。

ん?なんだか背中に視線を感じる。振り返ってみるとそこには猪。うわー近いな。なんだか鼻息が荒いぞ?もしかして・・怒ってる?



ズドドドドド


「来るなー!」


どこぞやのブルなんちゃらさんのごとく猪が突進してくる。

「横に避ければ急には止まれないはずだっ!」

突進をよけて振り返るうわっもう切り返してる、ブルなんちゃらよりも小回りがきくみたいだ。


「くそっ、どうにか撒くしかないか。けどどうする?」


とりあえず、逃げるんだよー


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「はあ、はあ、や、やっと撒いた・・」


もう十分以上逃げてたんじゃないだろうか。やっと諦めたみたいだ。でも重かったから取った芋の半分は途中で捨ててしまった。

「俺には襲ってこない(キリッ」みたいなこと言ってたら襲ってきたな。くそ、別にフラグ建てたわけじゃないぞ!でもなんで襲ってきたんだろう?考えられるのはナワバリにある芋を取ったからとか?とにかく俺の”昼間の生き物は襲ってこない”の法則がこれでなくなってしまった。これからも下手にちょっかいをかけないようにしよう。それにしてもだ、


「ここ、どこだ?」


うそ、迷った?逃げてる間は無我夢中だったからなー。そっかー、


ど う し よ う


え、これまずくない?たき火もしてきてないから寝床の位置が分からない。こんなことになるならめんどくさがらずに火をおこすべきだったな。そんなに寝床から遠くないとは言え今回来た川下はあまり来たことがない。方角はあっちな気がするんだけどな。太陽がもう傾いてきていて木に隠れてる。正確な方角が分からない。川にたどり着ければそこから川上に行けば寝床の近くなんだけどな。


ホントにまずいぞ、日が暮れてきて足元も見ずらくなってきた。


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それから十数分で日は沈んで辺りは真っ暗になった。


月明かりのおかげでなんとか周りは見えるのが救いだろうか。足元に気を付けながら歩みを進める。


「夜行性の動物なんかもいたら動き出してるだろうし。肉食の動物もいるんだろうし。本当に芋なんてとるんじゃなかった。」


おとなしくリンゴを食べてるべきだったなぁ。

肉食っていうと何だろうか?やっぱりライオン、トラ、ヒョウとか熊とかか?どうしよう。出会ったら生き残れる気がしない。キモザカナでさえあの強さなのに、トラとかこの世界だとどんだけ強いんだろう。常識なんて一切通用しないと考えてもいいだろう。


ズズズ、という何かが這いずる音が聞こえた。勇気を出して見てみる。その音の方にいたのはミミズ。だがこの前昼間にキモザカナと戦っていたやつの1.5倍はある。

ギャー、死ぬのか?毒にまみれて死んじゃうのか、俺。

ミミズはこっちに気づいたようだが興味がなさそうに、また動き出した。


「よかった。死ぬかと思った。なんだあのデカさ。」


襲ってはこなかった。でも昼間よりも化け物がいるのは間違いない。早く川を見つけようそうすればこっちのものだ。


ドス、ドス、と何か大きな生物が歩く足音が聞こえた。


「そういえば昼間に木が倒されてるのを見かけたな。」


この前は夜に木が倒れる音も聞こえた。

木を倒せるぐらいの動物・・象でもいるのかな?

これは・・音的に進行方向だな。どうしよう迂回するか?いや、早く川を見つけたい。


しばらく歩くと足音も大きく聞こえてきた。茂みの向こうにいるか?気付かれないように息を押し殺す。遠くから何かの鳴き声が聞こえ、少し体をびくつかせる。


驚かせるなよ。鳴き声的に猿かなんかだな。もしかしてパックンフラワーに食べられてた猿の仲間か?


気を取り直して茂みの中にできるだけ音を立てないよう静かに入っていく。ガサっと音が鳴ると気づかれないか怖かったが少しずつ進んでいく。やっと茂みに終わりが見える。まだ足音は聞こえる。たぶんすぐ近くだ。できるだけ音を立てないよう慎重に茂みから覗いてみるとそこには、


月明かりの下、想像超える大きさの狼がいた。


今なら虎なんて可愛く見える。離れていてもわかる、夜風になびく黒い毛並みに際立つギラギラとした瞳。大きな口にはたとえどんなに硬い生物でもかみ砕いてしまいそうな牙。強靭な足には鋭い爪が生えており、その足で大地をえぐり、歩いている。もし今、狼に見つかればその先に『死』以外の未来は無いと確信ができた。ただただ見つからないよう神に祈るしか助かる道はないように思えた。


その後のことはあまり覚えていない。覚えているのは茂みの中で息を押し殺して、ただただ震えていたことだけ。気づいた時には朝日が昇り始めていた。

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