第24話 アデル購入
『賭博破壊録』
そう題された今回の動画は一日で様々なサイトに紹介されその再生回数は500万回を超えていた。
笑いが止まらない嵐であったが、ここで一通のメールが届いているのに気が付いた。
このメールによって一人の人生が大きく変化するのだった…
「まぁいい、お前が俺にした仕打ちの仕返しに関してはあの女にしっかりして貰ったからな」
「あの女?」
『おい七志!こいつあの女狩人の家に居た奴隷屋だ!』
一向に思い出さない七志に嵐が念話で突っ込みつつ教える。
それで七志も思い出した。
「もしかして、あのお姉さんに何かしたのか?」
「ようやく思い出したようだな、そこでモノは相談だ。こいつをお前買わないか?」
そう言って奴隷屋マムが合図を送ると部下と思われる男がそいつを連れてきた。
「ひ…ひでぇ…」
ボブが後ろでその悲惨な姿を見て吐き気を覚える。
そこには短くズタズタにされた銀髪の女が居た。
身体中痣だらけで片目を潰され原型を止めておらず、頬に残る傷が無ければ七志もそれをアデルだとは思わなかっただろう。
手足の指は切断され足の筋を切られてるのか立ち上がることすらもできず七志を見上げて開いた口からは舌が切断され歯も無くなっていた。
余りの酷い有り様に七志は固まってしまった。
人はこれ程残酷になれるのか…
そう考えた七志にマムが話し出す。
「どうだ?お前も騙されて売られそうになった身だろ?こんなんで良ければ白金貨1枚で売ってやるよ」
それは金を出さなければお前も同じ目に合わせるという宣言でもあった。
ただ普通の動ける女奴隷でも一人金貨50枚も出せば買えるこの世界で今のアデルを売っても銀貨数枚にしかならない。
これ以上やると死んでしまうという直前までの拷問を一晩で受けたアデルは間違いなく買い取らねば今夜始末されるだろう。
『七志、俺に考えがある…』
その時、嵐から念話が入り七志は少し思案する振りをしてそれを聞く…
やがて一度頷いて…
「彼女を買わせて貰うよ」
「へっへっへっ、中々分かってるようだな」
ボブは納得がいかないが七志に口出しをするわけにもいかずマムを睨んでいた。
こうして、七志から白金貨一枚でアデルを譲ったマムはそのまま去って行く。
残された七志とボブは死にかけのアデルに肩を貸し裏路地へ連れていく。
無言で七志に手を貸すボブは何を口にすれば良いのか悩んでいる様子だったので七志の方から切り出す。
「ごめんボブ、彼女こんな格好じゃ可哀想だから何か羽織る物買ってきてくれないか?」
「あっ…あぁそうだな…」
七志から金貨10枚ほど渡され明らかに多すぎなのだが突っ込みを入れることなくボブは走り去る。
それを残った片目で見詰めていたアデルもボブと同じことを思っていた。
(ここで楽にするんだな…)
ボブが走り去った後に変わり果てたアデルの顔に触れる七志。
アデルは自分の人生を思い返していた。
幼い頃に両親を無くし冒険者になって狩りをするしか生きる道がなかったアデルは毎日を必死に生きてきた。
何度も失敗を繰り返し死にかけたことも沢山あった。
それでも頑張った人間にはきっと良いことがある、死んだ両親の言葉で唯一心に残っていたその台詞をアデルは思い出していた。
「も…いや…だ…」
舌だけでなく喉も潰されているのだろう、その口から出た言葉は渇れていた。
どんな高級な回復薬でもここまで酷い状態を治すとなると伝説級の物でもない限りどうしようもない。
女としても生きる道もなく狩人どころか人間としても生きることがまずできないだろう。
それくらい彼女の状態は酷かったのだ。
「は…く…ころ…て…」
生きていても希望なんて全く無い、ならば早く楽になりたい…
だからこそ彼女は殺してほしいと願うが心の奥底では恋のひとつもしていないまま死ぬのは嫌だと考える自分が居た。
二つの気持ちが揺れ動くがもうどうしようもないのも事実。
そんな彼女は残った片目から涙を流していた。
「いや…しにた…ない…」
その目は既に七志を見ていない、自分で自分の事は分かっていたのだ。
奴隷屋の馬車内では死なないように安物のポーションを一定周期で少しずつ使われていた。
だからこそまだ生きていられたのだ。
そして、彼女の呼吸が弱くなり出した頃にボブが戻ってきた。
その手にあったシーツを広げ七志はボブに向かって話す。
「これから俺は魔法を使って気を失うと思う。だから俺が起きるまで頼む」
「…あぁ、分かった」
そして、七志はアデルに手をかざし呪文を唱える…
「黒の魔法 火の力よ我が手より全てを照らす火の奇跡を…」
詠唱でアデルもボブも何をするのか理解した。
ボブは目を背けない、仲間…いや、親友と考える七志の決断を見守るのが自分の使命だと考えた。
アデルもこれで良いんだと七志の顔を見る
(普通にこの子に優しくしていれば良かった…)
様々な思いの中魔法は発動する。
「ファイア!」
その炎は一気にアデルを包み込んだのであった。
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