怠惰な俺とクズな彼女

滝沢が着きました!と言っていた場所は小さな教室だった。もうずいぶん使われていなのだろう。机の上や教室のあちこちにほこりがたまっている。


「着きました!とか言ってたけどここに何があるんだ?」


「フフフ、それはですね… ずばり!ここが今日から私たちの活動する本拠地となる場所なのです!」


「活動!? えっと、滝沢の目的をかなえる活動?」


「そういえば、まだ言ってなかったですね。まあ私の目的をかなえるための活動といっても問題ないですね。」


「なあ、気になっていることがあるんだけどさ。滝沢の目的って一体何なの?」


「それはですね、この学校にいるすべての生徒が安心して学校生活を送れるようにすることです。」


「は? よくわからんのだが…」


「この学校には今、約600人の生徒がいます。その中にはきっと学校になじめない人や学校に不満を持つ人もたくさんいるでしょう。そんな人たちの悩みをすべて解決するのが私の目的なのです!」


無駄に立派なことだこと。まあ、今の発言を聞いて一つわかったことがある。こいつの目的とやらは絶対に達成されることがないということが…

だが、また何か言ってこいつを泣かせてしまうようなことがあってはならない。 ここはてきとうに返答しておくのが賢い選択だろう。


「あー、うん。まあがんばれ!」


「なんで自分は関係ないみたいに言っているのですか?もちろん赤崎くんも一緒にやるんですよ。」


やっぱりそうなるのかよ。 うん、知ってた! もちろん知ってたよ!


「まあ、約束だからさ。 一緒にやるしかないよな…」


「一つ聞くがなんで滝沢がそんなことやる必要があるんだよ?」


「そんなの決まっているじゃないですか! 私がこの学校で一番かわいくて、私に女神様のような優しさがあるからですよ! だから自分達だで悩みを解決できない弱者たちにも手を差し伸べてあげるのは当然なのです!」


優しさはまあ必要だと思うが、かわいさってそこまでいるか?

それにやっぱりこいつどうしようもないクズな思想の持ち主だ。 こいつのクズさはもう救いようがないといっていいだろう。


「で、どうやってその弱者とやらを探すんだ?」


「まずは自分たちで探しに行きます。」


「うんうんそれで?」


「この学校には生徒が自由に使っていい掲示板というのがあるのはご存知ですか?」


「見たことはあるな。」


「その掲示板に私たちの活動も載せてもらいます。」


「うん わかった。それで?」


「後は私たちのところに助けを求めに来るのを待つだけです。」


うん。適当だね! でも、まあ、滝沢が本気でやろうとしていることは俺に伝わった。 きっと目的が達成されるのは不可能だろうが、俺はもとの引きこもり&省エネ生活に早く戻りたいのでな。 もとの怠惰な生活に戻るためにもちょっと頑張るか!


「よし!やるか!」


滝沢は嬉しそうに「はい!」と答えた。


「あ~、そういえば赤崎くん。」


「なんだ?」


「この活動は一応生徒会には報告したんですが、生徒会がこの活動を続けるにあたって一か月以内に活動人数が5人以上になることと、活動成果をしっかり報告すること、これを両方達成しないとこの活動を禁止にすると言われたのでちゃんと頑張ってくださいね。 ホント生徒会の馬鹿どもは何を考えているんでしょうね。全く…この私が直々にお願いしに行ってあげたのに。」


こいつのクズさはもう無視して、今、俺には希望の光が見えた。 活動を続けるためには人員の確保ときちんと成果を上げなければいけない。 つまり、それをしなければ俺がもとの引きこもり&省エネ生活に戻れるということではないか! 自分から動かなくても勝手に怠惰な生活という勝利が舞い込んでくる!

先ほどまでの俺の、ちょっとのやる気は途方の彼方へ飛んでいき、今あるのは地獄から解放されたような開放感だけだった。


「ああ、了解。」 俺はもう頑張らなくていいとわかったので、てきとうに返事をしておく。


さあ、今日はもう帰ろうかな~ どうせ頑張らなくてもいいわけだし。とか思って、滝沢に「今日はもう疲れたから帰るね。」と言い教室から出ようとドアに手をかけようとした瞬間だった。 目の前のドアが思いっきりバンッと開いた。


「え…」 目の前に立っているドアを開けた男と目が合いお互いに数秒固まった。 


先に口を開いたのは男のほうだった。


「ごめんね? びっくりさせちゃったかな?」 そう言った後、男は一度部屋の中を見回し、滝沢がいることに気がつくと何かを理解したようで急に笑顔で俺に話しかける。


「君はあれか~ 滝沢さんにお願いされてこのめんどくさい活動をすることになってっしまったんだね。 滝沢さん相手だったら断れないよね~ でもこの生活向上部の活動はめんどくさいよ~」


そこで滝沢が口を開く。


「そんなこと言わないでくださいよ~ 三ケ嶋先輩! 彼、赤崎くんはちゃんと自分からやってくると言ってくれたんですよ?」


「それは優しいな~ えっと?赤崎くんだっけ。 僕は三年生の三ケ嶋みかし 関せき。この生活向上部の副部長さ。よろしくね!」


三ケ嶋先輩は、にこやかなスマイルで挨拶してきた。 


うぜぇ。何が、うぜぇかって、こいつがチョーイケメンで、身長も俺より十センチくらい高く、とても性格のよさそうなとこだ! 心が狭い俺はそんなことを思ってしまう。 いかんいかん。 落ち着け、俺。


「俺は一年生の赤崎 蓮輝です。 よろしく。」 俺は愛想笑いとバレバレの表情で挨拶をする。


早く家に帰るたかったので、挨拶をした後「じゃあ俺はもう帰るんで。」とドアのところに立っている三ケ嶋先輩に言い教室から出ていこうとすると、三ケ嶋先輩に結構強い力で腕をぎゅっとつかまれた。 何事かと思い三ケ嶋先輩の顔を見る。


「赤崎くん? まだ帰らないで。僕とちょっとお話してこっ?」 


「いや、ほんともう帰るんで。」そう答えると腕をつかむ先輩の力が強くなった。


「えっと、先輩?」


「帰らせないよ。 赤崎くん。」 三ケ嶋先輩は先ほどと、似た笑顔で言う。しかしさっきと違って先輩の目は笑っていなかった。 ちょっと待って、この先輩怖すぎだろ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怠惰な俺は青春を謳歌することなど全く興味がなく、恋愛などもってのほかなわけで 月宮 小夜 @masiro501

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る