【第四話】必須品

ー異世界二日目の朝、何かの鳴き声で目が覚める。耳を澄ませてその鳴き声を聞いてみる。


「ワンッ」


 ・・・心当たりがある鳴き声だ。

 そっと下を見る。やっぱりあいつだ。昨日俺がリンゴをやった子犬が木の下から俺に尻尾を振っていた。うーん、もう誤魔化せないよなー。


 断言しよう。犬派であると。

 犬が嫌なわけではない、むしろ好きだ。でもウサギも魚もミミズも強いこの世界のことだから、この世界の犬なんて悪い予感しかしない。でも俺の中のム○ゴロウが暴走仕掛けてる。だって見てあの可愛い姿、見てるだけで癒される。・・・触るだけならいいかな?まだ子犬だし。

 木から降りて恐る恐る子犬に手を近付ける。子犬は指先の匂いを嗅いだあとペロと舐めてきた。くっそ可愛い。頭を撫でてみる。子犬は気持ち良さそうにしてる。元の世界では父親がアレルギーで飼うことが出来なかったしなー。でもこの子にも家族がいるはずだし、この子の親に目をつけられたらヤバい。

 まあ遊びに来てくれるならそれだけでこのサバイバル生活の癒しにはなるし、来るだけなら放っておこう。そうだ名前を付けておくか。・・・やっぱり無難にポチとかかな?

「よし、お前を今からポチと呼ぼう」

 子犬改めポチは理解したのかは分からないが元気良く「ワン!」と鳴いた。

 本当ならポチにかまってやりたいところだけど、これから探索に行く予定だし。

「ごめんな、かまってやれないんだ。」

 通じないだろうけど一声かけて出発の準備を進める。


「そうだ、出発する前にまた火を点けておこう。」

 ポケットの中に入ってたライターを出す。カチッ、カチカチッ、あれ?点かない?嘘、どうしよう。ライターがこんなに早く切れると思わなかった。100円ライターだしいつか切れるとは思ってたけどこんなに早く切れるかー。どうしようかなあ。トカゲの尻尾に火が点いてるのを思い出したけど、あれにはできるだけ近寄りたくない。いやむしろ今までそんなに火を使う機会がなかったし無理して火を取ってくる必要もないんじゃないだろうか?夜点けてもトカゲを呼ぶだけだしなあ。いやでもあった方がいいか?うーん、まあ悩んでも仕方ないな。チャンスがあれば、ってことにしよう。


 よし、行くか。持ち物はリンゴ二個、棒、以上。まあこっちに来たばかりだし何も持ってないんだけどね。

「お前は群れに戻るなり、留守番してるなりしてな。」

近くで座ってたポチに声をかける。立ち上がって尻尾振っただけで特にそこから動こうとはしないし留守番してるつもりなのかな?

「じゃあ行ってくるな。」

改めてポチに声をかけた後、森の中に探検に出る。さて今日はどこに行こうか。たき火の煙は無いけどこの近くなら大体場所は分かる。あまり遠くまで行かなければ戻ってこれるだろ。とりあえずリンゴの木の方まで行ってみるか。

「ワンッ」

後ろを振り返ってみる

・・・ポチが後ろにいた。ついて来るつもりなのか?

「結構歩くしお前には大変だと思うぞ?」

ポチは「大丈夫だ」と言わんばかりに胸を張ってる。

「・・・じゃあ行くか。」

ポチを連れて探索に行くことになった。


数十分歩くとポチがいきなり足を引っ張ってきた。何かを感じたのか「ついてこい」みたいな顔してる。行く当てもないしついて行ってみようか。


ちょっと歩いた先には人間の白骨だった。

「びっ、くりしたー。動きはしないよな?」

スケルトンみたいな名前で動く白骨は割といろんなゲームでみるしな。

でもなんでこんな森の中に白骨が?ん、まてよ?この骨は見た感じ人間だ。っていうことは・・この世界に人間がいるんだ!それが知れただけでも大きな収穫なんじゃないか?他に何か手掛かりとかないかな?


辺りを探してみた限りあと2体同じような白骨を見つけた。そのうち二体は大柄な体系で、もう一体は子供だったのか小柄だった大柄な二体はどっちもボロボロだったけど鎧を着ていた。森の中で鎧・・・もしかして冒険者かな?鎧には何か所も大きな爪痕がついている。一体の手には錆びてる折れた剣が握られてるし、”冒険者がなにか猛獣に襲われて殺された”とかそんなところかな?冒険者とかなら武器とかは持ってなかったのかな?もう少し探してみるか。


「これは・・折れた弓か?ボッキリ折れてるし使い物にはならないな。」

とにかく身を守る武器が欲しい。切実に。

「あとは、リュックサックか。ん?重いな」

逆さにしてみる。長年放置されていたのか中から落ち葉が大量に出てきた。

ポトッ。落ち葉と一緒に何かが出てきた。

「どれどれ。これは・・ナイフか?」

鞘に入ってたおかげかほとんど錆びてない。だけどナイフかー。正直ナイフ一本でこの森から身を守るなんてできる気がしない。でも刃物があるだけでも良かったのかな。他には小銭が入った袋と赤い石だけ。小銭なんて森の中じゃ何の役にも立たないしなあ。まあ、あとリュックで持ち運べる量が増えたし良しとするか。考えるとサバイバルに必要な刃物も入手できたし、いやーポチには感謝だな。帰ったらなにかお礼をしたい。

後は火かな・・嫌だなートカゲ。そうだ、帰り道で探そう。それでいなかったら今日は諦める。ナイフもリュックも手に入れて贅沢言っちゃだめだよな、うん。


寝床に戻る帰り道。パチパチと何かが燃える音が聞こえる。この音はもしや?あのトカゲに合わずとも火が得れるチャンスでは!?音のする方へ急ごう。


茂みを分けたその先には、・・・見間違いだろうか。今まだ見たトカゲの中でも最大サイズの1.5m級のトカゲが目の前にいる。でも大事なのはそこではない。倒れている木を食べて・・トカゲが火を吐いていた。吐いた火がゴオと音を立てている。なんなのあのトカゲ?火が点いてるだけじゃなくて火を吐くの?よく見ると尻尾だけじゃなく背中も燃えている。さっきのパチパチ音はあいつの背中の火から出てる音かな?もしかして今まで見たのも成長するとああなるのかな?ポチも怖いのか俺の後ろに隠れてる。やめろよ俺は盾にはなれないぞ。耐久度的に。

これは・・・無理だな。トカゲから火を取るなんて考えた奴どこのどいつだよ。馬鹿じゃないの?

「よし!見なかったことにしよう」

ポチを抱きかかえて寝床へダッシュした。



日も傾いてきたな。ポチもさっき森へ帰っていった。そうだ、今日見つけたナイフを洗っておくか。たぶん何年も使われてないものだし汚いよな。

川に行って水につける。

「RPGとかだったらこのナイフが宝物で光り輝く、なんてことあるかもしれないけど見た感じごく普通のナイフだな。」

宝物かー、ダンジョンとか迷宮とかあったりするのかなこの世界。こんな世界だしあってもおかしくないよなー。ダンジョン。あるんだったら入ってみたいなよな。それでトレジャーハントなんかしちゃったりしてな。

おっと、そんなこんなしてたらもう日が暮れてる。急いで木に登らないと。明日は何しようかな。

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