第2話

飯盛君の言う通り、冨樫は八時頃にやって来た。

冨樫の後ろから、がたいの良い虎太郎……コタさん……がやって来た。


虎太郎は、愛美が幾度も生まれ変わっては、ある男に殺され続けていた訳だが、何回めかに生まれ変わった時に、とても可愛がっていた日本犬の霊だ。


愛美を無限ループから救い出す為に、愛美を殺す男の首根っこに食らいついて、閻魔様の御前に差し出して、愛美のループを断ち切ってくれた。

愛美の大恩人だ。

その虎太郎も、霊となって浮遊していた訳だから、閻魔様の御前にあれば、裁決されて成仏させられる所だったが、稲荷大明神様の遣いである冨樫さんが、愛美が閻魔様の御前に行く時、共に行く事で話しをつけてくれてた為、こうして冨樫さんの側に居て、愛美を死ぬまで護ってくれる事となった。

だから、もう二度と会えないかもしれないと思った虎太郎と、この喫茶店で再開したのである。


イベントは飯盛君の説明通り、美味しい料理に美味しい珈琲……好きな飲み物……高級そうなワインなども出て、それは豪華な晩餐とたわいもない話しに、ご近所の噂話し、はたまた猫談義に……と、思いの外楽しい時間が過ぎて行く……。


「では、これも恒例となりました。冨樫から不思議な話しを……」


何故か進行役を務めている飯盛君が言った。


「えー?冨樫さんの話し、意外と怖いんだよね」


パートのおばさんの佐藤さんが言った。

佐藤さんは明るくて、リーダー的存在の人だ。


「そうそう、私帰りが一人になる所あるから怖かった……」


同調したのは、やっぱり古株の西さん。


その言葉を聞いて、冨樫はおもむろに立ち上がると、にこやかな笑顔を見せた。


「今年も面白い話しを仕入れてはいるのですが、今夜はこの方のお話を聞いて頂こうと思います」


冨樫の脇に立って、小太りの男が会釈した。


「私の話しより、面白いお話ですから……」


そういうと冨樫は、店の照明を少し落として、店内の客を騒つかせた。



少し薄暗くなった照明の下


「私の所にやって来る猫が言うには……」


ちょっと小太りな男は、そんな出たしで話を始めた。

声質のとても穏やかで、耳触りのいい落ち着いた低音で話すその声は、ちょっと薄暗い店内の雰囲気にマッチしていた。


「……今から十五年程前の事

私の子供が、ある猫嫌いのばあさんの孫娘に殺された……

と言うのです」


男は声のトーンを下げて、さも意味ありげに語っていく。


「……以前から、猫の嫌いなばあさんは、私達野良猫を見るとそれは怖い顔をして、追いかけて来て、物を投げたり物で叩いたり、水を嫌うのを知っているから、ホースの水を思う存分掛けたり。それは酷い事をするのです。

それは、可愛い孫と一緒の時も、私達を見かけるとするので、孫が成長すとその孫まで、良し悪しを考えずにする様になったのです……」


「やだ……うちの近所の意地悪ばあさんかしら?」


「いるいる。野良猫虐めて平気な


「えっ?でも、殺すのは怖いわよ」


「何をするかわからないだわ……」


この喫茶店は、店内にも外にも猫が居るので、お客さんも店員も皆んな、猫好きな人間が集まっている。

つまり、猫を虐める猫嫌いばあさんは、此処では悪役の魔女という所だろうか。


「……その日は夏の暑い日でした。

私の子供はまだ小さくて、そこの奴らがどんな残虐な奴らかなんて、知るはずもありませんでした。

なぜ?どうして?私が気がついた時には、私の子供は奴らが遊ぶビニールプールの脇で、ぐったりと動かなくなっていたのです……」


「ええ!なんて可哀想な……」


「まじまじ?子供が子猫殺したの?」


「えーどうやって?」


「シャワーを顔にずっとかけてたのよ、きっと。話の内容からして間違いないわ」


「やだわ……」


「そうそう……違う子供が動けない様にしてたのね」


猫好きのおばさん達は、男の話しよりも〝殺ニャン事件〟の方に気持ちが行ってしまって、点でに小声で解説し始めている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る