第13話 事件簿2(2)

 3年後、発電型家電の試作品が何とか完成し、長期実験が行われる事になった。東大お嬢がこれを自分がやっているボランティア活動と結び付けてしまった事が、何故かネットで炎上した。

 炎上はしていたのだが、最初は社名が出るでもなく、会社を食い物にする重役のコネ入社子女といった内容だったので、誰も気にしてはいなかった。

 しかし、徐々に内容が東大お嬢っぽいと噂になり始め、東大お嬢もそのネットの書き込みを見てみたそうだが、特に大きな反応はしなかった。

 東大お嬢がやっているワーキングプア家庭を対象とするボランティア活動は僕のいるソフトウェア部門ではかなりの人数が参加している。僕なんかは多少の寄付で済ませてしまっているのだが、実際に様々な活動(自分が参加していないのでよく分からない)をボランティア団体と共に主催したりしている。


 社名が出るとすぐに会社の見解がネット上に上がった所を見ると、ネット対策室は既に準備をしていたという事らしい。東大お嬢はいずれこういう事が起きるのは覚悟の上だったと僕たちに言った。

 押し寄せたマスコミに対し、東大お嬢は胸を張って自分は悪い事は何もしていない。取材したいと思うなら徹底的に取材しろと言い放った。

 その後、この事件はボランティア団体が実態をネットに公表した事により、政府批判へと内容が変わっていった。


 会社の内外で、こんな事が起きている間、僕はずっと行政システム一本化構想の仕事をしていた。開発というよりは、大きな流れを考えるという事なので、仕事量はさほどに多くはない。

 しかし、他社との会議が多く、やり取りが大変だった。神経を使う仕事とはこういう事を言うのだろう。2年もすると大分慣れて来た。来年からは第1期の開発に入る予定なので、色々な調査を急ピッチで進めている。


 そんなある日、雲の上の人達がビルの会議室にやって来て、部長と僕、それに李君を呼んだ。部長は仕事の進捗を確かめに来たのだろうと言った。政府系の仕事は雲の上の人達もとても気にかけているので、以前にもあったという事だった。


 しかし、話の内容は全く違っていた。忘れ去っていた大手商社の通販システムを急いで構築して欲しいので、李君をプロジェクトリーダー、サブリーダーに僕という話が持ち込まれた。

 開発がとん挫して引き受け先を探しているが、見つからない。3年工期で既に2年が経過、予算は半分以上使い切ってしまっている。

 最初は割り振る人員がいないと断ったのだが、ネット炎上騒ぎで発電型家電を開発中というのに興味があり、海外に販売したいとか、大型の設備を作るなら、倉庫などを実験場として協力したいとか、そんな話が出ると断りきれなくなってしまった。

 韓課長が構築中の資料を見て、自社のフレームワークを使用して、工期2年なら、人員さえ集められれば何とかなると見積もった。最初は韓課長をそのままリーダーに据えようかと考えていたのだが、それだと金融システムが回らない。社員を見回すと、李君しかいないという事である。

 最初から最後までファイアーしそうな仕事である。雲の上の人達を送り出すと、体育会系統括部長は対策会議を開いた。

 まずは人選である。国際事業部から10人、その他から20人ではどうかと体育会系統括部長が言う。

 どの部署もギリギリではないにしろ、余裕はない。国際からはパートナー会社の精鋭を指名した。もう決定という顔なので東大お嬢も諦めた様子である。代わりの人員には制御系にいる秋葉系リーダーの手下を借りてくると約束した。

 他は数人づつなので、研修生や新入社員をフル活用して何とか乗り切ろうという事である。


 技術者の手当てはこれから行うらしいが、30人などという数がすぐに見つかるはずもない。半年はこの状態だろうというのが、皆の見解だった。

 韓課長は何か言いたげだったのだが、その場では何も言わず、李君の家で秘密会議はどうだと僕と李君を誘った。


 韓課長は今回の件の見積もりを任され、今度やって来るベンダーのリーダーと会った。設計書などを見せて貰い、説明を受けたが、どうにもはっきりしない部分が多い。

 設計書に書かれた名前の人を呼んでほしいと言ってみると、元請だった会社の技術者で、その会社はもう解散したという事である。

 連絡先を教えて貰えないかと言ってみたが、教えては貰えなかった。それはそれで仕方ないのだが、そのリーダーは設計書に書かれた技術者の事を『日本語しか話せない出来ないオヤジ』だと繰り返していたという。


 設計書を見る限りはそういう人には思えなかった。そのリーダーが出して来た別の資料の方がよほど出来が悪い。商社からその設計書の技術者の連絡先を教えて貰って連絡してみたのだが、もう関わりたくないと断られてしまった。

 体育会系統括部長が何度も電話してお願いし、設計書に名前のあった他の3人も一緒にようやく来て貰った。


 設計書の説明はベンダーのリーダーよりははっきりとしていたので、体育会系統括部長は一緒にこの仕事を最後までやらないかと誘ったのだが、3人とも、アイツの顔も見たくないとひどく怒っていた。

 何かあったらしいというのは理解出来たが、原因ははっきりしない。営業なら何か知っているかもと体育会系統括部長は情報を集めているが、良くない噂ばかりしか出て来ない。

 体育会系統括部長は良い人であっても、気に入る入らないがあるから、噂を全部うのみにはできないと自分には言ったのだが、韓課長はそれ以上に胡散臭い何かを感じると僕たちに話した。

「犯罪の匂いがする。」

 まさかと思ったのだが、話し方が詐欺師っぽかったのだそうだ。体育会系統括部長は先入観を持たせると判断が鈍るから李君と僕には内緒にしておけと韓課長には行ったのだが、やはり心配なので、ちょっと話しておきたかったのだそうだ。


 韓課長が言った詐欺師っぽいリーダーは、やって来るなり、会議は全部中国語にしてくれと言いだし、国際から引きぬいた10人のサポートは自分がやらねばならなくなった。

 このビルでは会議は原則日本語が基本的な考え方だったので、国際からの引き抜き組はかなりショックが大きかったらしい。李君が大分誤解されてしまっていそうなので、先方の会社まで僕が行って事情説明をした。

 社員達は必死に努力をしているものの、言語の壁は厚い。国際は韓国の人が多かったから、若い社員は片言の英語と韓国語でやっとコミニュケーションが取れる様になったばかりである。

 今度は中国語となると技術の勉強をする時間が減ってしまうのが悩みと語った。


 会社に戻ると受入れ準備で大わらわである。ようやく終わった時には既に20時を回っている。暫くは定時退社なんて夢なんだろうと、李君と二人で笑うしかなかった。

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