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――この島を訪れるものは、決して神に障ってはいけない。
神々の住む島、白結木島のパンフレットには、仰々しいフォントでそう書かれていた。
羽田空港から飛行機に乗り、三時間四〇分かけて南下。降り立った石垣島からさらに高速船で四六分。本州よりも台湾の方が断然近いという、人口千人にも満たない小さな島。
神々が住むと言われているだけあって、どこか未開の神秘的な印象があった。その島では今でも神や物ノ怪といった存在が暮らしの中に根付き、信仰されているのだという。
石垣島で手に入れたパンフレットには、こう続いている。
『白結木島では、罪を犯した者を〝障り人〟と呼びます。神の逆鱗に触れた彼らは、〝祟り神〟による摩訶不思議な罰を受けることになるのです――』
そら恐ろしい文面ではあるが、ファンタジーに寄りすぎて過剰演出な気もする。
しかしネットで拾った記事によれば、島の来訪者の中には確かに、観光以外の目的で訪れるものたちも多いようだ。実際に神に祟られて、許しを請うものたちである。
神や妖怪が信じられている島だからこそ、ここには強い力を持った、ユタと呼ばれる祈祷師がいる。神に障ったものたちは――パンフレットによるところの〝障り人〟たちは、島の神社を訪れて、ユタを通して神様に赦しを請うのだ。
どこまで信じてよいものか。眉唾ものと言えばそうかもしれない。
ただ呪われた身としては、救いよあれと願うばかりである。
少女が橋を渡った直後、僕の背後を通りすぎるものがあった。
ひたひたひた……と裸足で橋を渡っていく猫背の男は、全身をミノで覆われている。頭の天辺から足の先まで、異様なまでに泥だらけである。まるで森から里に下りて来た妖怪ではないか。原住民の方なのだとすれば、想像以上に未開な島である。
その奇異たる姿に「ええ?」と顔をしかめてしまったのがよくなかったのか、男はぴたりと足を止め、僕の方へと振り返った。片手で仮面を持ち上げて、顔を隠していた。丸い穴の開いた、表情に乏しい仮面越しに僕を見つめる。
何だ。僕に何かようか。緊張が走ったが、男はすぐに向き直り、颯爽と駆けていく。泥にぬれた裸足の足跡が、点々と橋の向こうに続いていった。
「何だったんだあれ。こわ……」
派手な着物の天狗少女といい、祭り会場で仮装イベントでもやっているのだろうか。
× × ×
トン、テン。トン、トン――。
川を渡った先にある山裾の沿道を、キャリーバッグを引きながら歩いた。多くの屋台が並び、どこからかスローテンポな祭り囃子が聞こえてくる。
人口の少ない島だとは聞いていたが、通りは煩雑としていて雑踏や喧噪に満ちていた。
金魚すくいの屋台では、浴衣姿の子どもたちが膝を曲げている。射的屋では大人たちが銃を構えていた。発射したコルクの飛んでいった先を指差し、一喜一憂している。
あちらの屋台ではリンゴ飴が並んでいるし、こちらではチョコバナナを売っている。
綿飴を作る機械の裏では、ブオオオ――と発電機が激しい音を鳴らしていて。綿飴を買ってもらった子どもが、「うちで食べる」と綿飴の袋を大事そうに抱きしめていた。
その光景は、意外にも本州の縁日と変わらない。
地図上で見た白結木島は、本州からどころか、沖縄本島からも相当に離れたところにあった。周りは海で、石垣島と小さな島がぽつぽつあるだけの辺境の地だ。一体どれほど独特な祭りが催されているのだろうと、期待している部分はあったが……すれ違う少年が額にかけていたお面は、東京でも見られるヒーロー番組のものである。
浴衣姿の地元の人たちに混じって、観光客らしき人々もよく見かけた。
キャリーケースをガラガラと引き、やかましくしていたのは僕だけであったが。
人混みを避けて川沿いの柵まで歩き、スマートフォンを確認した。島に住む叔母が車で迎えに来てくれる手はずとなっていたが、連絡はまだない。先ほど受信した『ごめんね! 今から行く』という文言と、犬のキャラクターが汗を散らして謝っているスタンプが最後のメッセージ。受信した時間が、待ち合わせ時間であった。
長く沖縄に住む叔母から、聞いたことがある。沖縄には〝うちな~タイム〟という習慣があり、待ち合わせ時間というのは、家を出る時間と同義であるという。そんなにもテキトーで人間関係が壊れやしないのかと思うが、皆が皆遅刻するので、自然とよい頃合いに集合できるのだそうだ。テキトーである。
僕は手持ち無沙汰で通りを眺めた。
日は落ちて、屋台に連なる橙色の提灯がより明るく感じられる。
通りを進んだ向こうの方で、あの泥だらけの男を見つけた。人々の往来する道の真ん中で、こちらに背中を見せて歩いていく。後ろ姿ではあるが、あの不気味な格好は見間違えることはない。その姿は明らかに周りの人からは浮いていたが、誰も気にしている様子はなかった。この島では珍しくもない格好なのか?
親に手を引かれてこちらへ向かって来る少年が、泥の男とすれ違う。その瞬間、男は仮面を持っていない方の手で、少年のかじる焼きトウモロコシをサッとかすめ取った。
少年はいつの間にかトウモロコシを失い戸惑う。それに気づいた母親が「あんたどこに捨てたの」と叱りつける。
「あいつ……悪い奴だな……」
突然目の前で行われたスリまがいの行為に驚き、男の背中を見つめていると、僕の視線を感じたのか男がふと振り返った。仮面で顔の上半分を隠し、口だけ出してトウモロコシをかじっている。
思わず目が合って驚いた。男は僕を尻目に通りを折れ曲がり、山の斜面をのぼっていった。近づき見上げた石段の入り口には、鳥居が設置されている。
先ほどから聞こえる祭り囃子は、その向こうから聞こえていた。
トン、テン。トンテントン――。上の神社でも催しが行われているようである。
叔母からの連絡もまだなかったので、僕はキャリーケースを持ち上げて階段をあがった。
木々の梢に空が覆われて、神社への道のりは薄暗い。橙色の光を放つ提灯が、淡く石段の両端を照らしていた。上へ向かう人は僕以外にもいたが、屋台の並ぶ下の通りに比べればとても静かだ。石段をのぼるに連れ、山裾の熱気や賑やかさが遠くなる。
トンテントンとまったり聞こえる祭り囃子が雑木林に響いて、心細さを覚えた。まるで別世界へと繋がるトンネルを、太鼓の音に導かれて歩いているようではないか。
トン、テン。トンテントン――。
石段の終わりにまたも鳥居が現れて、そこをくぐり抜けると、神社の境内が開ける。
砂利の敷かれた境内は思っていたよりも広く、広場を取り囲むようにして、ここにも屋台が並んでいる。下の通りと同じくらい賑わっていて、再び夜祭りの熱気に当てられた。
汗ばむ額をハンカチで拭い、キャリーケースを引いて屋台を見て回った。鉄板の上で豪快にかき混ぜられる焼きそば。焼き鳥屋からはもくもくと煙が上がり、どこからか焼けたトウモロコシの香ばしい香りが漂ってくる。
食べ物系の屋台ばかり目に入ってしまうのは、腹がへっているからであろう。胃の中のものは全部川に吐きだしてしまったのだ。空腹である。しかし食欲に任せていなり寿司以外のものを食べようものなら、僕はまたも〝ゲロんちゅ〟となるだろう。
ひとけを避けて、境内のはしまで移動した。薄暗い石垣のそばで、ショルダーバッグをあさる。取り出したるは家から持って来たタッパーだ。いなり寿司がつまっている。
夜祭りの屋台を前にして、持参したいなり寿司を食う男。これが僕だ。「いなり寿司しか食べられない呪い」を受けた、僕の生き方だ。痛い。この呪いは、ガツンと殴打される痛さというより、手の甲などをつねられ続けるような、地味な痛さがある。
始めのころは、いなり寿司だけでも食べられるのであれば平気だと楽観していた。ならばすぐに餓死するといったような喫緊の状態ではないと、そう思っていた。
しかし呪いを受けて一週間も経つころには、いなり寿司ノイローゼになっていた。寝ても覚めてもいなり寿司。空腹=いなり摂取であるため、腹がへるのが怖くなる。
打開策を探し、酢飯と油揚げ、この二つを別々に食べみたことがあった。吐いた。
どうやら僕の体の中に、いなり寿司かそうでないかを判断する関所があって、そこで〝いなり寿司〟と判断されれば、無事胃に収まることができるようだ。しかしそれ以外だと、追い払われることになる。つまりこの関所をだませればよい。
酢飯をこっそり米に変えてみてもバレるし、徐々に白米の比率を上げていっても、白米三〇%辺りでバレた。油揚げを徐々に小さくしていく作戦は、半分以下のサイズになったときにバレた。それではいなり寿司ではなく、〝酢飯の油揚げ添え〟だと判断されるのかもしれない。なかなか厳しい関所である。マニュアルでもあるのか。
ゴマを混ぜるのはOKだった。塩を振りかけるのも、わさびや醤油をつけるのもOKだった。油揚げを黒糖に浸した〝黒糖いなり〟も食べることはできた。だがそれがどうした、いなりはいなりだ。僕はもはやクタクタに疲れていた。
酢飯を五目ごはんに変えるのはNOだった。いじわるなのが関所の役人である。「これは食えて欲しいぞ」と願ったものは、大抵ダメなのであった。
心は嘔吐するたびに折れかけたが、それでも僕はいなり寿司以外のアプローチを試みた。
実はこの呪い、飲み物はセーフなのだ。だから僕はいなり寿司以外にも、野菜ジュースや栄養ドリンクを摂取していた。この飲み物に目をつけ、関所を通す。
はたして、どこまでが飲み物と判断されるのか。
一番の収穫は、アイスクリームがOKであったことだ。かき氷もOKだった。それを発見したときは思わずガッツポーズを取ったものだが、食の解決にはならなかった。この氷菓というものは食べても食べても体が冷えていくばかりで、腹が満たされないのだ。
嗚呼。何か、温かいものが食べたい! 麻婆豆腐は飲み物か。カレーのルーは飲み物か。様々なものを試しての結論は「具が入っていなければよい」である。だからなんだ。豆腐の入っていない麻婆豆腐など誰が好んで飲むだろうか。具のないカレーやシチューやなど。コーンポタージュでさえ僕は、コーンに怯えながらすすらなければならない。
そして、おかゆはダメだった。おかゆの食べられない人間に、いったい何が食べられる。いなり寿司か。食べたくて、食べられなくて我慢して、それでも食べてまた吐いて。これからも僕は、そんなことを繰り返して生きていかねばならないのか?
いなり寿司を割り箸で口に押し込みながら、賑やかな境内の様子を眺める。
皆楽しそうで何よりだ。僕はタッパーにふたをして、ショルダーバッグにしまう。
祭りは嫌いだ。喧噪に満ちた熱気は嫌いだ。なのになぜ僕は来てしまった?
ご利益のある〝縁結び祭り〟と聞いて、何を期待していた?
まるでまだ、復縁を望んでいるかのようだ。懲りていない。だから呪いを受けている。
そういう罰を、受けている。
石段の前まで戻って来たとき、鳥居の上に人影を見つけて驚いた。月を背に、鳥居の天辺で屈んでいるのは、泥まみれのあの男である。
何を見ているのか。泥男は仮面を顔の前に添えたまま、一点を見つめている。視線を追って振り返れば、境内の一角にある神楽殿を眺めているようだ。
大きな屋根を有した神楽殿である。手すりのついた舞台では、琉球民族の衣装を着た女性たちが舞を披露していた。奥に鎮座する男たちが、三線や笛、太鼓を鳴らしている。
トン、テン。トンテントン――。
祭り囃子はここで奏でられていたのか。境内での催し物だからなのか、祭りとはいえとても静かなメロディである。厳かな雰囲気の中、女性たちが舞台からはけていき、まばらに立ち見していた観客たちから拍手が送られる。
続いて登場したのは、紅型染めの黄色い着物を着た少女だった。
「あれは……」
先ほどの天狗だ。自然と神楽殿の方へ足が向いた。
少女が舞台に登場すると、明らかに観客の数が増えた。あちこちから、子どもたちが駆けて来て「始まっちゃう」「急ごっ」なんて会話を耳にする。
舞台の中央に立つ少女は、丸みを帯びた花笠をかぶっている。ハイビスカスのような、鮮やかな赤色の花笠である。大きな笠をかぶってうつむいているので、少女の目元はうかがえない。見えるあごの部分は、さっき橋で会ったときのように、真っ白であった。紅の引かれた唇が、きゅっとおすまし顔で結ばれている。
やがて演奏が始まった。テン、テン、テン――と先ほどよりもさらにゆったりとした三線の音色に、節をつけた歌声が重なる。
少女は粛々と舞い始めた。おもむろに両手を花笠の縁に添え、ゆらゆらと体を揺らす。背中を向けて、神妙な仕草で振り返る。
テン、テン。テン、テテ、テン――。
その少女は多くの視線を一身に浴びて、観客たちを魅了していた。舞踊に詳しくない僕でさえ、少女の舞に見とれていた。ときに優しくたおやかに、ときに凜と力強く、少女の舞には緩急のつけられた物語があって、観ている者を飽きさせない。
すごい――と、素直にそう感じた。
少女の作り出した世界に吸い込まれるように、僕は一歩ずつ前の方へ足を進めていく。
舞踊の最中、ほんの一瞬ではあったが、少女の真っ直ぐな眼差しが僕の視線とぶつかったような気がして、心臓が跳ねた。
うっすらと汗を浮かべ、赤い唇をきつく結んだ真剣な横顔に、大人びたものを感じる。
夜風が祭りの熱気をさらう。舞台の両端に飾られたイヌマキの葉や、境内を囲む木々の梢がサワサワと揺れ動く――と、次の瞬間。
少女の作り出した世界を壊す、最悪な展開が訪れた。
境内を囲むように取りつけられたスピーカーから、突如大音量の音楽が流れたのである。
ドンドンドン――! 臓腑に響くバスドラム。疾走感重視のノリノリなリズム。アップテンポのインストルメンタルだ。頭の軽そうな連中が、「いぇーい」だとか「うぇーい」だとか、頭の軽いことを叫びながら体を揺らしていそうな、クラブミュージックである。
「なんだ、事故か……? こんなにもひどい事故があるのか!?」
厳かさも、慎み深さも、みな爆音によって吹き飛ばされてしまった。
演奏者たちが、何事かと演奏をやめる。
舞うのをやめ、うつむいた少女を見上げて胸が痛んだ。あまりに不憫だ。ひどすぎる。いったい誰がこんなひどいことを――。
――と、舞台に立ち尽くす少女の、真っ赤な唇がゆるゆると緩んでいく。顔を上げた少女の瞳に、光が差し込む。その目元が半月型に湾曲して――大人びた少女は一転、無邪気ないたずらっこのように、笑った……?
「どぅーららあっ!!」
少女は花笠のつばをつまみ、あろうことかその花笠を、客席に向かって放り投げる。
満面の笑みである。おまえか。これは――おまえの仕業か。
「うおぉー!」と一斉に突き上げられる拳。次々に上がる歓声。境内に再び、お祭り騒ぎの熱気が戻ってくる。子どもたちを中心に、観客たちは爆音のリズムに体を揺らしていた。「いぇーい」だとか「うぇーい」だとか、頭の軽そうなことを叫びながら。
舞台の少女は頭のてっぺんに結んだ髪をほどき、演舞を再開する――が、あれは先ほどのものとはまったくの別物である。舞ではない。ダンスだ。リズムに合わせて腰を振り、着物をめくってステップを踏んで、鮮やかな袖口を振り回す。大口開けてケラケラ笑って、両目を閉じて頭を振って。その度に、栗色の毛先が揺れていた。
さっきまでの真剣な眼差しはどこへやら。少女は豊かに表情を変え、両手に持ったカスタネットのような楽器を、無節操に打ち鳴らした。
めちゃくちゃである。琉球舞踊に魅了され、前のめりになったところを思いっきりビンタされたような気分。爆音に混じって、老人の怒鳴り声が聞こえた。
「エエ、
境内のはしにある社務所から、また別の少女が飛び出してきた。女の子らしい服を着た、眼鏡で三つ編みの少女である。あれは、先ほど天狗を呼びに来た子ではないか。怒鳴られているところをみると、爆音放送の犯人か……?
あのとき、特別なイベントがあると天狗は赤い唇を歪ませた。これか。
眼鏡の少女はケタケタ夜空に笑いながら、神楽殿に走ってくる。その後を、四、五名の警備員たちが追いかける。
目の前で繰り広げられる逃走劇に、観客たちが「ヒンギレえっ!」と声を上げた。
「……〝ひんぎれー〟って、なんだ……?」
眼鏡の少女は舞台袖の階段から舞台へ上がり、天狗と一緒に踊り出した。
それを追って、舞台上に次々と警備員たちがなだれ込む。しかしすばしっこい天狗と眼鏡に翻弄され、なかなか捕まえることができずにいる。
天狗は、警備員の手を避けながらも鮮やかな着物を脱ぎ、舞台前方でひるがえした。
体操着姿に衣装チェンジし、「楽しんでるかーい!?」観客に吼える。
演奏者たちは観念したのか、ため息のあと再び楽器を構える。そしてアップテンポなリズムに合わせ、それぞれの楽器を奏で始めた。……おお、プロだ。
ノリノリのクラブミュージックに、三線や笛の音、琴や太鼓など和の風味が加わる。
「うははははっ!!」
眼鏡の少女は舞台を駆け回りながら、手提げカバンから紙切れをつかみ取ってを散らしていた。大量の紙吹雪が夜風に舞い上がり、観客の頭上に降りそそがれる。
舞台を警備員に取り囲まれ、逃げ場をなくした天狗がよじ登ったのは、舞台と客席とを隔てる手すりであった。天狗は手すりの上に立ち上がり、客席へとダイブ――。
僕は、そのときには、結構前の方にいたのだ。少女の舞に惹かれ、魅了され、もっと近くで見たいと、近づいていたのだ。こんなアホのような演目ならば、絶対に前列になど来ていなかった。頭上に、天狗が降ってくると知っていたなら。
天井から降り注がれるライトの光が、ばさあっと広がる黄色の着物で遮られた。
視界は一気に暗転し、突然しがみつかれた僕は混乱する。
「なっ。な、なっ……!?」
たたらを踏んで後退し、尻餅をつく。着物を頭からかぶせられ、辺りがどうなっているのかわからない。ただ、鼻先に、らんらんと目を輝かせる少女の顔があった。
「また会ったね、ゲロんちゅ! 縁結び祭りで二回も会うなんて」
「……天狗っ」
「くふふ。空だよ。あたしは、空。覚えといて? たぶんまた会う気がするっ」
言って空は着物を掻き分け、僕の体から飛び退き去っていく。
僕も着物から頭を出し、空を追って振り返った。
「なんだったんだ、いったい……」
唖然としたのも束の間、次は背中に衝撃を受けて潰れた。
「んがっ!」
僕を背中を足場にして、今度は眼鏡の少女が着地したのだ。僕の頭上を飛び越え、笑いながら駆けて行く少女たちの背中を見送る。腰が砕けて立ち上がる気力さえ湧かない。
派手な音楽と舞い散る紙吹雪の中、二人の少女は鳥居をくぐって逃げて行った。
「ヒンギレ、ヒンギレぇ!」と訳のわからない声援を送られながら。
だから〝ひんぎれぇ〟ってなんだ……?
僕は唇に貼りついた紙片を、ぷっと吹き飛ばした。
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