第34話 力の解放


「レイア、何か熱いニャ」

「――?」


 レイアの腕の中でカノアが異変に気付いた。

 視線の先に目をやると、レイアの左腕に描かれた紋様が白く輝いていた。


「これは……」

 ヴァイスが近付き紋様に触れようとする。が、

っ!」

 ひときわ強く紋様が輝いた後に、すっと光が消えてしまった。


 ようやく暗闇に目が慣れてきて、今度はノエルが変化に気付いた。


「――紋様が、消えてる!」


*

「レイア、ちょっとここに立ってみてください」


 ヴァイスが静かな声でレイアに告げた。

 レイアはそっと腕の中のカノアを離して立ち上がる。

 彼女の眉間やや上、額のあたりにヴァイスが二本の指を揃えて当てがった。


「――何か感じませんか?」

「頭が熱い――。それからここも……」


 少しぼんやりとした様子で、レイアが胸の辺りに手をかざしている。

 そして突然はっとした様子で周りを見渡した。


「これは――?」


 レイアの目には、大地から湧き上がる淡い光の珠が見えていた。

 木々から、地面から、大気から。あらゆるところに色とりどりの光が浮かんでいる。赤、橙、黄、緑、あお、白、紫――。


 ヴァイスとノエルの周りには特に強く輝く光の珠が飛んでいた。カッツェの後ろにも赤く輝く光の珠が浮かんでいる。


「………っ」


 突然現れたその光景に訳もわからないまま。何故かレイアの目からは涙が溢れ出していた。

 胸の奥からも、かつて味わったことのない熱い感情が湧きだしてくる。


「見えますか? これがあなたに備わった本来の力――。エルフ族の持つ精霊の加護です」


 ヴァイスが額から手を放すと、先ほどまで見えていた強い光の光景は弱まった。

 しかし大地に息づく光たちの気配はすぐそばに感じられる。意識を集中すれば、またあの光の珠が見えてくる。


「……どういう、ことだ?」


 瞳に溜まった涙を拭うと、レイアは少しだけ落ち着きを取り戻した。

 この現象は何なのか。ヴァイスは一体どんな魔法を使ったのか。それを彼に聞いてみなければならない。



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◆冒険図鑑 No.34:精霊の姿

 魔力の高い者は、精霊の姿を視たり感じたりすることができる。精霊は光の珠のような見た目で、空気中にふわふわと浮いている。

 また、精霊は属性ごとに異なる色をもつ。

 炎の精霊なら赤、水の精霊なら青。風の精霊は緑、雷の精霊は黄、土の精霊は橙、光の精霊は白、闇の精霊は紫……という具合だ。

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