第64話 空虚

 その日のお昼。


 如月さんはいないけれど、いつもの場所に来ていた。

 ここは学校敷地奥にある一部の人しか知らない隠れスポットで、俺と如月さんがお昼に集まる秘密の場所でもある。


 いつものくせで来てしまった。

 と、いうのは嘘だ。

 ここに来れば如月さんに会えるかもしれないと思ったからだ。

 そんなことあるわけないのに……


 ベンチに腰を下ろす。

 二人だと手狭だと思っていたベンチも一人だと、無駄に広く感じる。

 目をつぶると、如月さんの姿が浮かぶ。

 顔に似合わず不器用で、自分のことよりも俺のことを気遣ってくれる優しい人。

 俺は如月さんの力になろうと決めたのに、いざというときにこのざまか。


「恭介君、そんなふうにおもわないで」


 如月さんの声が聞こえたような気がした。

 声のするほうをみるが、当然如月さんはいない。

 あるはずもない声が聞こえるなんて、幻聴で聞こえる俺の精神は追い詰められているのか。

 俺は一体何をしているのだろうか。

 何ができるのだろうか。

 答えはでるはずもなく、無情にも時間だけが過ぎていく。


 それからしばらく過ぎた頃にメッセージが届いた。


『恭介君一人で昼食かね?』


 メッセージはミスターXからだった。

 こいつ俺の気持ちを知ってか嫌なことに突っ込んできやがる。

 ミスターXにかまえるほど気持ちに余裕がない。

 だから俺は、


『一人で悪いか。お前にかまってる暇はない』


 そう返すと、


『そう邪険にしないでくれ、私と恭介君の仲ではないないか』


 どんな仲だとつっこもうとしたが、止めた。

 時間の無駄である。

 そうミスターXは俺の夢を邪魔する張本人。

 ”如月詩愛の秘密を守れ”と俺を脅すサディスティックな奴だ。


 如月詩愛の秘密を守れ?

 そうだっ

 俺は大事なことを忘れていた。

 ミスターXならば如月さんの入院先を知っているかもしれない。

 俺ははやる気持ちを抑え、ミスターXに問うた。


『ミスターXに聞きたいことがある』


『なんだね? 私に答えられることなら何でも聞くがいい』


『如月さんが入院したんだ。入院先を知っているか?』


『もちろん知っている』


 やはりミスターXは如月さんと何らかしらのつながりがあるようだ。

 だが、二人の関係なんて今はどうでもよかった。

 俺は如月さんに会いたいだけなんだ。


『頼む。入院先を教えてくれないか?』


『それはできない』


『なぜだ』


『秘密です』


『なんでもっていったじゃないか』


『それだけは言えない約束だ』


 約束?

 どういうことだ。

 ミスターXと如月さんの間でのこと?

 しかし、この調子なら深堀してもどうせ教えてくれないだろう。


 如月さんとつながっている唯一の存在のミスターXに断られてしまった。

 もはやなすすべなしである。

 それから少し経って、


『これでは恭介君があまりにかわいそうだな。だから恭介君にヒントをやろう』


 ミスターXに心情の変化があったのか、ヒントを教えてくれるそうだ。

 この際、どんな小さなことでもいいので情報が欲しい。


『どんなことでもいい。教えてくれ』


 俺がそうメッセージを送ると、


『君が諦めた例のあれをもう一度さがすんだ。答えはそこにあるだろう』


 例のあれ?

 少し考えてすぐに答えはでた。

 ミスターXが言っているのはきっとタイムカプセルのことだ。

 俺はいてもたってもいられず、校門をかけぬけ国道沿いにある小さな公園に向かって走り出していた。






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