第38話 成長する種

 小さな村の病人を介抱したノエル達は、再び南部の平野を進んでいた。

 大陸を南下するにつれ、徐々に魔物との遭遇率が高くなる。

 今もまた、巨大な魔物モンスターと対峙していた。


*

「カッツェ、レイア! けて!!」


 呪文を準備スタンバイし終えたノエルが、前方の二人向かって叫んだ。

 ばっ、と地を蹴り、前線のカッツェとレイアが左右に離れる。


『・・・雷電サンダー!!』


 ノエルの手から強力な電撃が水平に放たれた。どごぉおおおおん、という轟音とともに、攻撃は猪型の魔物モンスターに直撃した。


――ウガァアアアアア!!!


 最期の絶叫を残して、魔物が煙の向こうへと消える。


「……ごほっ!!」


 起き上がったカッツェが、土煙にむせながら魔物の生死を確認した。

 見れば、直線状に伸びた焼け跡の先に、真っ黒に焼け焦げた大きな塊が転がっていた。


「……お前、やりすぎだ」

「あれっ、そうかな?」


 呆れた声を上げながら振り返るカッツェに、ノエルは暢気のんきな調子で答えた。


「俺たちに当たったら、死んじまうぞ」

「大丈夫だよ、カッツェにはヴァイスの障壁バリアがかかってるし!」

「そうは言ってもなぁ……」


 あぶみに足を掛けて馬に乗り上がりつつ、カッツェはぶつぶつと呟いている。


「でも僕、最近は術を連打してもあんまり疲れなくなってきたな! なんだか前より成長したみたい!」


 ノエルは一人、ウキウキと声を弾ませていた。


 この半月余りの旅の間に、ノエルは自分が一段と成長してきたことを実感していた。魔導術の持久力や、制御だけではない。一日に何時間も歩いてもヘバらないだけの体力もついてきたし、馬に乗るのもかなり上達した。今までできなかったことができるようになるというのは、それだけで嬉しいものだ。


「まったく、成長期の子供は末恐ろしいぜ……」

「あ、もうすぐ街のようですね」


 恐々として呟くカッツェと対照的に、ヴァイスは全く動じずに遥か前方を見やっていた。ノエルの強さとその成長の速さにはもうすっかり慣れっこなのだ。


*

 魔物の始末を終え、ノエル達はようやく、その日宿をとる街へと辿り着いた。

 さっそく宿屋に向かってみると、受付一階の隣は酒場になっていた。この地域では、こういた造りの宿は珍しくないようだ。

 

 カッツェとヴァイスが宿の受付をしていると、酒場にいた中年の魔導師がノエルに声をかけてきた。


「おぉ……。そこにいらっしゃるのは、ノエル様ではないですか!」

「えっ、僕?」

「南の平野を次々と魔物を倒しながら進む魔導師様一行というのは、ノエル様のことでしたか! 大きくなりなさって……」

「おじさん、僕のこと知ってるの?」


 知らないおじさんから突然声を掛けられて、ノエルは困惑した。この人物はなぜ、ノエルの名前を知っているのだろうか?


「おぉ、これは失礼いたしました。わたくしは昔、北の地で修行をしていたことのある者です。ノエル様のご両親には大変お世話になり……」

「あ、おじさん、北の村にいたことがあるんだ!」

「えぇ、そうなのですよ」


 中年の魔導師は本当に嬉しそうに目を細めている。まるで自分の甥っ子に会ったかのような喜びようだった。

 どうやら、怪しい人物ではないようだ。


 だがそれにしても。北の村からこんなに離れた南の町で、自分のことを、そして自分の両親のことを知る者に出会うとは。思わぬ偶然に、ノエルは驚いていた。



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◆登場人物コンビ紹介:カッツェとレイア…戦士コンビ

 前衛を守る戦士ふたり。カッツェとレイアが組むと、攻撃特化型のコンビニなる。重量パワーならカッツェが上、素早さならレイアが上、といったところ。

 互いに無口な二人であるが、日を重ねるごとに戦闘での連携は上手くなってきている。いわゆる「拳で語る仲」というやつである。


 ちなみに、二人の語り口調は似ているため、どちらが喋っているのか混乱させないよう、作者は頭を悩ませているという。

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