第59話 地獄のケータリング8

 そして、ついに乱銅さんの番が来た。


「よしっ」っと、気合を入れる乱銅さん。

 と言っても、今だ目隠し状態なのだが、どうやってお寿司を取るのだろうか。

 ここはでしゃばらずに様子をみよう。


「むぅ……」


 乱銅さんは両腕を組みながら見えないであろうお寿司とにらめっこをしている。

 いくら乱銅さんでも目隠しではどうにもならないか。

 みかねて誉ちゃんが、


「でさ、乱銅はどうやってお寿司をとるわけ?」


 すると、ねねが


「ごめんなさい。つよぽんがお願いしてくるの待っていたんですが」


「この男にそんな器用なことができるの?」


「そこは期待していたんですが」


 なんだねね何か思惑があるのか?

 ねねは続けて、


「それじゃあ、ねねが”あーん”してあげますね。いいですよね、つよぽん?」


「よかったじゃない。乱銅。小娘だけど、女子に食べさせてもらって」


「ね、ねねちゃん、それだけは勘弁してくれ」


「ねねじゃ嫌ですか?」


 ねねお得意の懇願攻撃。

 直視されたら一発アウト、目隠ししているおかげで効果半減というところか。

 しかし乱銅さんのうろたえようといい、耳が真っ赤なことといい。

 こんな乱銅さんを見るのは初めてだ。


「嫌だとは言っていない。気を悪くしないでくれ。だがだめだ」


「でも、それじゃあ。どうやってお寿司をとるんですか?」


「おいっ、斎藤っ」


「いえす、マム」


 突然の呼びかけに思わず変なことを行っちゃったよ。

 続けて乱銅さんは、


「お前がとれ」


 まさか俺にお願いしてくるとは。

 女子にお願いしたくないからと言って、男同士で”あーん”なんてきもいだけだぞ。

 しかも乱銅さんになんて絶対無理である。

 というわけで拒否したわけであるが。


「おにーさんに断られたわけですし、つよぽん。観念してくださいね」


 乱銅さんを見ると額にすごい汗が……

 ちょっと乱銅さんがかわいそうになってきた。


「わさび寿司だったら、ねねのお願い聞いてもらいますからね」


 ボソッとつぶやく、ねね。

 お願いってまさか!?

 そういえばさっき乱銅さんの夢をしつこく聞いてたな。

 まさか罰ゲームで聞き出そうとしているじゃないか?


「ねねさん、そんなに乱銅君の夢を知りたいのね」


「はい、つよぽんとは昔から知り合いで、夢があるなら知りたいですし、応援したいんです。だからつよぽんに罰ゲームを受けてもらいます」


「なるほど。そういうことだったのね。だけどこのゲームの欠点だけど、仮に乱銅君がわさび寿司を引いても我慢して平静を装えればセーフよね」


「大丈夫です。つよぽんは大のわさび嫌いですから」


「うむ」


 乱銅さんに苦手なものがあるなんて知らなかった。

 しかしねねが言うように乱銅さんがわさび寿司を引いて、ダイスでねねが当たれば、乱銅さんはねねのお願いを聞かないといけない。

 いやまてよ、もし乱銅さんの夢が秘密であるのならば俺は絶対に死守しないといけないのでは?

 となれば俺は乱銅さんに協力して罰ゲームを回避させないといけない。

 ものすごく面倒くさくて嫌だけど仕方がないか……


「あ、あの。やっぱり、俺が乱銅さんのお寿司をとるよ」


「おにーさん、一体どうしたんですか? さっきまであんなに嫌がっていたのに」


「いや、ちょっとね。俺もみんなの前で女子に食べさせてもらうのは恥ずかしいからさ」


 ねねはパンっと手を合わせて、


「そですか。じゃあおにーさんにお願いするとします」


「斉藤すまんな。助かる」


 ここはなんとしてもわさび寿司を回避して、乱銅さんを助けなければならない。

 残りのお寿司は11カン。

 どれにわさびが入っているか俺にはわからない。

 というかこの場面俺の時より緊張するだけど。

 俺は震える手をおさえて乱銅さんから一番遠いお寿司を選び、乱銅さんに向かって、


「お寿司選んだので、口を開けてもらっていいですか?」


「わかった、頼む」


 乱銅さんはそう言って、口を大きく開く。

 そして俺は乱銅さんの口にゆっくりとお寿司を運んだ。


 俺はごくりと唾を飲み込み、乱銅さんの顔を注視する。

 もぐもぐと今のところは大丈夫そうだ。

 頼む、ワサビ無しのお寿司であってくれ。


 それから数秒経って、


「つよぽんっ、大丈夫ですかっ!?」


「ら、乱銅君泡ふいてるわよ」


 俺は不運にもワサビ寿司を乱銅さんに食べさせてしまったようで、

 乱銅さんは座ったまま泡を吹いて気絶してしまったのである。

 この人本当にさわびダメだったんだな。


 しかし運命共同体である俺と乱銅さんは一体どうなってしまうのだろうか……


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みなさん、いつも応援ありがとうございます。

次週で地獄のケータリング編は最後です。

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