第60話 地獄のケータリング9

「というわけで、つよぽん。ダイスをふってください」


 スーパースマイルでダイスを乱銅さんに手渡すねね。

 この娘絶対乱銅さんの夢を聞き出そうとしている。

 乱銅さんというとワサビ寿司を当てた俺に対し何も文句を言ってこない。

 逆に攻め立てられたほうがどれほど気が楽であっただろうか。


 だが、しかし乱銅さんはこれから罰ゲームを受けることになるが、まだ秘密がばれると確定したわけではない。

 ダイスでねねに当たらなければよいのだ。


 そしてついに乱銅さんがダイスを転がす。

 ダイスは俺の目の前でころころと転がっていく。


 頼む。

 ねねにだけは……

 当たらないでくれ!!!


 そしてダイスは止まり。

 でた目は……


「あたしが当たったわね。乱銅にお願いしたいことなんてないわ」


 ダイスの目は一色誉と書いてあった。

 その光景と誉ちゃんの言葉に俺はそっと胸をなでおろす。

 要注意だったねねを回避することができたし、

 誉ちゃんの発言から乱銅さんの夢を聞く流れにはならないだろう。

 ねねを見ると非常にくやしそうな表情をしている。


 ねね悪いな。

 買ったのは俺たちだ。


「せっかくつよぽんの夢を聞けるとおもったのに~」


「ふふふ。残念だったな。ねね」


「あ~も~。どうしておにーさんがそんな嬉しそうなんですか? 」


「えっ、あっ、俺がワサビ寿司を引いた手前よ」


「なるほど、そういうことですか。それでどうするですか誉ちゃん?」


「だって乱銅に興味ないからお願いしたいことないといってるでしょ」


 そうだ。

 その調子でこの件を終わらせてくれ。

 ワサビ寿司を引いた時は終わりと思ったが、この状況は不幸中の幸いだ。

 しかし、せっかくの流れがこの男によって、


「それじゃあ、ゲームをやった意味がないだろう。なんでもいいから言ってくれないか生徒会長」


 ばかっ乱銅。

 罰ゲームを回避できる流れになったのにそんなこと言ったら……


「誉ちゃん。だったらつよぽんの夢を聞くのはどうですか?」


「それはねねのお願いだろう?」


 俺はすかさぶねねに反論する。

 しかし凜さんが、


「そうだけど、ねねさんのお願いを一色さんが代行するのはルール的に問題ないわね」


 まさに正論。

 だが誉ちゃんが承諾したわけではない。

 誉ちゃん頼む。

 唯我独尊でゲームを終わらせてくれとおもっていたのに……


「まぁお寿司もおいしかったし。ねねのお願いを聞いてもいいわよ。乱銅問題ないわね」


「そうだな。罰ゲームなら仕方がないか……」


 おいっ乱銅。

 なんで納得してるんだよ。

 これじゃミスターXのミッションが……

 しかし乱銅さん含めて俺以外の全員が納得しているのに俺だけが反論するのはおかしすぎる。

 これは詰んだな……

 俺はがっくりと肩を落とした。

 俺の気持ちをよそに、話は進んでいく。


「誉ちゃん、それではつよぽんにお願いしてください」


 誉ちゃんは、はぁーとため息をもらしつつ乱銅さんに向かって、


「あなたの夢をきかせなさい。つまらなかったらただじゃおかないわよ」


「わかった。話そう」


「……」


 沈黙が続く。

 あれほど嫌がっていたのだから気持ちの整理も必要だろう。

 俺含めて全員乱銅さんが話を再開するのをじっと待つ。

 数秒の時間が過ぎ、乱銅さんは話を再開する。


「俺は一人前の寿司職人になる為にこうやって学校以外の時間を使って修業しているのだが、修業している理由は俺の好きな人に最高のお寿司を食べてもらっていつも笑顔になってもらいたいからなんだ」


 不器用にも一つ一つの言葉を噛みしめるように言う乱銅さん。

 乱銅さんのことははっきり言って嫌いである。

 これまでどれだけ窮地に立たされたことか。

 だけど一人前の寿司職人になる為に頑張っている姿は嫌いではなかった。

 だから不覚にも夢の由来に興味を持ってしまい、


「過去に何かあったんですか?」


「聞いてくれるのか斎藤」


「もちろんです。先輩。聞かせてください」


「俺が小学生の頃に父親の仕事の手伝いである施設に行ったんだ。その時の俺は嫌々ながら小遣いがもらえるから手伝っていたのだが、その施設でとある女の子と出会った。その子は何か抱えていたようでいつも悲しい顔をしていて父親のお寿司も食べなかった。それから幾度か施設に行くうちにその女の子に寿司を振る舞う機会ができて俺のつたないお寿司を振る舞えたんだ。そしたらなんて言ったとおもう?」


「乱銅君のお寿司食べて元気がでたよ」って今までに見たことがない笑顔を見せてくれたんだ。


「その笑顔を見て俺は、もっと腕を磨いて俺の寿司でいつも笑顔になっていてほしいと思った。それがきかっけだ」


 乱銅さんの過去を聞いて、なぜか俺はあの子の事を思い出していた。

 少し沈黙があり、凜さんが、


「中学生だった時にクラスで夢を発表する機会があったの。乱銅君はこの話をしたわ。乱銅君学校では武闘派だったから、乱銅君のギャップの違いに顔に似合わないとか、からかう男子達がいて。そのことがあってから夢を話すことを拒絶するようになったのよね」


「桐沢いいんだ。皆すまんな。ゲームをしらけさせてしまって」


「謝るのおかしいですよ。乱銅さんは勘違いしているようですが、ここにいるみんなは乱銅さんの夢を笑うようなことはしない。乱銅さんはこうやって学校に行きながら夢の為にがんばってるじゃないですか。俺はかっこいいって思いましたよ」


「斎藤。おまえ」


「一人でも自分のことをわかってくれる人がいる。俺はそれだけでいいと思います。それに俺も乱銅寿司の一ファンになっちゃったわけだし」


「そうですよ。つよぽん。ねねはつよぽんの握るお寿司大好きです」


「斎藤、ねねちゃんありがとう」


 続けて誉ちゃんも、


「久しぶりにお寿司を食べたけれど、今まで一番おいしかったわよ。だから安心して今後も精進しなさい」


「よかったわね。乱銅君」


「ああ」






 その日の夜。

 乱銅さんの夢を守ることができなかった俺はミスターXからどんな罰をうけるのだろうかと、びくびくしていた。

 俺が結果を報告するとミスターXからメッセージの返信が来る。

 恐る恐るメッセージを見ると、


『恭介君。今日はご苦労だった。無事乱銅剛の夢を守ることができたな』


 想定外のメッセージに混乱する俺。

 ん?

 どういうことだ?

 俺はミスターに疑問を問うた。


『乱銅さんの夢はみんなにばれたんだぞ。どこか守れたんだよ』


『いや恭介君。君は見事に乱銅剛の夢を守ることができた。彼自信夢を肯定してくれる人いることがわかり、夢に自信をもつことができただろう。それにきっと彼は君の力になってくれる』


 確かにミスターXは秘密を守れといったが、隠せといったわけではない。

 結果的にだがミッションもクリアできたわけだし、乱銅さんの力にもなれた。

 ただ一つ疑問があるので、ミスタXに問う。


『乱銅さんが俺の力になってくれるってどういうことだよ?』


『それは秘密です』


 返ってきたのはいつものお決まり文句であった。

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