光の中
第49話 絶対者との対話
光に包まれたその部屋の中で、ノエルは何者かと対面していた。頭の中で、その「何者か」に問いかける。
(あなたは誰――?)
その問いかけに応じるように、不思議な響きの声がノエルに届いた。
『お前が知りたいと思うものは、お前がすでに知っているもの。お前が視ているものは、お前が見たいと望んだものだ』
その声は女性とも男性ともつかない不思議な響きを持っていた。一人のような気もするし、何人かのざわめきのような気もする。「声」というよりもそれは、精霊の囁きによく似ていた。
(僕が……望んでいるもの?)
ぼんやりとした頭でノエルは答えた。
それから、はっとして周りを見渡す。ノエル以外、誰の姿も見えない。
(皆はどこ? お願い、皆を助けて!)
ノエルは懇願した。目の前にいたはずのカッツェの姿が、ヴァイスの、レイアの、カノアの姿が見えないことに、突然恐怖を覚える。
どうしてノエルだけがこの部屋に来たのか。自分だけ助かったのか?
それともあれは夢だったのか――?
目が覚めれば、またいつものように五人で笑い合っていられるのだろうか。
『それは、できぬ』
絶対的な口調で声は答えた。頭に響くその言葉に、それは「絶対」なのだと、なぜか本能が感じている。
(どうして?! お願いだよ……。このままじゃ、皆が死んじゃう!!)
波に呑み込まれた瞬間の冷たい感触を思い出す。暗く、深い水。息ができず、意識を失う前のあの絶望的な時間――
(僕がいけないんだ。僕が皆に「魔物なら倒せる」なんて言ったから……。皆を危険な目に巻き込んで……)
”「大丈夫、安心して。きっとうまくいくよ」”
”「――自分が何をしたのか、わかっていますか」”
始まりの日に、カッツェの前で自身満々に言ってみせた時のこと。力を暴走させて、ヴァイスに叩かれた頬の痛みを思い出す。
(お願い……僕の命はどうなってもいいから! 皆を助けて――!)
目に涙を溜めて、ノエルは叫んだ。皆を救えるのであれば、自らの命を差し出しても構わないと、ノエルは生まれて初めてそう思っていた。
『では、お前自身がそれを成し遂げよ』
声が答えた。だがその意味がわからず、ノエルは問い返した。
(どういう……こと?)
*
『龍の盃。お前がそれを見つけ、その力を正しく使うことができれば、お前の望みは叶うだろう』
(――教えて、それはどこにあるの?)
『その答えは、お前自身が見つけねばならぬ。――考えろ、ノエル=クラウン』
それだけ言い残して、光の声は一際強く輝いたかと思うとノエルの目の前から消え去っってしまった。
(待って、行かないで! お願いだよ! 龍の盃なんて知らない……どこにあるか、わからないんだ……)
ノエルの声だけが虚しくこだまする。
*
「うぅ……ひっく……どうしよう……」
取り残されたノエルは途方に暮れていた。考えをまとめようとするが、思考が形を成さない。
(考えなきゃ。僕がしっかりしないと――!)
ノエルは必死の思いで己の精神に意識を集中した。――すると、ぽぅっ、と胸の内の一点から拡がる不思議な感覚に気付いた。
(これは――?)
その淵源を必死で
ノエルの目の前に、白い光景が拡がった――。
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◆冒険図鑑 No.49: 絶対者
極限状態に陥ったとき、人は「何か」を視ることがあると言う。
それは「神」なのか、それともこの世の次元を超えた「何か」なのか。
正解は、誰にもわからない。
その存在はただ「そこ」に在り続けるのみである。
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