第63話 別れ

 次の日の朝。

 如月さんは待ち合わせ場所に来なかった。

 これまで如月さんが体調不良等で学校にこれない日は、俺が待ちぼうけにならないように如月さんの代理人(誰かは謎)が来てくれていたのだが……

 というのも如月さんはスマホを持っていなく、連絡手段がないからだ。

 だからいつもと違う事態に胸騒ぎがしていた。


 いつもと変わらない教室。

 ぽつんと空いている如月さんの机。

 ホームルームが始まり、担任が教室に入ってくると、冒頭で如月さんが検査入院したことが告げられた。


 クラス中がざわめき始める。

 俺も嫌な予感が的中し、胸のもやもやが大きくなる。

 クラスメイトから原因や入院期間の質問が飛び出るが、担任は何一つ答えなかった。

 俺は授業の合間の休憩時間に職員室へ行き、担任に如月さんのことを問うたが、答えてはくれなかった。

 隠しているというよりかは何一つ聞かされていない感じだ。


 昼休みになると如月さんの入院が校内に知れ渡り、男子達が集まってきた。

 公の事実として俺は如月さんの彼氏である。

 だから入院先を知っていると考えたのだろう。


 男子達からの質問攻めに俺はただ、言えないと返答し続ける。

 彼氏なのに彼女の入院先を知らないなんておかしいだろう。

 だから決して知らないとは言えないのだ。


 男子達の圧力はかなり強かったけど、沈静化してくれたのはあの豪鬼先輩こと乱銅さんだった。

 乱銅さんは俺の様子を見て、感づいたようで去り際に「俺に何か協力できることがあったら力になる」とも言ってくれた。


 それから数時間無気力な状態が続いた。

 なぜあの時、俺は如月さんが入院するって話してくれた時に、もっと彼女の話を聞いてあげられなかったのだろうか。

 どのような理由で検査入院したのかわからないが、急にいなくなるということは軽いものではないのではと考えてしまう。

 不安に不安が募り、嫌なことばかり考えてしまう。

 後悔の念だけが強く残り俺の中を渦巻いていく。


 その時、俺の脳裏に

「誰より近くで彼女の事を守るって誓ったのに」

 という言葉とともにある光景がフラッシュバックした。


 辺りは暗く。

 街路灯の少ない暗い道路で、一人の男の子が背中を向けて座っている。

 何があったのだろうか、男の子は震えていた。

 男の子は何か大切なものを抱えているように見える。

 しかし俺はその光景を直視できずにいた。

 理由はわからない。


 遠くから近づいてくるサイレンの音。


 見たくない。

 見てはいけない。

 俺の中で溢れてくる感情。

 あれ? どうしたんだ?

 涙が勝手に溢れてくる。


「恭介君……。けが……してない? よかった」


 ふいに聞こえてくる今にも途絶えそうな女の子の小さな声。

 その声は俺がよく知っている声だった。

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