怠惰の俺とクズな彼女

彼女のかわいさに見とれてしまわないうちに、俺は彼女に名前を訪ねる。


「えっと、お前の名前は?」 


彼女はアイドル顔負けな100点満点の笑顔で言った。


「あ、ごめんなさい。私、まだ自分の名前言ってなかったですよね。私の名前は滝沢 茜たきざわ あかねです!」


くっ!たとえそれが俺一人に向けられた笑顔ではなく、今まで出会ってきた俺以外の奴ら全員にも同様に向けられてきた笑顔だと知っていても、ちょっとドキッとしてしまうだろ! やめろ!俺は今まで人を避け続けてきたぶん、そういうのに対する免疫というものが全くないんだよ。


今ある照れを隠すように俺は続けて質問する。


「じゃあ滝沢さんでいいのかな?」


「いえ、呼び捨てで構いませんよ。滝沢でも、茜でも。」


滝沢はちょっと意地悪そうな笑みを浮かべながら言う。


だから、いちいちそういうのはやめてくれ! なんていう俺の心な叫びが届くわけもないわけで


「わかった。滝沢でいいんだな?」


「茜でもいいですよ?」 


滝沢はまたもや意地悪い笑みを浮かべて俺の顔を覗き込む。


「滝沢でいいよ。」


俺は自分が照れているのが滝沢にばれるのが恥ずかしかったので、滝沢の視線から逃げるように顔をそらしながら言う。


「そうですか。それじゃあ、滝沢でいいです。」 


滝沢はなぜか残念そうに言っていた。きっと俺の反応が期待していたのより、だいぶつまらなかったので、がっかりしているのだろう。たとえ違ったとしてもそう思っておくことにしておこう。


「ではそろそろ行きましょうか。学校に」


「オーケー 疲れるからゆっくり行こうな。」


俺が引きこもりになる前まで毎日通っていた遠山高校は家から徒歩で駅まで行きそこから電車で15分ぐらい乗って着く。 


家から駅まで行く間は滝沢のほうから俺に色々話題を出してくれて、会話とまで呼べるのかわからないが結構話をしていたが、駅に着き電車に乗ったあたりから滝沢が少しでも時間をつぶそうと考えてきた話題もすっかり尽きたらしく何も話しかけてこなくなった。 


なんかこう思うのだが、久しぶりに来る学校というものはなんかいやだな。 こういうのは自分の馬鹿な被害妄想だとわかっているがちゃんと毎日、真面目に学校に通っている遠山の生徒たちに会うとあいつらの視線がどうもが俺のことを「あいつなんで来てんだよ?」みたいに言っているような気がしてならない。 


電車から降りたあと、高校の校門の前で滝沢に「ついて来てください。」と言われ彼女の後ろを素直についていく俺だったが、廊下で誰かにすれ違うたびそんなことを考えるのであった。


それにしてもおかしい。外で野球をしている奴らもいればサッカーをしている奴らもいる。廊下でも金管楽器を窓の外に向かって吹いている奴らもいるし、何か大きなものを集団で持ちながら廊下を歩いていく奴らもいた。騒がしすぎじゃないか?たまたま今が休み時間だとしてもこれはおかしい。


「なあ、滝沢。 なんで今日はこんなに騒がしいんだよ。何か行事でもあるのか?少なくとも俺が普通に通っていた時はこんなに騒がしくなかったぞ。」


「それはきっと赤崎くんが通っていたのが平日だけだったからですよ。」


滝沢は何事もないように言った。しかしそれは俺にとって、とても重要なことだった。滝沢の発言から予測できることはただ一つそれは、今日は平日じゃないのかよーーー! 俺は自分の予想が外れていることを願い恐る恐る聞いてみる。


「あれ、今日って平日じゃなかったけ?」


「今日は土曜日。部活のある生徒はいますけど一応学校は休みですよ。」


やっぱりそうか!平日だと思っていたから、わざわざ俺の家まで学校に来るように言いに来てくれた滝沢にこのまま追い返すのも悪いな~ と思って別に今日はやることないし、たまには授業でないと退学危ないし、今日ぐらい授業出てもいいかな~ といろいろな理由を考えて自分を説得させて来たのに。


今日は平日じゃないだと! 考えれば確かに変だと思うことがあった。滝沢が俺に「学校に来てください!」と言って俺が「いいよ」と返事したときに彼女は「え、いいんですか?」と意外そうに聞き返してきた。

俺はてっきり、引きこもりの俺があっさり学校に行くことを承諾したことに対する疑問だと思っていたが、実は「今日は学校休みだけど学校に来てくれるんですか?」 という疑問だったのだ。 俺はまんまと勘違いを犯し、行っても意味のない日に限りある貴重なエネルギーを無駄に使い学校に来てしまったというわけだ。 よし!決めた! これからは目覚まし時計に曜日が書いてあるやつを置くとしよう。


俺がとても貴重な考え事をしていると前を歩いていた滝沢が急に足を止めた。


「どうした?」 


「着きましたよ!」


「着いたってどこに?」


後々考えてみても、怠惰な俺の省エネ生活はここから壊れていったと思う。しっかりと曜日を見ていればこんなことにはならなかったのに。 それは俺が初めて自分の怠惰を悔やんだ瞬間だった。


彼女はスーっと息を吸い込み一気にその息を言葉と一緒に吐き出す。


「私と赤崎くんの新しい学園生活の始まりの場所に!」 


滝沢は堂々と胸を張り、校舎中に響いたんじゃないか?と思うほど大きな声でここに宣言したのであった。


「は?」


これから始まる物語は、俺の省エネ生活を壊そうとすると滝沢との地獄のような学園生活だ。

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