第32話 大空に舞う
日没とともに、西の山にはガルーアが数百、数千と集まってきていた。
日中に
上空一面が、ガルーア達の無数の黒い影で覆われていた。辺りには卵が腐ったような強烈な異臭が漂い、息もできない。――ガルーア特有の体臭のせいだ。
*
カノアはガルーアの首と
ロープを巻き付ける際、ガルーアの口の中に”使役の薬丸”と”嗅覚麻痺の薬”もついでに放り込んでおいた。
使役の薬を使えば、どんな獣でも主の言うことを聞くようになる。――実のところ、魔獣ガルーアにこの薬が効くのかは不安だったのだが、無事に薬は効いているようだ。
嗅覚麻痺の薬は、これから散布するガルーア除けの匂いが、カノアの乗るガルーアに効かないようにするためだ。
ガルーアに乗ったまま、上空を大きく旋回して辺りを観察する。
山の斜面はガルーアの巣で埋め尽くされていた。ガルーアの巣というのは、枯れた灰色の木々を集めて作られている。ガルーアが撒き散らした糞のせいなのか、山肌は裾広がりの扇状に灰黄色に枯れ、見るも無残に荒れ果てていた。
荒廃しているのは、どうやらガルーアの巣がある東側に面した山の斜面だけのようだ。それ以外の斜面と、周囲を取り囲む森には、巨大な木々が青々と茂っている。
*
カノアは、薬を撒く位置を慎重に見定めていた。
なるべく風上で、かつガルーアの巣が集中する場所がいい。何度か上空を旋回し、風の向きを確かめる。
ちょうど風は、山の頂上からガルーアの巣のある山裾に向かって吹き下ろしていた。絶好のタイミングだ。
乗っているガルーアを駆使し、徐々に高度を下げる。
薬粉が飛散しないよう、なるべく低い位置から散布したい。ただし、高度を下げすぎると巣にいるガルーアに近づくことになるので、危険度は高まる。
慎重に高度を決め、ガルーアを滑空状態に移した。
背中に背負った大きな包みから、大量の粉を
近くを飛んでいた別のガルーアが、その匂いに気付いた途端、慌てて向きをを変えて飛び去って行った。――特別に調合したその秘薬は、どうやら効果抜群のようだ。
カノアは覚悟を決め、背中の包みをほどいた。そして大量に調合しておいた薬を、上空からガルーアの巣に向かって振り撒く。
*
空から薬が降り注がれると、辺りに漂う異臭が徐々に薄れて来た。
代わりに、物凄く酸っぱい柑橘系の香りが辺りに漂う。
どうやらガルーアはその匂いが大の苦手らしい。巣にいたガルーア達が騒ぎ出し、飛び上がって逃げ出し始めた。
大量のガルーアが一斉に飛び立ったことで、西の山の上空はパニックになってしまった。
カノアの乗ったガルーアがその混乱に巻き込まれ、態勢を崩した。
「ニャっ?!!」
突然傾いた視界に、思わずロープから手を離してしまった。
「ニャーーー!!!」
ノエル達の目の前でカノアは、真っ逆さまに地上へ向かって落ち始めた――
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◆冒険図鑑 No.32:
獣人族は動物の言葉がわかる。そのため、動物と心を通わせる
特に獣人猫族は、運動神経が良く、社交的な性格をしているため、その能力が高い。
手綱なしで野生馬を乗りこなすことはおろか、狼や虎と言った猛獣まで使役して騎獣のように扱ってしまうという。
かつての戦乱時代には、猛獣に乗りこなして戦う、獣人族の戦士もいたらしい。
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