第23話 七志、賭場をぶっ潰す

「よし、やれっ!」


賭場の裏で男達が七志の一人勝ちを止める為にあるアイテムを使用していた。

『魔封じの印』

これは発動に10分ほど掛かるが稼動すれば30分ほど半径50メートルくらいの範囲で魔法が使用できなくなるアイテムである。

賭場の男達は勿論魔法を使ったイカサマを行なっていた。

最初に七志に声を掛けた男がサイコロの目を床下から覗き見る、そしてそれが丁か半かを知らせる役割である。

サイコロは表と裏の数が全て7になるように出来ている、なので裏側から覗き見る事が出来れば現在何が揃っているのか判断できるのである。

次にサイコロに蓋をしている男が床に土魔法で1個だけサイコロを転がし直し丁半を入れ替える。

これがこの賭場のイカサマの正体であった。


だが七志が同じ方向に賭け続ける限り負け続ければ確実にイカサマの内容は見抜かれなくてもイカサマをしている事はバレる。

更に七志が収納魔法で金を出している以上は一体幾ら所持金を持っているのか不明である。

その為彼等がとった苦肉の策。


イカサマは使用できなくなるが七志の収納魔法も使用できなくして現在手元に見えている先程の金銭以上出せなくして負けたまま退散させようと考えたのだ。

特に七志の今までのやり方であれば1回負ければ次の勝負には参戦できない、なので結果的にその時点で勝負は決着するのだ。


「それでは入ります!」


七志が半に白金貨2枚を賭けた状態でサイコロが振られる。

そして、イカサマ無しの状態で開けられた結果は・・・


「1.3.6の丁!」


裏で賭場の男達はガッツポーズを行なった。

これで七志は白金貨2枚負けた状態でこれ以上収納魔法を使えずに帰らざるを得ない。

そう男達は確信していたのだが・・・


「それじゃもう一度、半に白金貨4枚で・・・」


七志が再び手から白金貨4枚を出現させて賭場の人間誰もが口を開いたまま唖然として見詰める。

それはそうだろう、魔封じの印は間違い無く作動している。

なのに七志は何もない場所から白金貨を4枚出現させたのだ。

彼等が読み違えた一番のポイントは七志の行なっているのが収納魔法だと勘違いした事であろう。

七志の行なっているのは嵐のパソコンへと繋がる異空間転送である、魔法では無かったので魔封じの印は効果を発揮しなかったのだ。

そして、コレに驚き不味い事になったと賭場の人間は誰もが理解する。

そう、自分達の使用した魔封じの印の効果の結果はただ自分達のイカサマが使えなくなったのだ。

その事実に震えながらもサイコロは振られる・・・

そして・・・


「1.5.5の半!」


七志の勝ちでこの2戦で白金貨6枚を使って戻りが白金貨7枚と銀貨60枚であった。

そして、七志の暴走は止まらない・・・


「んじゃあ白金貨2枚からもう一度半で!」


この七志の行為で魔法が使えずイカサマが使用できなくなった事を理解されていると賭場の人間は勘違いをしてジワジワと搾り取られる恐怖に包まれた。

誰一人気付かない、七志の全財産に嵐の預金を合わせて更に勝ち金と回を跨いだ事で入った収入を全て足しても全部で1500万円、実に白金貨15枚程しかないとは夢にも思わないのである。

再びサイコロは振られる。


「1.1.5の半!」


七志に再び白金貨2枚払って白金貨3枚と銀貨80枚が支払われる。

更にこの回から追い討ちをする様に銀貨や金貨で七志と同じ行動を取り始める者が現われ始めた。

誰もがこの七志の必勝法を真似しだしたのだ。

そうなれば賭場側は勝てる要素は皆無となる、当然まだまだ魔法は使用できずイカサマをする事も出来ない。

全てが裏目に出て賭場に用意されていた白金貨100枚の全てが七志と他の客に配られるまで彼らの進撃は止まらなかった。

そして、それは賭場の破産を意味する。

それはそうだろう、こんな必勝法が出回ればもうこのギャンブルを行なう親元など居るわけが無い。

最終的に七志の預金は5千万円を超えて七志の提案で足りない分はボブの家の権利書で回収された。

店側も本来ならただ黙ってこんな支払いが行なわれる訳がない、何処の世界でもギャンブルにはヤクザ的な行為が付き物で普段なら脅迫等で中断させられるものである。

だが今日に限っては偶然にもとある人物がここに居合わせたのが問題であった。


「素晴らしい・・・実に素晴らしいよ少年」


拍手をしながら賭場から出た七志に近付く一人の男。

彼の名前はベン、この町の治安を守る衛兵のトップに立つ男である。

不正は絶対に許さない正義感に溢れる熱い熱血の魔法剣士で、その強さは一人で百近い魔物から人々を守った事もあるとされる男であった。

この町の誰もが彼を慕いまた恐れている良くも悪くも有名人である。

そして、大のギャンブル好きでもあった。


「べ・・・ベンさん!」


七志の後ろで宣言通りに家の権利書まで取り返してくれた七志にどう言葉を掛けたら良いのか悩んでいたボブがベンに驚き声を上げる。


「君は僕を知っているようだね、なんにしても楽しい一時だったよ。名前を聞かせて貰ってもいいかな?」

「俺はナナシです。こっちは仲間のボブ」

「っ!?」

「ナナシにボブか、その名前覚えておくよ!はっはっはっ」


熱い男はそのまま去っていく・・・

そして後ろで七志に仲間と宣言されたボブは再び驚きに固まっていた。


「ん?どうしたんだボブ?」

「お、お前・・・俺の事仲間って・・・」

「ん?同じ魔育園の仲間だろ俺達」

「お前・・・」


ボブの七志を見る目がいつの間にか変化していた。

そして、ボブが何かを言おうとしていた時にそいつはやって来た。


「くはっはっはっ面白い見世物だったよ少年」

「・・・はて、何処かで・・・」

「お、覚えてないのか?」


そこに立っていたのはアデルの家で会った奴隷屋の男マムであった。

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