第62話 帰路

 放課後、俺と如月さんはタイムカプセルを探すべく国道に来ていた。

 ここは以前如月さんに似た女の子を見失った場所でもある。

 俺たちは国道を歩いていくのだが、殺風景な風景が続いく。

 一つあるとすれば地平線沿いに大きな建物があるくらいだろうか。


 それにしても如月さんはどうして俺について来て欲しいと言ったのだろうか。

 俺と何か関係があろうのだろうか。

 と、考えている矢先に如月さんが、


「たしか、もう少し歩いたところにあるはずなの」


 如月さんの言う通り、それから少し歩いたところに小さな公園が見えてきた。

 こんなところに公園があったなんて。

 俺と俺と如月さんは公園に入ると自然と立ち止まった。


「よかった。あの時のまま」


 そう言って如月さんは公園の真ん中に位置する大きな桜の木の下まで駆け寄ると俺のほうへ振り返り、


「ここだよ。恭介君とここにこれてよかった」


 如月さんはぱぁっと明るい笑顔を俺に向ける。

 この光景なんだか懐かしい感じがする。


「恭介君何考えてるの?」


 この感情を言葉にするのが難しくて、返答に時間がかかっていると、


「またエッチなこと?」


「またって!? 俺って如月さんの中でそんなキャラ?」


「嘘だよ。えへへ」


 如月さんの返答に至極安心する俺。

 一応仮に付き合っているわけだから、彼女からどういう風に思われようがいいのだが、男としてはね。

 それからお互い桜の木を前に言葉を発せず穏やかで優しい時間が過ぎていく。

 ふいに如月さんが、


「君は本当に覚えてないんだね」


 その声はか細く、小さくて、消え入るようで、如月さんを見るととてもさびしそうに見える。

 俺は居ても立っても居られず如月さんに問う。


「やっぱり俺ここにきたことがあるんだよね?」


「恭介君。何か思い出したの?」


「はっきりと思いだしたわけじゃないんだけど、この場所なんか懐かしい感じがするんだ」


 俺の言葉を聞いて如月さんはぱんっと表情を整えて、


「あのね恭介君にお話しすることがあるの」


 あらたまって話を切り出されると、ドキドキする。

 桜の木だけに、ときめき〇モリアルみたいに美少女からの告白イベント!?

 まぁそんなことはなく、その答えはすぐにやってきた。


「私入院することになったの」


 その言葉を聞いて硬直する俺。

 最近早退すること多かったから心配してたんだけど、どこか悪いのだろうか。

 如月さんに問うと。


「ううん。大丈夫だよ」


「だって、入院するほどなんだろう?」


「検査入院だから安心して。私は本当に大丈夫だから。彩夏祭を恭介君と一緒にいけるように頑張るから。だから約束だよ」


 如月さんの言い回しが気になるのだが、検査入院ということだし、これ以上心配しても彼女の迷惑になりそうだ。

 それよりも如月さんが楽しみにしている彩夏祭を絶対開催できるように俺も頑張らなくては。


「わかった。約束する。じゃあタイムカプセルさがそっか」


「うん」


 如月さん曰くタイムカプセルは桜の木の近くに埋めたというのだが、漠然としか覚えていないらしい。

 なので俺は学校から借りてきたシャベルを使って、桜の木近くを手当たりしだいに掘り進めることにした。


「なかなかみつからないね。恭介君かわろっか?」


「大丈夫だよ。きっと見つかる。力仕事は任せてよ」


「うん」


 それからどれくらいの時が経っただろうか。

 あたりは薄暗くなり、桜の木周辺は俺がほった穴でいっぱいになっていた。


「恭介君、もう暗くなってきちゃったし、今日はやめよ」


 タイムカプセルはきっと如月さんにとって大切なもの。

 だから絶対みつけてあげたい。

 俺がその後も掘り進めていると如月さんが、


「それじゃあ、また明日手伝ってくれる?」


 まぁたしかに暗くなってきたし、明日改めて探せばいいか。

「わかった」と如月さんの言葉に承諾し帰宅することにした。




 俺はこの時タイムマシン探しを止めたことを後悔することになる。


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