第15話 事件簿2(4)
どうなる事やらと思っていると、韓課長は、今までにもおかしな事はあったんだろうと彼らに聞いた。
「君たちは今回、色々な人が沢山協力してくれたけど、誰にも助けて貰えなかった人が他にもいるんじゃないの?」
何かを確信しているような言葉だった。
最初は皆黙っていたのだが、サブリーダーの男子が、このプロジェクトに半年前にやって来た時からおかしな事ばかりだと、言葉少なに言う。ファイルが消されたりとか・・・。
ああ、他でもそういうのあるんだ・・・。
彼が暫く、おかしな事があったというのを話、それが終わると、一人の女子が、聞き取れない位の早口の中国語で、話し始めた。
彼女の先輩がこのプロジェクトには初期の頃から参画していて、詐欺師っぽいリーダーはそれを引っ掻き回すだけの存在だったようである。アメリカからやって来た3人組というのも、特に仕事らしい仕事はせず、日本人3人(先輩女子は老先生と呼んでいた)と、自分と同じ時期にやって来た5人程が、必死になって設計を進めた。
それが終わる頃、6ヶ月程前に、急に彼女は解雇されてしまった。他のブリッジは帰国してしまった後で、今のサブリーダーは頑張ってはみたのだが、言葉のコミニュケーションがうまく取れず、右往左往してしまったという事である。
そして、ここに来る前、やはり同じ様な事件があり、日本人3人が疑われた。
哀れだ―としか言葉が無かった。
その後は、上の人達の話し合いである。彼らの住む所も探さなきゃとかで、また、大変な仕事を振られたと思ったのだが、これがとても簡単に済んでしまい、拍子抜け。
50部屋も社員寮が空いてる会社って何なんだ―とか思ったのだが、辞めた研修生用の部屋と聞き納得。
体育会系統括部長は、電光石火のごとく色々な事を片付け、翌日からは通常業務となった。
設計者の日本人3人組は商社の重役が頭を下げて、来て貰ったそうだ。彼らはここを随分と気に入ったようである。
ブリッジをやっていた中国の女性技術者も、仕事仲間を連れて合流した。彼女は日本人3人を老先生と呼び、再会をとても喜んでいた。
実装になると案の定ファイアーしてしまったのだが、これも体育会系部長が、ちょっとづつ人員を借りたり、何と自分で実装をやったりと、皆の協力で何とかなった。
一旦は試験運用が始まり、問題なく稼働を始めると、打ち上げをやった。体育系統括部長に誘われ、李君と僕、それに韓課長は2次会でホテルのバーに入った。
我儘姫の問題解決後の夕食会の後に来た事があるバーだった。とりとめのない昔話をしていたのだが、僕はふと、何故、詐欺師っぽいリーダーをベンダーで評価していたのかが気になり聞いてみた。
「昔から、のほほんとしてるよなあ。李課長か韓課長とセットにしとかないと危ないなあ・・・。」
体育会系統括部長はそう言って笑う。李君と、韓課長も理由を分かっているらしい。体育会系統括部長は李君に説明してやってと言った。
「お金でしょうね。」
お金の問題という所までは、李君も理解出来たようだが、では、何故という理由までは分からなかったらしい。韓課長や体育会系部長の話を総合すると、詐欺師っぽいリーダーは、発注先(この場合は商社の重役など)と仲良くなり、あらぬ事を吹き込み、さらに、自作の事件を起こしては、一緒に組んでいる他のベンダーや目障りな技術者を放逐するという行為をしていた。その後は、自分の会社が全部請け負う事になるので、売り上げは確実に上がり、会社で評価されるという事である。
他の会社を追いだした後は、速さだけはぶっちぎりという中国の技術者グループに実装を外注。品質が良いはずもないので、それを日本で修正。ユーザからギリギリまで金を引き出すのだそうだ。
それが普通と思っている発注先もあるが、ブチ切れる発注先もあり、盗難事件で犯人として顔が報道されてしまってからは、予約を解除されてしまっているという噂である。
社員も腕の良い人達は早々に逃げ出し、倒産まじかと営業が話していたという事である。
『王道に近道なし』とはよく言った物だ(なんか、カッコいい事言ったぞ)と僕は思った。
「そう、あの防犯ビデオ。あの短時間で、どうやって探したんです?」
それも僕の中では不思議の一つだった。警察が来るまで15分とは経っていない。廊下部分だけでもカメラは10台以上着いている。
「僕も、びっくりしました。」
李君も僕と同じ気持ちだったようだ。
「大体の時間と、運送屋の服を着ていたのが分かっていたので、後は、セキュリティ会社の担当者を怒鳴っただけ。金払っている意味ないなあってさ。」
確かにそうだ。頭良いなあ、いや、それが普通かあ。セキュリティ会社はこういう時の為にあるのだから。
そのベンダーが哀れだと、僕は思った。
「技術力がないと大変ですねえ・・・。」
「お前な、うちの会社だって、前はそういうのに名前が挙がってたんだぞ。その頃は、うちだって、他社を蹴飛ばして仕事を得ようっていう営業をしてたんだ。」
「どんな事があったんです?」
体育会系統括部長も詳しくは知らないらしいが、うちがハードを入れていた会社のシステム開発がファイアーし、それを、ベテ女史の会社が仕方なく引き取って・・・、国内大型で使ってたフレームワークを使いたいと言い出した。
向こうの言い値で貸し出せば良かったんだろうが、それは安いとケチをつけた。
フレームワークがなければ、システムは期限内に完成させられないんだろうというのが当時の営業の読みで、逆に言えば、このフレームワークを使って、ベテ女史の会社を追い出せば、うちで案件を受注できると思ったのだろう。
そもそも、うちで受ける事になっていたのだが、例の大型国内での大失敗により、他へ発注されてしまったという経緯もあるらしい。
受注したベンダーは人集めに失敗、設計途中でパートナー会社が丸ごと契約を更改しないとなり、開発がとん挫。原因は受注した会社の手数料が高額だった事が発覚し、契約を打ち切ったのだそうだ。
こんな焼け石を拾いたい会社があるはずもなく、工期を遅らせるか否かのコンサルティングをベテ女史の会社に依頼した。
シンプルな構造にすれば、工期の短縮が見込めると解析したのだが、システムとシステムをつなぐ為のミドルウェアがないので、大量にバッチプログラムが必要になる、
大型国内の噂を発注先の部長が聞きつけ、つてをたどって重役まで到達、試験で貸して貰い、採用段階になってから吹っ掛けるというやり方に、相当頭に来たようだ。
高いハードをずっと購入しているのに、協力もしてくれない態度に発注先の担当部長がブチ切れ、ハードをキャンセルしたいと言い出し、今の社長(当時は重役)が平謝りして何とか勘弁して貰った。
ちなみにベテ女史がこの会社に入ったのは、このバッチ用フレームワークをどうするか試験の最中で、バグが多くて信用出来ないと言っていたらしい。
ベテ女史はもっとシンプルだが同じ様な機能を持つプログラムを開発した事があったそうで、断られたら、とりあえずそれで行くかという事で、ちょいちょいと白板に設計を書いて、それをベテ女史の会社の2名と共にたったの1ヶ月で開発、既に正常稼働していたんだそうだ。
他の一人がその間に見つけたバグは200箇所にも上り、発注先の部長はこんなボロイフレームワークなんていらないと言ったのだが、自分達はもう年だし、自分達が引き揚げてしまった後は、面倒をみてくれる人もいない。
思想は素晴らしいのだし、この会社が採用してメーカーが可能性に気付けば、将来の開発費はこの会社も安く出来るはずと推薦してくれたのだとか・・・。
発注先はベテ女史の会社を随分と気に入ったらしい。
その後、会社はその開発に全面協力して、ベテ女史の会社にも利益が行くよう考え、何とかシステムは稼働した。
社長は技術力のある会社なので、これからも付き合いたいと申し出たのだが、『若手と中国の子達とは仕事してもいいけど・・・、その上の社員さんたちは・・・もういいわって感じ。』と軽く言われてしまったのだとか・・・。
大胆な発言だなあ・・・。
「我儘姫の事件があるまで、俺はそれがベテ女史っていうのは知らなかったんだ。」
我儘姫の事件があったのは、営業部への大異動の後である。会長は、君にそれだけの決心をさせた女性に会いたいと言ったそうだ。
フレームワークだけは、開発に当たっていたベテランが残ってくれる事になった。もう、年だから、腕の良い弟子がいればという事で、大型海外でも使えるようにしたいと望んだ重役に、秋葉系先輩を推薦したのもベテ女史だったらしい。
『うさちゃん大魔王』に腕の良い弟子がいればできるかも・・・とか。
「秋葉系の所におじいさんがいたろう。大先生って呼んでた。」
確かにいた。あまり接点はなかったが、いた事だけは記憶している。
「韓課長は一緒に仕事してたよねえ。」
「色々、教わりました。当時はまだ技術力が無かったんで、秋葉系課長が大先生って呼ぶ意味が分かりませんでしたけど・・・。今、考えるとすごいかなあって思います。」
そのフレームワークは、今ではどの開発にも使われている。今回も勿論使っている。
「あのフレームワークが出来てから、実装で火が噴いたから、ちょっと手伝ってって方法が使える様になって、やっと、普通に任せられるってレベルになってさ。」
ずっと赤字だったソフトウェア事業部が黒字になった時、体育会系部長はとても嬉しかったと言った。
しかし、考えてみると、ベテ女史はうちの会社からはさして何も受け取っていない。本当にそれで良かったんだろうか。
「重役が大型テレビをプレゼントしようかと『おじおば4』に言ったら、テレビなんか見る暇がないからいらないって断られたんだってさ。」
その後、重役は『おじおば4』と何度か食事をしたのだが、特に何もいらないと言っていたそうだ。ただ、ベテ女史だけは、『宇宙へ行きたい。宇宙船を作って』とか『その頃には、皆が安心して暮らせると良いね。』とか言っていたそうで、彼女らしいと重役は笑っていたという。
そんな話をしているうちにベテ女史の小説を探していた女子の先輩が『おじおば4』と会いたいと言っていた事を急に思いだした。
もしかしたら、彼女は『おば1』がベテ女史だって知っていたのか?
今度、会う機会があったら聞いてみようと思った。
ショッピングモールが開通した日、皆でとても喜んだ。
しかし、その後、そのショッピングモールは2年で閉鎖されてしまった。
骨折れ損のくたびれ儲けってこういう事かあと僕は実感した。
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