第2話 かたち

木漏れ日が散らばる、リカの庭。


ひとたび風が吹けば、ガサガサと枝葉がゆれ、地面に散らばる光もワサワサと形を変えた。


リカは、前足でそれを押さえて遊んでいた。


「リカ。おはよう」


家の中から、明日香が出て来て言った。


太陽は空の真上に昇り、とっくに動き出している街を思えば、おはようでも無いわけだが。


そんな事はお構い無しにリカは木漏れ日で遊んだ。


ヒュンヒュンと逃げ回る光と影を、夢中になって追いかけ回した。


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”ガタガタガタ”


大きな音を立てながら、電車が庭先をかすめ通り過ぎた。


リカはいつものようにビックリして、そして大きな声で吠えた。


「アハハハハハ」


そして明日香も、いつものようにそれを見て笑った。


リカは、この庭が好きだが、やっぱり電車の音はあまり得意ではない。


「うるさいね、リカ、さあ出かけようか?」


明日香が言いながら、リカの鎖を外した。


リカは、それをする明日香の細い指先を見る。


しなやかな白いヒラヒラした手の平と、自分の短い指を見比べていた。


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浜辺へぬける細い路地は潮の香がスルスルと通り抜けけ、リカから見たら潮風のトンネルのようだった。


「リカ、もうすぐだよ」


言われなくても分かるが、言われて胸が高鳴った。


路地を抜け、目の前に海が広がると、二人はたまらず駆け出した。


砂浜を踏み締めた時、足の裏にジュウッと熱を感じたが、それはそれで心地良かった。


「リカー。待ってー」


明日香が後ろで叫んでいる。


リカが振り返ると、明日香はサンダルを脱ぎながら手を振っていた。


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リカは明日香をじっと見ている。


白くスラリと伸びた手足や、2本の足で立ち手を自由に動かすその”かたち”を。


自分とは何かが違うし、自分も明日香とはどこかが違う。


毎日一緒に居るけれど、違う”かたち”をしている。


それは、とても不思議な感覚で、リカには自分が何か大きな間違いをしているように思えた。


そして、それは征司と居るときにも感じていた。


征司は、よくリカに微笑んでくれたが、その口も耳も尖ってはいなかった。


リカは、明日香や征司が自分と違う”かたち”をしている事がとても嫌だった。


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そんな事ではあるけれど、リカは征司の事を考えて少し気持ちが良くなった。


潮の香と相まって、リカの中で征司の存在がクッキリと輪郭をなした。


そうやって、リカは浜辺で常に征司の事を考えている。


こんな気持ちは、一体どう言えばいいのか?リカは満ち足りた気分で海の空気を吸い込む。


「お待たせ!リカ。」


明日香がようやく追いついて、リカの背中をポンと叩いた。


リカは明日香の着ている服の模様をみた。


ピタッとしたTシャツに、大きなハートが描かれている。


ツルンとした丸いピンクの”かたち”


自分の中にある気持ちもきっとそんな”かたち”だとリカは思っていた。


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