第24話 男の娘??
森で保護したカノアを人里まで送り届けるため、五人は森の中を進む。
前を歩いていたカッツェが、ふと後ろのカノアに声を掛けた。
「おい、大丈夫か? さっきからフラフラしてるぞ。また腹でも減ったのか?」
朝方にはぴょこぴょこと元気に跳ねまわっていたはずの彼女が、昼を過ぎてからだんだんと元気を失っていた。尖った耳もふさふさとした尻尾もしょんぼりと垂れ、トボトボとノエル達の前を歩いている。
「違うニャ~。ボク達は夜行性だから、昼間はどうしても眠いんニャ。今はちょうどお昼寝の時間ニャ」
ふあぁ、と大きな
それを聞いて、ヴァイスが納得した様子で眼鏡を押し上げる。
「なるほど……猫、ですからね」
「僕がおんぶしてあげようか?!」
ノエルは自分の荷物をカッツェとレイアに預けていることも忘れ、嬉々として提案した。北の村ではノエルより年下の子供がいなかったので、自分の妹ができたようで少し嬉しかった。
「ニャ~、それは申し訳ないニャ~」
そう言いながら、カノアがよいしょと背中によじ登る。
「おいっ、俺には申し訳なく無いのかよ?!」
「こっちの方が安定するニャ~」
寝ぼけまなこのカノアが登っていたのは、カッツェの背中だった。
いつの間にかカッツェの背中の上へ、というより肩車のような状態で乗りあがって、頭にしっかりしがみついている。ようやく落ち着くポジションを見つけたのか、カノアが機嫌良さそうに尻尾を揺らした。
「……ぷっ」
黙ってやりとりを見ていたレイアが、隣で噴き出す。
体格の良いカッツェと小柄なカノアがじゃれる様子は、まるで親子のようだった。
カノアがパーティーに入ってから、皆の雰囲気が明るくなっていた。
*
「……くんくん」
カッツェの肩に乗っているカノアが、何かの匂いに気付いて鼻をひくひくさせた。
「……
「おいっ。勝手に人の頭に乗っておいて、失礼だな」
カノアの下からカッツェが抗議する。頭を固定されているので、ろくに振り返ることもできないようだ。
「おやおや。しかしカノアの言うことも
もともと綺麗好きなヴァイスがそう提案して、場を
カノアの言い分はストレート過ぎたが、確かに一理あった。男三人だけの時には風呂のことなど大して気にも留めていなかったのだが、獣人族は鼻が鋭い。近くに汗臭い男達がいたら気になるだろう。深い森の中とはいっても、エチケットは大切なのだ。
*
「じゃ、レディーは
見つけた小川に着き、何故か一番の新参者であるカノアがその場を仕切る。男たちに場所を指示すると、早速レイアとともに川上に向かおうと歩き出した。
「……っておい。なんでお前はレイアと一緒に行こうとしてるんだ」
「「はっ?」」
「えっ?」
カッツェが掛けた言葉に、全員が振り返った。八つの眼で見つめられて、カッツェが柄にもなく
恐る恐る、小さな声でカッツェが呟いた。
「カノアは俺達と一緒じゃない……のか?」
「何言ってるニャ!ボクはれっきとしたレディーだニャ!」
「え、そうなのか?」
カッツェがノエル達の方を見てくるので、その場にいる全員が頷いた。どうやらカッツェはカノアのことをずっと男の子だと思っていたらしい。
あまりにデリカシーの無い言葉に、全員が呆れかえる。
慌ててカッツェが言い訳を始めた。
「いや、すまん! 体型……いや『ボク』って言ってるから、てっきり男かと思って」
確かにカノアは少女というよりも、どこか少年のようなやんちゃな恰好をしている。身に付けている服も、動物の毛皮を繋いで巻き付けただけのシンプルなもので、ワンピース……というより、大きめの腰巻のように見えなくもない。
とはいえ、みんなで一晩過ごしたというのに、カノアの性別に気付かなかったのだろうか。昨夜寝た時には、ちゃんとレイアがカノアを守るように隣で寝ていた。ノエルやヴァイスも気を遣って、お手洗いの際などは近付かないようにしていたというのに。カノアが怒るのも当然だ。
「まったく、失礼しちゃうニャ! レイア、行くニャ!」
ぷりぷりと怒ったカノアが、くるりと背を向けて川上に向かった。ピンと立った耳と、上を向いて揺れる尻尾の様子から、彼女の機嫌の悪さが見て取れる。
「……最低だな」
「…………すまん」
カッツェに冷たい眼差しを向け、レイアもカノアを追いかけて川上の方に去って行った。
あとに残されたカッツェは、がくりと頭を垂れるのだった。
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◆登場人物コンビ紹介:ノエルとカッツェ…はじまりの二人
この二人が出会ったことから、物語は始まった。戦士と魔導師、大人と少年という組み合わせ。互いに自分にないものを持っているため、傍にいると色々と刺激を受けることも多いようだ。
ときどき親と子、子供と保護者のようにも見えるが、対等な関係を持った友人でもある。
二人の出会いにどんな意味があったのか。それは偶然なのか、それとも必然だったか。その答えは、物語の最後に語られるだろう。
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