第14話 事件簿2(3)
受け入れ人員の初期講習やパソコンのセットアップは韓課長に任せ、人員の割り振りやスケジュールの作成を会議室で全員でして、その日は終わった。
翌日も続きをやっていたのだが、自分の仕事をしているはずの韓課長が会議室にやって来た。パソコンが無くなったと僕らに告げる。
「何台なくなったの?」
李君が聞く。
「昨日、新規参入者に割り当てたパソコン全部です。」
僕は耳を疑った。50台全部がなくなったって、それ何って感じである。
韓課長はもう少し調べていいかと李君に聞き、李君がお願いするよと答えると、まさに倒れこむといった様子でデスクに頭をつけてしまった。
「統括に何て言えばいいんだ・・・。」
暫くしてからぼそっと言う。
「外の様子が気になる・・・ああ・・・でも、ここから出たくない。」
僕も同感だった。チャットで国際から引き抜いたチームの男子に様子を聞くと、ざわざわしていて、女子が一人泣いているのだそうだ。
行かないのはまずいんじゃないとメッセージが飛んでくるが、李君は考えた様子で、国際の3星(スリースター)女子(東大お嬢、韓さん、中国人女性リーダー)をチャットに招待して、簡単な説明を送信する。
少しのやり取りがあったが、夕方まで会議室を押さえて全員を移動、とりあえずの対応は3星女子に任せる事にした。
国際引き抜きリーダーが続きをやっておいてくれるというので、彼に後を任せて会議室を出たのだが、このまま残って仕事の方がマシだとすら思える。
体育会系統括部長の部屋に行くと、大変な事が起きちまったなあと、肩を叩かれた。韓課長は事前調査をする前に、ここに寄って体育会系統括部長に話をしたという。
こんな事件のさなかで何て手回しがいいんだと、感心してしまった。
「君らは、警察が来るまでここにいればいい。韓課長はこういうのに慣れているが、君らは慣れてないからな。」
何の意味だろうかと疑問に思った。残念だが犯罪は0にはならないんだそうだ。
うやむやにしたい所だが、何がしかのケリをつけないと、国際では後に色々な問題が発生しやすいのだそうだ。
犯人が見つかった場合には、退職勧告。みつからない場合には、警察を呼んでいる。こんなに大きな盗みは無かったので、警察が検挙した後は、法律顧問に任せるというやり方をして来たのだそうだ。今までは少額だったので、穏便に解決し、階が違う僕らの耳には入らなかったらしい。
「もうじき、商社の方も来るが、どうする?」
体育会系統括部長は李君にそう聞いた。
「どうとは?」
僕も意味が分からなかったのだが、李君も同様だったらしい。
「おそらく、先方はベンダーの技術者全員をクビにしろと言うだろう。」
それは有りうると僕も思った。
「彼らは犯罪者じゃありません。」
「それは分かってるさ。でも、先方はそうしろと言う。それに反対すれば、君はかなり追い込まれてしまうぞ。大丈夫か?」
李君は少し困った様な顔をしていたのだが、何かを決心した様に大丈夫ですと答えた。ああ、カッコ良い。
先方様はこちらの重役、ベンダーの重役と色々相談してからこちらに来る事になったと、ネット対策室長から電話が掛った。今回は本業?である法律顧問という事のようである。
警察が到着し、体育会系統括部長と共に部屋を出る。私服の警官は2人、制服の警官2人がやって来た。体育会系統括部長が挨拶をし、私服の警官が目撃者の所へ案内してくれと言ったのを韓課長が止める。
「犯人らしき人物が防犯カメラに写っています。」
どこかの運送屋の制服を着た男が台車に大きなプラスチックケースを積んでエレベーターに乗った様子、誰かのカードで開けたドアから執務室に入った様子などである。
何十台ものカメラ映像をこんな短時間で見つけるなんて、どうやったんだと僕はひどく不思議だった。
顔があまりよく映っていないのだが、2Fの非常口から出る映像で誰かに手を振っている。
「誰に手を振っているんだ?」
私服の警官が何気なく言う。
「他のカメラ映像に有ります。」
誰かに手を振った後振り向いた顔が誰と分かる程度に映っている。詐欺師っぽいリーダーだった。
「この人物はいますか?」
7Fに上がって、会議室で目撃者に話を聞いていると、韓課長がセキュリティカードの記録をプリントアウトして持って来た。
詐欺師っぽいリーダーの番号にはご丁寧にもマーカーがされている。あまり使わないドアなので、映像の時間と合致しているのは詐欺師っぽいリーダーだけだった。
その後、詐欺師っぽいリーダーに警官が話を聞くが、どうにもはっきりしない。僕には、とぼけてしまえばOKさという態度に見えた。
制服の警官が数枚の防犯ビデオ映像のプリントアウトを持って来ても、彼ははっきりしない返事をするばかりだった。
「署で詳しく話を伺いたいので、ご同行願います。」
「いや、今は仕事が・・・。」
彼はそう言ったのだが、体育会系統括部長は犯罪者逮捕の協力は国民の義務だから気にしなくていいと、淡々と彼に言う。
制服の警官が両肘を掴んで引きずる様にして彼は会議室を出た。外では、彼の私物をまとめたと韓課長が待っていて、体育会系統括部長は下まで見送ると、セキュリティーカードを回収してしまった。
まるでドラマ、しかし、これが現実? 何だか僕は不思議な物を見た気がした。
その後、やって来た商社の重役は案の定、全員をクビにしろと怒鳴り、ベンダーの重役は了解すると答え。それに李君が反論した。『彼らは何もしていない』まさにその通りである。
でも、この状況、どうやって覆すつもりなんだ? 僕にはとてもできそうにない。李君の強力な援軍は韓課長だった。
「彼らは今回の事件には何も関与していない。しかし、罪はある。」
えっ、李君を加勢するんじゃないの?
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