第54話 地獄のケータリング3

 あれから数十分が過ぎ、飲み物を調達していた凜さんと誉ちゃんが戻ってきた。

 リビングに入るなり、凜さんは眼前の光景に、


「あれーお寿司って、ケータリングだったのね」


 至極当然のリアクションである。

 俺だって出前だと思っていたんだから。

 ねねは二人にかけより声をかける。


「凜おねーさん、誉ちゃんおかえりなさいませ」


 まるで主人を待っていた子犬のように駆け寄るねね。

 本当に可愛いなーこいつは。

 一家に一台、いや一人か、いたら癒し要因となるだろう。


 凜さんの後ろにいた誉ちゃんもまたケータリングという事を知り、ねねに話しかける。


「よくやったわね。あとでプログラミング教えてあげるわ」


 誉ちゃんも上機嫌のようだ。

 乱銅さんがいることだけは想定外だが今のところ平和である。

 おや? 凜さんをみると、きょろきょろとお寿司屋さんを見ている。

 一体どうしたのだろうか。


「あら?」


 凜さんがお寿司屋さん、もとい乱銅さんに話しかける。

 続けて凜さんは、


「乱銅君?」


「うっす。ま、まさか橘もいたのか」


 乱銅さんが照れくさそうに言う。

 あれ凜さんと乱銅さんは知り合いなのか?

 凜さんと乱銅さんの様子をみて、ねねが割ってはいる。


「お二人は知り合いなんですかー?」


「ええ、そうよ。だって同じクラスだもの」


「へー。凜おねーさん。つよぽんと同じクラスだったんですね」


「もしかして、お二人って付き合ってたりしますか?」


 ねねの突然のぶっこみに凜さんは、


「はいはい、からかわない」


「えへへー。ごめんなさーい」


 さすがというべきか、凜さんはさらりとねねの質問をかわす。

 俺は如月さんと付き合っているわけだから、凜さんの恋愛事情にとやかく言う権利はないが、乱銅さんだけはやめてくれ。

 と、凜さんが続けて、


「だって乱銅君には夢があるもんね」


 ”夢”というキーワードにひっかかる俺。

 乱銅さんにどんな夢があるのだろうか。少し気になるな……

 乱銅さんは少し照れくさそうに、


「絶対言うなよ」


「はいはい」


「な、なんですかー。気になりますねー」


 俺なら絶対聞けない質問をねねが聞いてくれた。

 まるで俺の代弁者だ。

 よく言ったねね。

 頑張って聞き出すんだ。

 乱銅さんはねねに向って、


「だから秘密だって言ってるだろう」


「ぶーぶー。教えてくれてもいいじゃないですかー。凜おねーさんは知ってるのにずるいです」


 ねねは食い下がらない。

 そうだ。ずるい、ずるい。

 俺も知りたい。

 ねね、負けるな。

 乱銅さんが回答に困っている様子を見かねて凜さんがねねを諭し始める。


「まぁまぁ、この話題はこのへんでおしまいにしましょ。乱銅君はお仕事中なんだから」


「そう、早くあたしにお寿司を献上なさい」


 凜さんに誉ちゃんが加勢する。

 相当お腹がおへりのようだ。

 二人の加勢に押され「わかりましたー。知りたかったですが。また今度にします」と、ねねは渋々承諾する。


 それから乱銅さんは黙々と作業を進め、それから間もなくしてケータリングが始まったのである。

 と、現在の構図だが、俺の家はそんなに広くないので、ダイニングテーブルを乱銅さんに提供した。

 ソファーに誉ちゃんとねね。

 リビングのローテーブルを囲むようにリビングから移動した椅子に俺と凜さんがそれぞれ向かい合って座っている。


 乱銅さんの目の前には光り輝くネタ達。

 女子たちは目をきらきら輝かせている。

 新鮮なネタは本当海の宝石である。

 お寿司屋さんが乱銅さんということだけ気になるが、、この新鮮なネタ達には罪はない。

 楽しもう、楽しませてもらおうじゃないか。


 皆それぞれ食べたいネタを乱銅さんに言って、握ってもらうことになった。

 誉ちゃん、凜さん、ねねと女子たちが注文していく。

 一通り握り終えたところで俺の番がきた。

 女子たちが談話している中、俺は乱銅さんの前までいき、声を絞りだす。


「ら、乱銅先輩、お願いします」


「おう」


 俺は乱銅さんにお勧めを注文したのだがすごい緊張感である

 しかし思いのほか普通に対応してくれている。

 もっと圧迫されるのかと思っていたのだが……今日の俺は一応お客さんだからな。

 お皿にきれいに並べられていくお寿司達。

 思わずごくりと唾を飲み込んでしまった。


「おまちー」と言われたので、俺はお寿司がのったお皿を取ろうとしたのだが、

 超低音のボイスが俺に耳に届く。

 これは紛れもなく乱銅さんの声。


「斎藤よ」


 言葉を詰まらせながら「はい」と答える俺。

 乱銅さんは続けて、


「お前詩愛ちゃんがいるのに、なんでこんなに女子に囲まれてるんだ? 返答によってはわかってるな……」


 この状況を見れば、至極当然の質問である。

 ねねだけでなく、凜さんに誉ちゃんもいるのだから。

 乱銅さんを見ると仏のように笑っていたのである。


 俺は三枚におろされるのだろうか。

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